冒険は始まっていた
ぱち
目が覚めると俺は見知らぬ部屋にいた。
見える天井は木をまる削りしたような木目、そして今まで嗅いだことのないくらいの木の香りが胸いっぱいに広がっている。
風が気持ちいい・・・。
どうやらベットに寝ているようで、すぐ左側には大きな窓があり、全開に開いた窓からとめどなく風が吹いている。
ここはどこだろう。
外を見たくて体を起こすとキーンと頭が痛みだして、同時にコントのような馬鹿でかい氷袋がおでこから滑り落ちた。
「・・・ふ」
氷袋は取り替えたばかりなのか、中の氷が全然溶けていない・・・というか氷しか入ってない。
頭を冷やしてくれていたんだろうけど、むしろこの氷袋のせいで頭痛がするのではと思うほどの氷の量に、俺は思わず笑っていた。
「目が覚めたかい」
「わっ!!」
一人でにやけていると窓とは反対側からいきなり声がして、俺は猛烈に驚き振り向いた。
すると部屋には誰もいないのだけど、広いベットの端っこ(正確に言うと俺の右足元)に白い毛に銀色と青色のぶち模様のある珍しい猫が、いつのまにか両足を揃えて座っているではないか。
いつの間に猫がいたんだろうと思いつつ、人は居ないぞ・・・と呆気にとられていると
「気分はどう」
とまた声がした。
しかも猫の方から。
俺がまさか・・・とさらに呆気にとられていると、今度は確実に猫の口が動くのを見てしまった。
「そんなに僕が喋るのがびっくりする?」
猫は不思議そうに言うと真ん丸な目をぱちくりさせた。
信じられん。
俺は猫が喋ったのを見るが否や壁まで後ろに後ずさった。
猫の声は若く、艶々の毛が窓から入ってくる風で揺れている。
「だ・・・だって猫は喋らないもんじゃ」
やっと絞り出せた声。
けれど猫は首を傾げながら
「変なことを言うね。喋る猫は沢山いるじゃないか。現に僕も喋ってるし」
と言うではないか。
いや確かに目の前の猫は喋っているけど、ありえないことだ。
うーん、これは夢なのかもしれない。
俺は猫から目線が外せないまま右頬を思い切りつねった。
「いったあ!」
めちゃめちゃ痛かった。
そんな俺を見て猫は丸い目をさらに大きくする。
そして平然と言った。
「君、名前は?それに変わった服を着ているね」
俺はそう言われて自分の服装を見たが、朝と変わらず男子校の制服のシャツ姿で、変なのはお前だ!と心の中で猫に叫びながら答えた。
「久原椎太です。あの・・・ここは?」
「クハラシイタ?名前まで変わってるね。僕はナシャ。ここは城下町の外れの山の上の森」
城下町だって?俺の住む町にはお城なんてないぞ。
てか猫!
普通に自己紹介されちゃったけど、この状況ありえないし。
それにナシャ・・だっけ?
全然猫の方が変な名前だし!
色々と理解出来ずに俺が口をパクパクしていると、ナシャがすくっと立ち上がり「外を見てごらん」と窓際に移動した。
そういえば窓の外をまだ見れていなかった。
俺はチクチク痛い頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
その瞬間ぶわっと風を体いっぱいに感じた。
「・・・うわ!」
目の前に広がる景色のあまりの美しさに、俺は思わず声を上げていた。
窓を沢山の葉っぱが覆うのだが、隙間から真っ先に目に飛び込んできたのは、青い空と鮮やかなオレンジ色した屋根が軒を連ねる街が広がる光景だった。
街には沢山の人々がいて、賑やかな声が聞こえてくる。
確かに街の向こうには、沢山の塔から建つお城がオレンジの旗を揺らしながらあるのだが,想像していたお城とは違って、洋風?とでも言うのだろうか・・・とにかく日本にはないような立派なお城が建っている。
この家が山の上というだけあって見晴が最高で、街の向こうには草原が広がっているのが見えた。
「・・・まるで外国」
そう思わずつぶやいていた時には、一瞬の感動も消え、血の気がさーっと引いてきていた。
ここは・・・どこだ?
とても綺麗な街だけど、ここは日本じゃないと直感的に思った。
草原を見て思い出したけど、そういえば何時間も道なき草原を彷徨ったではないか。
「ありえないとは思うけど・・・君は異国の子じゃないかい?」
見たことのない街の姿に固まっていたが、ナシャの言葉にハッとする。
「え?」
ナシャは猫なのに、表情が神妙なのがわかる。
異国?なにそれ。
でも、ここはどこなんだ。
聞きたいようで聞けない。
だってここは俺の住む町ではないのは確かだから、返事を聞くのが怖い。
俺は動揺しっぱなしだった。
ナシャが喋りだしたその時から動揺を隠しきれない。
「シイタ、ここはエト共和国。時の止まった国・・・通称ネバーランドだ」
ぐらりと眩暈がした。
想像もしないことを言われて理解が出来ない。
「ネバーランド?・・なにそれ。俺の住む町はそんな名前じゃない。猫も・・喋らない」
声が震えた。
こめかみからは嫌な汗がつうっと流れる。
「やはり君が・・・。王族の奴らめ、遂にやってしまったのか」
ナシャは信じられないといった様子で驚き、クソっと小さく呟いた。
そして言うのだ。
俺は草原で倒れていたと。
助けた時から異国の者ではないかと疑っていたと。




