8.人間という名の武器―1
アギトはオラクルに予言を頼んだその日から、ずっと調べていた事があった。それが、アクセスキーについて、だ。アクセスキーは武器となる種族『アームド』の存在によって作られた武器である。それはオラクルによって明瞭な事実となった。アギトは、そのアームドについて調べていたのだ。
(アクセスキーをもっと強くするには、いや、俺が強くなるには、もっとアクセスキーの事を知らなきゃならねぇ。ただ、エラーを閉じるだけじゃダメだ)
アギトは強く願う。あの時、ギルバをなんとかいなしたものの、何か一つでも状況が違えば負けていた可能性は否めない。今後、また、再び、ギルバと――ルヴィディアと――対峙した際、負けない様に、鍛えなければいけない、と。心身ともに、当然だ、と。
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アカシック・チャイルドはアヤナ、ギルバと判明したのだが、その二人だけが生き残ったわけではないのは、アヤナ、ギルバともに分かっている。
「はぁ……アクセスキー、ねぇ。こんな皮肉もあるんだ」
大陸はユートピア、街の名はヘータ。そこに、『アームド』はいた。やたらと広いロフト付きワンルームの薄暗い、バーの様な雰囲気を醸し出す事務所に、そのアームド、そして、アカシック・チャイルドはいた。
フード付きの大きめの真っ赤なパーカーを羽織り、そのフードを目先深くまで被った男が、そこにはいた。
男の名は『レギオン』。このアームドの集落である街ヘータに生まれ、ヘータでアームドとして育ったレギオン。そして、ただ唯一アカシック・チャイルドの候補になった、アームドだった。
レギオンは小豆色のソファーに腰を深く掛け、足を組んで手元にある『ソレ』を眺めていた。それは『アクセスキー』。フレミアから托された、アクセスキーだった。レギオンがフレミアにアクセスキーを托されたのはつい最近の事。アギト達の力になれば、とフレミアが新たに作り直したモノだ。当然、レギオンはアクセスキーがアームドの人間によって作られたモノだと感じ取る事が出来たし、フレミアも抵抗があった。だが、レギオンは『力』を持っている。そしてタイミングよく、アギト達がレギオンのいるヘータへと向かう事を知ったのだ。彼に渡すのが、一番だ、とフレミアは思ったのだろう。
レギオンに渡されたアクセスキーは少しばかり特殊な形をしている。それは、今までなかった形を取った結果である。そして、レギオンの『力』を考慮した上で、使い易いように設計した結果だった。つまり、フレミアはレギオン特注のモノを作ったのだ。
「アギト、ねぇ……。その力、ためさせてもらおうか……」
レギオンはその、小さな骸骨を模した楕円形の薄いアクセスキーを放り投げ、それをキャッチして、不敵に笑んだのだった。
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「これは問題ね。そう、とても重要な問題。異常事態よ!」
アヤナは何故なのかグッとガッツポーズを決めて、そう声を荒げた。動きこそガッツポーズだが、その拳は震えていて、苛立っている様に思える。
そんなアヤナがいるのは建物の影。そして、そこから覗き見る光景は――アギトの背中。そしてその隣にはエルダの背中。
アギトの提案でヘータへと向かう途中。エルドラド大陸からアルカディア大陸へと渡って、そこからまた船でユートピア大陸へと渡ったアギト達は、一時の休憩としてテータというヘータの近くの街でホテルを借り、三日ばかしの休息を得ていたのだ。そしてやってきた自由時間。修学旅行の学生の気分か、アヤナは『あの予言』を聞いてから妙にアギトを意識してしまっていて、「たまにはデートみたいな事でもしたいな」と考え、アギトを誘おうとしたのだが、既にそこにアギトの姿はなかった。そしてふてくされながら外をぶらぶらと徘徊していたら、アギトの姿を見つけた。そして、この様だ。
(あれじゃまるでデートじゃないのよ!)
アヤナは苛立ちっぱなしである。その純白の肌を真っ赤に染め、フードの下に隠した目には力が込められ、やたらとつりあがっている。
アヤナの尾行は怒り、我を忘れながらもちゃんと距離を取ってしているからか、二人がアヤナに気付いてはいない。少なくともアヤナはそう思っている。
アギトとエルダは会話を交わしながら、道を歩いている。それだけ、ただそれだけの光景なのだが、アヤナの目には二人は楽しく談笑しながらウィンドウショッピングを楽しんでいる、と映っていた。
むきー! と声に出してしまいそうなアヤナは唇を噛み締めて必死に自身の内で犇く嫌な感情に耐える。だが、考えないようにしようとも、忘れようとも、後から入ってきたくせに、出会ったばかりのくせに、と考えてしまい、アヤナは自己嫌悪に陥るのだった。
「む、むおおおおおおおおおぉ……」
そしてアヤナは街の一角のビルの裏で、変なポーズをしながら頭を抱えるのだった。
そうしている間にもアギト達は坦々と進み、アヤナの視界から外れてしまう。そこでまた、追いかけないと、と思ってしまう自身に苛立ちながらも、アヤナは追いかけるのだった。
そして次の曲がり角でみたのは――エラーが出現する光景。
既にアギトがアクセスキーを構え、エルダが付近にいた民間人を非難させている、そんな光景だった。
「エ、エラー!?」
まさかのタイミングでのエラーの出現にアヤナは思わず驚いてしまった。が、仲間として立ち止まっている訳にもいかない。アヤナは即座にアクセスキーを出現させ、二人の下へと駆け寄るの。
「アギト! エルダ!」
「あ、アヤナだ」
「うぉお!? アヤナなんでこんな所に!?」
アギトが異様なまでに驚いた事にアヤナは僅かに苛立ちながらも、
「偶然通りかかったのよ! それより、エラーを!」
アギトの横にアヤナが並び、エルダも民間人の避難誘導を完了させて三人、エラーの前へと並ぶ。
アギトが先手必勝と柄状のアクセスキーをエラーへと向けてエラーを閉じようとするが、やはり、弾かれてしまう。
そして、直径三メートル程にまで拡大したエラーから、バケモノが出現する。
それは、アギト達と合わせるかの如く、三つの影。一つは鋭利な棘が目立つ鎧騎士。もう一つは、四角いブロックが目立つ屈強そうな鎧騎士。そして最後の一つは――やたらと大きな影。その風貌は他二つの騎士、なんて比喩は出来ず、ただ、巨人というべきだった。目測での身長は大よそ三メートル。新緑のローブを纏う、巨大な鉈の形をした剣を持つ、大男だ。表情は角の生えた兜によって隠されているが、その下の表情が醜く歪んでいるのは容易く予想できた。
「デカブツは俺がやる。後の二つを頼んだ」
「りょーかいっ!」
エルダは棘々しい騎士へと疾駆。
「うん!」
そしてアヤナは屈強そうな騎士へと向かう。
二人よりワンテンポ遅れて、アギトが巨人へと駆ける。




