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8.人間という名の武器―5


 どういう事だ? とアームドという種族の事をあまり知らないアギトは眉を顰める。

 それに応えるのは当然レギオンだ。

「アームドってのはな。自身の身体を武器へと変える事の出来るへんちくりんな種族なんだ。だが、武器にはなれど、それを操る人がいなきゃ何にもならない。本当に、ただ武器になるだけだからな。いっちまえば人間から武器への変身って事だ」

「そうなのか」

 アギトは言葉からなんとかその光景を想像し、分かったように頷いた。そして、

「って事は、お前みたいな、自身の身体の一部を武器にして自身で戦うってのァ、アームドにとっても特別な存在って事か」

「そうだ。まぁ、俺は『全身武器の状態』で戦えるんだがな」

 そう言ったレギオンは少しばかり遠い目をしていたように思えた。

「それにしてもさ、」と、アヤナが会話に入る。「生き延びてたのね、アンタ」

 首肯して返すレギオン。二人はアカシック・チャイルドの生き残りである。アカシック・チャイルドの生き残りは最後のアヤナ達だけで、生き残りがいるというなればそれは全員が所謂同期であるのだ。当然の如く、二人は面識があった。

「そりゃあ、アン時は大変だったさ。ギルバの暴走。それに研究所の炎上。まだ戦い方も知らない俺達は当然あの状況に困惑してパニックになったさ。あそこから脱出してからは……、なんとかこの街に戻ろうと必死にもがいてたな」

 そこまで言ったレギオンはアギト、エルダの表情を探る様に一瞥して、

「ま、昔話はこれくらいにして、」そこで、眼前の机に肘を付き、「これからの話しを聞こうか?」

 と、アギトへと視線を固定して不敵に笑んだのだった。




   27




「フレミア、全く貴様は面白い事(余計な事)をしてくれる……」

 何もないかと思われる、それこそフレミアの様な真っ白な空間。距離間を全く掴むことの出来ない白、アクセスキーの様な純白一面の空間の片隅(中心)に、色はあった。壁があるのかも分からない空間に、ドームを作るようにして複数のモニターが浮かんでいた。空中投影モニターか、それとも見えない、存在するかも分からない空間に埋め込まれているモニターなのかは見ただけでは判断が出来ない。いや、触れる事が出来たとしても判断は出来ないだろう。

 そこに映し出されるのはありとあらゆる事象。森羅万象といっても過言ではないかも知れない。その複眼の様な、複数のモニターの一つに、漆黒の傭兵が戦場を駆けている姿が映し出されていた。その姿は当然アギト。言わずもがな、そうである。

 モニターの中でアギトはレギオンと共に疾駆していた。荒野を走り、向かってくるバケモノ共を次々と蹴散らし、何処か目標へと向かって駆けている。

 そして、この場にいる『二人』はそのモニターだけを見詰めていた。

 一方はフレミアだ。この場に溶け込むかの様にして、オーロラの様に揺れ、漂っている。

 そしてもう一人は――。

「『あの武器』も貴様が用意したのだろう? そして、私を止めるために力有る者へと委ねた。非人道的な手段を使ってまで、な」

 アクセスキーの様な、純白一色の、背景に溶けてしまいそうなスーツを纏った白髪に薄い白髭の老人。そう言った老人は自身の斜め後ろに立つフレミアを見ずして言った。表情には不敵な笑みが張り付いている。

 フレミアは何も言わない。ただ、老人の背中を見つけて、ただ、ただ、黙って、そうしているだけ。

 そんなフレミアを無視してか、老人は続ける。

「間違いも犯したようだが、順調に事は進行している。素晴らしいじゃないか。フレミア。で、貴様は『あの男』が私を倒しに来ると踏んでいるのか?」

 その言葉に、今まで大した反応すら見せなかったフレミアは首肯した。

「……正直に言えば、そう。アギトが、アギトなら、ここまで来ると信じてる」

 そこでやっと、老人は振り返った。首だけで振り返って、ニヤリと笑んで問う。

「で、『お前をも救ってくれると』信じているのか?」

 対してフレミアは視線を上げ、しっかりと老人を見詰めて首を横に振る。

「私を救ってもらおうだ、なんて考えてない。……確かに、最初は期待していたけど。でも、今は違う。アギトは『あのディヴァイド』を救う。決して、私じゃない」

「ハハッ! いいよな。面白い事態だ」

 そう言った老人はそこでやっと完全にフレミアと向き合うようにして振り返る。

 そして、

「だがな、飼われる立場の者は籠に入って大人しくするモノだ」

 そう言いきった瞬間、老人の表情は険しい、荘厳な物へと変わった。

「貴様の存在は必要だから故生かしておいてやる。だが、邪魔はするな。邪魔者は排除。それが、世界のルールである」

 その言葉、そして老人がフレミアを強く睨むと同時だった。何もない空間から、突如としてソレは出現した。フレミアの足元から無数の、金色に輝く棒が飛び出し、伸び、フレミアを囲ったのだった。その形はまさに鳥篭。そう、これは、フレミアを閉じ込める牢獄である。

 一件すれば物理的な拘束であるが、ここは電脳世界。その効果は見た目の内に留まるはずもない。

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