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8.人間という名の武器―2


「オ、オォオオオオオオオ!」

 そして、衝突。激しい衝突音が炸裂。三人と三匹の戦いは三つに分断される。

 まずはアヤナ。アヤナが向かった屈強な騎士。アヤナの巨大な鎌状のアクセスキーによる重い一撃が振り下ろされる。だが、その容姿通りか騎士は固い。アヤナの鎌は騎士に衝突したそこで、動きを止めた。

「くっ……やっぱり固いわね……」

 アヤナは騎士の懐で騎士を忌々しげに見上げる。そして対するは、騎士の兜から除く人間のモノとは思えないおぞましい瞳。騎士は左手を伸ばし、自身の体に張り付いた鎌の刃を掴もうとする。

「ッ、」

 見たアヤナは判断。そして、咄嗟に身を引く。続けてバックステップ。距離を取り、戦い方を見定める。

(こんな固い相手、どうすれば良いってのよ……)

 そしてエルダ。エルダはハンドアックスを握り締め、棘の目立つ騎士へと突っ込んだ。が、完全に向かいきる直前で足を止め、エルダはそこでハンドアックスを振り切る。スキルが条件発動し、ハンドアックスは巨大化する。そして強烈な横一閃。

 だが、しかし。エルダのその軌道は逸らされた。騎士の鎧のアチコチから生えている円錐状の棘とハンドアックスの刃と衝突し、打ち合って流される形で軌道を逸らされたのだ。そうして一閃を逸らされたハンドアックスの威力は意図せずとも落されてしまう。

 故に、振り切れない。

「思ったよりも面倒な鎧だね……」

 エルダは即座に身を引いて、騎士と距離を取る。

 すると、だ。距離が出来た事に騎士もチャンスを見抜いたか、そこで騎士の右腕が光、輝き始めた。何か、と見てみれば、そこには武器が出現する。光の粒子が消滅し、騎士の右手に残ったのは円錐状の刀身を持つ槍の様な剣であった。

 騎士は武器を構え、掲げるようにしてエルダへとその切っ先を向ける。

「……、面倒な戦いになりそうだね」

 エルダはそう一人吐き出して、ハンドアックスを握る手に力を入れなおす。

 そして、アギト。

 アギトは巨人に向かって突進する。絶対に止まる事のない勢いを乗せて駆けたアギトはそのまま、巨人へと跳んだ。そして、両足で巨人の腹へと突っ込む。が、やはりと言った具合にアギトは跳ね返された。その際に実感した感触で、アギトは巨人がローブの下に鎧を装備していると知る。

「面倒だな……」

 巨人の腹を蹴って飛びのいたアギトは忌々しげにそう吐き出して、アクセスキーを振る。そして、刀から形を変え、アクセスキーは分裂。アギトは久方振りの二刀流となる。

 両手に刀のアクセスキーを装備したアギトは体勢を低くし、そして、足に集中。力をため、それを全て解放するように、地を蹴り、疾駆。

 向かってきたアギト目掛けて巨人は鉈を振り下ろす。だが、アギトは直線軌道を変えてそれをギリギリで避けた。アギトの通った道のすぐ横で鉈の切っ先が地面をえぐり、轟音を放ちながらタイルを跳ね上げた。

 その間にもアギトは進行。もうスピードでアギトは巨人の股を潜る。そして、巨人の股を抜ける際に両手の刀を振るう。アクセスキーの刃はそれぞれが対照的な軌道を描き、巨人の足の腱を断ち切る。感触は確か。刃は確かに巨人の足に食い込み、そして振り切れた。

 スライディングするように、アギトは巨人の股の下を抜ける。数メートルすべり、距離を稼いだところで自制し、立ち上がり、振り返る。

「やったか?」

 腱を断ち切ったのだ。立っては居られまい、ともくろんだアギトだったが――、巨人はゆっくりとした動作で、振り返ったのだった。

 その光景にアギトは冷や汗を噴出す。

「オイオイ……やっぱ人間と一緒じゃねぇってかよ。どうしろってんだよ。ボケ」

 言いながらアクセスキーを振るい、刀の形へと戻す。

 そして、仕切りなおし。だが、アギトが不利だというオマケがついた状態での仕切りなおしだ。

 忌々しげに糸切り歯を噛み締めるアギト。そして、そんなアギトの心境を察したか、巨人は鉈を担いだ姿のまま、ジリジリと、だが大きな一歩でアギトとの距離を詰める。

(さて、どうすっかね……)

 アギトは逃げる事は出来ない。巨人の手が届く範囲に入るまでに何か策を思いつこうと必死に考えるが、攻撃を避け、時間を稼ぐ以外の選択肢を今は思いつかなかった。

 だが、そんな時だった。

 ――巨人の上半身が、吹き飛んだのだ。

 それは一瞬。それは瞬きする間もない短い時間の間に出来た出来事。

「は?」

 突然の光景にアギトは思わず間抜けな表情で驚いてしまった。本当に、ただ、吹き飛んでしまったのだ。へそから下、つまりは下半身がただ屹立する状態。その上、上半身はどうしてか派手に吹き飛んで、『紫色』の光の粒子となって風に流される様にして消滅したのだった。続いて、下半身が膝から崩れ落ちる。そして完全に堕ちると同時に、下半身も紫色の粒子となって消滅したのだった。

 その紫色の光の粒子が風に流され、消滅して見えてきたのは――一つの人影。

 目に痛い程の真っ赤なフーディパーカーが揺れている。フードは目先まで深く被られているが、その下の鋭利な、アギトのそれとはまた違う鋭利な表情は容易く見て取れた。下は赤色と合わせているのか、真っ黒なジーンズを履いている。ブーツの色も真っ黒で、ズボンとの境目は見えない。

「お前が、アギト、だよな?」

 赤いフードの下から鋭い瞳が覗く。

「あんだよ、お前。行き成り飛び出てきて人の獲物とって満足か。ア?」

 アギトも強気で返す。だが、心中に「助かった」という気持ちがあったのもまた事実である。そして、あの屈強な巨人を一撃で、一瞬で吹き飛ばしてしまった赤い男の力畏怖しているのもまた事実である。

 赤い男はアギトと向き合って、フードの下で微かに笑う。

「俺はレギオン。アクセスキー所有者だ。お前と同じ、な」

 そういったレギオンは、両手を広げ、何かをアピールする。その手には何もない。だが、どうしても、そこに何かある、とアギトは思わずに居られなかったのだった。

 眉を顰め、怪訝にアギトは問う。

「聞かない名前だ」

 だが、レギオンは首を横に振って、

「アームド。それは分かるだろ?」

「お前、アームドなのか……?」

「あぁ、そして……『アカシック・チャイルド』だ」

「!?」

 まさか、こんなところでその言葉を聞くとは思っていなかったか、アギトは素直なまでに驚いたのだった。

 そして、その言葉に反応したのはアギトだけではない。近くで未だ騎士とそれぞれ相対しているエルダ、アヤナも当然反応する。

 騎士の攻撃を受止めながら、アヤナは声のした方へと視線を一瞬だけ流す。

(レギオン……!?)

 そして、気付いた。当然だ。アカシック・チャイルドの候補で生き残っているのはアヤナとの同期のみだ。アヤナがその顔を知らないはずがない。

 ともかく、戦いを終わらせなければならない、とアヤナはすぐに視線を騎士へと戻して集中。

「……で、レギオン。テメェ何しに来たってんだよ?」

 話しを切り替え、アギトは問う。派手な登場をかました以上、何か理由がるのだろ、と。

 対してレギオンは、笑う。その笑みはギルバのそれよりは威圧感はないものの、思わず身震いしていしまいそうな程の気持ち悪さがあった。

「何って、お前と戦いにきたんだよ。分からねぇか?」

 レギオンは気軽に返す。それはもう、アギトを格下だと、見定めている対応であった。


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