プロローグ3
幸哉は夢を見ないって言ってたし、とにかく俺の話が信じられないようだった。
俺にしてみればこの夢は今じゃ当たり前で、でも違和感がなかったわけでもなく、やっぱり変なのか・・・と部屋の天井を見ながら思った。
大人しくなった俺を見て、幸哉は言う。
「なにせ夢だからアドバイス的なこともできないし・・・なにかメッセージを伝えたいのかな。あ、助けてくれって言ってるか。まあさ、最近毎日見るってことは近々進展があるんじゃない?」
「ええ!?進展あるの?」
進展があるとしたら俺が血まみれ男を介抱するのは確実で、夢の中とはいえそれを想像したら初めて少しだけゾッとした。
「かもねの話だよ。俺には全然わからん。でも気になるからまた何かあったら教えなさい」
「・・はあ」
「てかもう終わるな、夏休み」
幸哉が時計を見て言う。
俺もむくっと起き上がって時計を見ると、もう11時になっていた。
「早いなあ。楽しかったよなー。幸哉、お前やり残したことある?」
俺はこの瞬間にはもう夢のことは忘れていた(だからダメ)
頭の中は楽しかった夏休みの思い出でいっぱいなのだ。
海には6回も行ったし、ここら辺のプールも一通り制覇したし、遊園地も3回行って、高校の友達の試合があるたびに応援に駆け付け、毎晩のように花火や肝試しをして、お祭りもほぼ制覇し、なにも予定がない日は当もなく原チャリでひたすら走った。
地元の友達や高校の友達と団体で遊ぶのだが、ほとんどの奴が彼女もいないので馬鹿みたいにはしゃいで最高に楽しいのだ。
部活にも入らず高1から続けているスーパーのバイトも、週4だけど休まずに行ったし、毎日全力で過ごした夏休みだった。
幸哉はバイトが一緒だし遊びも誘うと来るので、当然のようにほぼ毎日一緒。
たまにシフトの関係で一人で友達のもとへ行くと、びっくりされるほどだった。
お陰でそこまで活発ではない幸哉君まで肌が真っ黒になり、さながらスポーツマンのようで普段からモテる方だったけど、さらにモテだしたからそれも話題の一つで。
悔しいかな、近所で可愛いと評判の吉野さんから告白されたときは大騒ぎとなったものだ。
「そういえば吉野さんの返事どうすんの」
そう、『夏休み中に返事をください』と8月の初めに告白されといて、こいつはまだ返事をしていなかった。
「またその話?その場で断ったのに、考えてくれだなんてさ・・・返事はしない。それでわかるでしょ」
「もったいねー!」
「椎太なら俺のことよくわかるだろ」
幸哉は困り顔で答えた。
なぜか昔からこうゆう話が嫌いで、彼女はいらないと告白はすべて断っていたのだ。
こんな時の幸哉は謎めいていて、俺のことよくわかるだろ・・・とは言われたけれど、正直なんで断るのかは知らなかった。
まあ、直後に理由を知るのだけど・・・。
「無理して付き合えとは言わないけどさ。俺もまだ付き合ったことはないけど、吉野さんなら付き合ってみたいけどなー」
俺は羨ましそうに言った。
先を越されるのも嫌だし、彼女に親友を取られるのも本当は寂しい癖に、吉野さんから告白されたことは素直に羨ましかったから。
この時幸哉の表情が少しだけ強張ったのに気付かずに。
「可愛いだけで好きでもないのに付き合いたい?」
急に俯く幸哉。
「うーん、告白から始まる恋もあるでしょ。てか俺単純だから吉野さんみたいな子から告白されたら好きになっちゃうかもな」
なーんちゃってと一人騒いでバンバン机を叩いていたら、いきなり引き寄せられた。
「・・・じゃあ俺のことを好きになって」
俺は幸哉に抱きしめられていた。
「幸・・・哉?」
「俺は椎太が好きだ。もうずっと・・・好きだ」
幸哉の声は震えている。
本当にいきなりの出来事だった。
信じられなくて、でも体の体温はカッと熱くなる。
幸哉の腕は遠慮がちに俺を包んでいた。
ぐいっ
俺は咄嗟に幸哉を押し返した。
頭の中はパニックで。
「ごめん」
俺は幸哉を直視できなくて、机に広がった課題をかき集めるとゆっくり立ち上がり、部屋を出た。
「俺は椎太を友達として見たことなんかない。言ったことも・・・後悔してない」
部屋を出る瞬間、そう幸哉が言うもんだから一瞬体が固まったが、足がもつれながらも階段を駆け下りた。
数分の出来事。
このほんの数分の出来事で幸哉は俺の親友ではなくなったのだ。




