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8.人間という名の武器―3 


 言葉、そしてその内に秘められた威圧にアギトは思わず辟易する。だが、そんな事は心中にしまいこんで冷静を装い、アギトは忌々しげに吐き出す様にして返すのだった。

「……なんでお前と戦わねければならない?」

 答えは早い。

「お前の力を見定めなけりゃならねぇからだよ」

 そう言ったレギオンは、空手の型の様な構えをし、アギトを挑発する。

 対してアギトは怪訝に眉を顰める。刀状のアクセスキーを握る手に力を込めて警戒を強めるが、正直な所、あれだけの力を持った人間と対峙するのは忌避したい事態だった。自身を思わず憐憫に思ってしまいそうな程、だ。忌憚したいが、とアギトはレギオンの様子を伺うが、どうも、逃がしてもらえそうにない。

 すぐ近場でアヤナ、エルダは未だ戦っている。助けは期待できないし、邪魔をするわけにはいかない。何せエラーから出ているバケモノと対峙しているのだ。殺さず遁走するなんて選択肢はアギト達には選べない。

 仕方ない。アギトはそう口内で溶かして、刀の形を取るアクセスキーを構える。

「いいぜ。良く判らないが、向かってくるってなら相対する他ないからな」

 そう言うが、アギトが焦燥を感じているのは事実。

 アギトが刀を構えたその瞬間だった。突如として、レギオンは疾駆。そして気付いたその瞬間、アギトの懐にはレギオンの影がある。

(早い……!!)

 戦慄した。だが、その余韻すら感じる暇はない。アギトはほぼ条件反射で刀を振るい、バックステップでレギオンから数メートルの距離を取る。

 追撃が来るか、そう思ったアギトだったが、レギオン何を考えているのか、一度距離を詰めた所で一旦足を止めたのだった。

 そして、吐き出す様にして言う。

「やっぱ、噂がそれなりに立つだけはあるな」

 そう言ったレギオンは、フードの下から覗かせる怜悧かつ興趣を貼り付けた視線をアギトへと向けて、――発動。

 それは、アクセスキーの力ではない。そう、それは、『アームド』としての力。

 レギオンの身体が、ベキベキと、メキメキと骨を打ち崩す音をたてながら、恐ろしく変化した。その瞬間は一瞬。だが、どうにも長く思えた。

 そして見えるレギオンのアカシック・チャイルド故に手に入れたアームドとしての、異質な力。

 レギオンの両手が、恐ろしく変化した。人間らしかった指は包丁、いや、刀の様に尖り、鈍い銀に変化し、淀んだ輝きを放っている。

 それはレギオンが適当に指を動かすたびにカチャリと金属音を立てている。その音を聞く限り、それが恐ろしく鋭利で、固いというのは明瞭な事実だった。触れただけで全てを断ち切ってしまいそうなソレは、握るという事も出来る恐ろしい武器。

「ナンだよ、それァ……?」

 アギトがアームドと対峙するのは初めてだ。まさか、アームド全員がこんな能力スキルを持っているのか、と思わず億劫になってしまった。

「何って、アームドとして、武器になったまでだって、のッ!!」

 そしてレギオンは再び疾駆。その速度はやはり、恐ろしいまでに早い。気付けば、レギオンはアギトのすぐ眼前にいた。恐ろしいまでに早いその脚力、能力にアギトは戦慄を隠せない。

 どんな能力があればこんな恐ろしい力が、とアギトは思うが、そんな暇すら危うい。

 レギオンの鋭利な指、もとい爪が交差し、斜め二閃となってアギトを切り捨てようとする。だが、アギトも歴戦の勇者だ。なんとか反射を追いつかせ、縦に構えた刀でそれを受止める。

「ッう!」

 金属が打ち合う音が炸裂、拡散する。そして――アギトは、押し切られた。

(なんつー力だってんだよ!)

 ダメージはない。だが、アギトは容易く圧されてしまった。足を踏ん張り、引きずられるようにしてアギトは後方へと大きく下げられてしまう。

「くっそ!」

 表情を上げる、と、すぐ眼前に、レギオンの真っ赤な姿。

 早い。余りに早すぎた。レギオンは瞬間移動と言って良い程の速度での移動を現実に可能としていた。

 スカーエフのアレとは違う。確かに、地に足をつけた移動なのだが、どうしても、目で終えない、アギトの鍛錬された神経でも終えない、恐ろしい程の速度である。

 一瞬の攻撃。レギオンは移動速度のみにならず、攻撃の速度も恐ろしく速かった。上から斜め下に振り下ろされる鋭利過ぎる手。

 アギトの反射神経では追いつかない。いや、何者もそれには追いつけやしない。

 ザックリと、ナイフで紙を切り裂く様な、余りに潔いダメージが、アギトの肩から横っ腹までを切り裂いた。

「ッ、あ」

 当然、そこからは鮮血が噴水の様に噴出す。新調したばかりのロングコートは一瞬にして破け、血に塗れ、当然の如く紫色に染まる。

 レギオンは血を嫌うか、アギトを切り裂いたその瞬間、恐ろしい程の速度でバックステップし、距離を取っていた。

 アギトは膝を落さないようになんとか踏ん張る。だが、どうしても、力が抜けてしまうのは事実だった。

 そんなアギトの姿を見て、レギオンは笑みを消した。

 そして、見るに耐えない程退屈そうに言うのだった。

「なんだ。その程度かよ」

 そう言ったレギオンは、どうしてなのか、真っ赤なパーカーを脱ぎ捨てた。そして見えてくる『レギオンのアクセスキー』。

 レギオンの身体に、ソレは張り付いていた。

 まるで振るいアニメや漫画にでも出てきそうな、強化装甲とでも言うか。それの本体はレギオンの背中にある。それは、丸い円盤の様な、純白の塊。そこから針金の様な、紐の様な、細い何かがレギオンの四肢に伸びている。

 それを見て、アギトは気付く。

「能力の強化か……」

 アギトの言葉に、レギオンは静かに首肯。そして、言う。

「そうだ。俺のアクセスキーはフレミアの特注。俺のアームドとしての能力」右手を掲げ、「を考慮した上での、強化骨格だ」

 アクセスキーには元々、自身の身体能力を高める力がある。だが、レギオンのそれは、それだけに特化したアクセスキーなのだ。スキルも当然そうであり、装備した際に発動する効果もそれ。

 自身が武器となるアームド、レギオン。これ以上の強みはない。

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