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婚約者が心酔している盲目の聖女は私ですが

掲載日:2026/07/11

「行ってらっしゃいアレン」

「見送りなどせず聖女としての務めを果たしたらどうだ」


 仕事に向かう前、同じ屋敷に住む婚約者のアレンを見送る私と、悪態をつくアレン。

 これがもう毎朝の光景になってしまった。

 昔は違った。

「セレナを守れる騎士になる」そう言っていた彼は精鋭部隊に入り功績を挙げるたび功名心に憑りつかれていった。



 ◇



 砂埃と血の匂い、誰かが呻く声と遠くで聞こえる魔獣の鳴き声。

 ここが私の職場だ。

 教会所属医療部隊。治癒の力を持った聖女や見習い達が集められ、特に力の強い者は魔獣討伐にも随行する戦わない軍隊だ。


「セレナ様、こちらの方で最後になります」


 神官見習いのルカが私の手を引きながら患者の元へ導く。

 ルカの助けを借りながら患者の怪我にそっと手を当てる。

 怪我の度合いはできるだけ想像しないように、血塗れになっているであろう衣服には極力触れないように、一気に聖力を流し込む。


「あぁ、千切れていた足が!」

「ひっ……!」

「手元が乱れます。聖女様が力を使っている最中はお静かに願います」


 感極まった騎士の発言に思わず喉から悲鳴が出そうになり、ルカが私の手を握り騎士へ注意を入れる。

 聖力の流れが止まったのを確認し患部から手を放すとすすり泣く声が聞こえた。


「ありがとうございます、盲目の聖女様」

「礼には及びません。教会の者として当然の慈悲です」


 わずかに震える手を隠しながら目隠し越しに笑って答えた。



 天幕を出ると誰かから声をかけられた。


「聖女様!」

「えっと、あなたは……」


 ルカが私にそっと耳打ちする。


「先週の討伐任務の際に治療した騎士ですよ」

「背中をザックリやられた者です。あの時は死んだとばかり……けれど聖女様のおかげで何の後遺症も無くもう部隊に復帰できました。本当にありがとうございます」


 酷い怪我の詳細を聞いて思わず震える。

 そして彼からは、わずかに血の匂いと消毒液の匂いがした。

 きっと今日も怪我を負ったのだろう、私達を守るために。


「いつも私達を守ってくれる騎士団を支えたくてこの任に就いたの、だから、今日も生きて帰ってきてくれて、諦めないでくれてありがとう」

「聖女様、貴女を守ることができ光栄です」

「シモンズ卿、まだ任務中ですよ」


 ルカの冷たい声が会話に割って入った。


「セレナ様はお疲れです、お引き取りを」

「聖女様すみません引き留めてしまって。卿も仕事終わりにすまなかった、王都まで聖女様を頼むぞ」


 不機嫌な声を隠さないルカに騎士は苦笑しながら去っていく。


「あの方の家名、よく知ってたわね?」

「……司教様から色々と聞いてますから」


 そう言って強く手を引くルカはまだ機嫌が直らないようだった。



「セレナ様、もう目隠しをとっても大丈夫ですよ」

「ありがとうルカ」


 聖女の証の黒いベールと揃いの目隠しを解くと、光が目に射し思わず目を瞑った。

 すると背の高いルカが日差しを遮るように私の前に立ってくれた。


「また盲目ではないと訂正し損ねてしまったわ」

「いいじゃないですか、勝手に勘違いしてもらった方が治療もしやすいですよ。あいつら騎士のくせに掠り傷一つですーぐ喚いて騒ぎ立てるんだから」


 魔獣と戦う騎士に憧れていたルカにとって小さな怪我で騒ぐ騎士は夢を壊された気分になるらしく、木箱にもたれ掛かり見習いの白いローブを長い脚で嫌そうに蹴っている。

 その子供っぽい所作も、伸ばされた背筋と整った顔立ちのせいで不思議と様になっている。


「そうは言っても騙しているようで気が落ち着かないの」

「……しょうがないですよ、セレナ様は血を見ると倒れてしまうのですから」


 そう、私は血が苦手だ。

 苦手という言葉では伝えきれないほどに。


 子供の頃、魔獣に襲われ右肩を切り付けられる酷い怪我を負った幼馴染の姿がトラウマになっているから。

 骨が露出し引きちぎれた血管からは鮮血が溢れ、くっついているのが不思議なほどの大怪我。

 そんな怪我を一切の後遺症もなく治し切ったのが当時の医療部隊の筆頭聖女様だ。


 卒倒した私が目覚めて最初に言われたことは強い聖力があること。

 この力が無ければ幼馴染は聖女様が来るまで持ち堪えられなかったそうだ。


 先代の筆頭聖女様から聖力の扱い方を習い筆頭聖女の座を引き継いだものの血を見る度に倒れていては仕事にならないので物理的になんとかした結果がこの目隠しだ。

 その結果騎士達や教会に治療目的でやって来る人達からは盲目の聖女と呼ばれるようになってしまった。


「婚約者様にはもう話したんですか?」

「まだよ」

「早く話した方がいいですよ、勘違い男ってどんどん自分の都合のいいように妄想を膨らませますからね」

「もう何を言っても信じてもらえないわ。はぁ、家に帰りたくない」



 私の婚約者は盲目の聖女に惚れているらしい。




「遅かったな。よほど大層な仕事でもあったんだろうな」

「やめてそんな言い方。治癒を求める人に貴賤はないわ」

「今日は討伐部隊に筆頭聖女様が随行した。血を見ただけで倒れるお前とは違って立派な姿だったよ。安全な場所でぬくぬくとしているお前とは違ってな」


 玄関ホールで顔を見るなりこれだ。

 婚約者で幼馴染のアレン。

 彼にとって私は安全な教会で市民相手に細々と稼ぐ卑しい聖女だそう。


 騎士として魔獣と戦う彼は頻繁に怪我をしていた。

 そんな彼を少しでも支えたくて、医療部隊に志願していたのに彼の中では盲目の聖女に助けられた事になっているらしい。

 いくらベールと目隠しで顔が見えないとはいえ、声を聞けば自分の婚約者で十年来の幼馴染の声くらい分かるはずなのに。


「週末の夜会だが、一緒に行けなくなった」

「え!? 叙勲式もあるのよ?」


 魔獣討伐部隊の慰労のために開かれる夜会。

 そこにはアレンはもちろん、アレンの婚約者であり医療部隊として働く私にも招待状が来ていた。

 アレンと揃いの衣装だってもう仕立ててあるのに。


「夜会には聖女様をエスコートする予定だ」

「は、はぁ!?」

「あれだけ立派に務めている方なのに一度も夜会に来ていないんだ。そんな奥ゆかしい所も素敵だが一番の功労者である方が参加しないのは忍びない、なのでもし同伴する相手がいないのであれば俺が申し込むつもりだ」


 その聖女は目の前にいますけど。

 と言いたかったがろくに喋ったこともないはずの聖女への愛を語るアレンに呆れて何も言えなくなってしまった。



 ◇



「ルカどうしよう、夜会一人で行くことになりそう」


 教会で午前の治療を終え、午後の祈祷までの時間を休憩室で過ごしながら昨夜の出来事をルカに相談する。


「婚約者様に何か急用でも?」

「盲目の聖女様をエスコートする、ですって」

「は……?」

「そうなるわよね」


 私と同じように呆れるルカに苦笑が漏れる。

 婚約者がいるのに他の女性と連れ立って夜会に出るなんてまずありえないことだ。

 そもそも婚約者と気付かない事が一番あり得ないのだけれど。


「……別れる事はできないんですか?」

「子爵家には恩があるのよ」


 アレンの実家であるベルディング子爵家の領地にある孤児院は子爵家直々に運営され、孤児だった私や孤児院の皆をとても大事に育ててくれた。

 そして私に聖女の力があると分かった時も貴族相手に理不尽な目に遭わないよう当主であるアレンのお父様は後ろ盾にもなってくれた。


 アレンとの婚約だってそう。

 聖女を子爵家に取り込めるからなんて言ってたけど、平民の私が得られる利益の方が圧倒的に多かった。


「旦那様になんて話せばいいのかしら」


 叙勲式では筆頭聖女である私も叙勲予定で、旦那様も領地から王都へ来られる手はずになっているが私の隣にアレンがいない事をなんて説明しよう。

 そう思い悩んでいると見習いの一人が私を呼びに来た。


「セレナ様、お客様です。ベルディング家の騎士様だそうです」

「断って」


 私が答えるよりも先にルカが返答した。


「で、ですが」

「どいてくれ、聖女殿に話があるんだ」


 アレンが見習いを押し退け部屋に入ると同時にルカが私を隠すように立ちはだかった。


「筆頭聖女の部屋に無断で押し入るとは、最近の騎士は躾がなっていませんね。それともそれがベルディング子爵家の作法ですか?」

「なんだと!」

「分を弁えない子爵家の嫡男が聖女様に懸想していると有名ですよ、そんな不埒な男を部屋に入れるわけにはいかないでしょう」

「それは……セレナか! あいつが言ったのか!」

「この節穴が!」


 ルカとアレンの剣呑なやり取りに胃がキリキリと音を立てるように痛み息が詰まる。


 私の知ってるアレンはこんな人じゃなかった。

 領民に優しくって、孤児院でも分け隔てなく接してくれた。


 あの時の怪我だって魔獣に襲われた私をかばって負った傷だ。

 あんなに大怪我を負ったのに領民を守るためだと魔獣討伐部隊に志願することを決め、騎士として戦うアレンが好きで側で支えたかったのに。

 その彼は神聖な教会で目の前の私に気付くことも無く怒声を張り上げ、私はルカの広い背中に守られていた。


「何をしている! ここは教会所属の者以外の立ち入りは許可していないぞ!」


 あまりの騒ぎにやってきた司教様がアレンを連れて行き、着けたままだった目隠しを解くと、さっきまでの剣幕がすっかり消えたルカが心配そうにこちらを見つめていた。


「私が好きだったアレンはもういないみたい」


 酷い失恋をすると涙も出ないらしい。


「セレナ様、夜会は僕と一緒に行ってくれませんか?」

「でもルカは……」

「これでも伯爵家の男ですから、エスコートくらいできますよ」

「ん?」

「どうかしました?」

「ルカあなた貴族だったの!?」


 聖女の世話役に就く見習いは殆どが平民か下位貴族出身の人達で、そもそも世話役を必要としない平民の私に貴族がつくなんて思いもよらなかった。


「どうして貴族のルカが私の世話役なんてしてるの?」

「元々騎士になりたかったんです、三男の僕は継げる爵位も低いですし職に就く必要があって。でも体の弱さを理由に不採用となってしまったので神官の道へ進んだのですが、そこでセレナ様に出会ったのです。あなたは血に怯えながらも魔獣の声を背にしてずっと前線に立ち続けた、そんなあなたに憧れて傍に居たいと司教様にお願いしたんです」


 初めてだった。

 盲目の聖女ではない、ただのセレナを見てくれた。


「もしベルディング家を離れるのならリンコット伯爵家が後見になります。だから、僕にもあなたの手を取る権利をくれませんか?」


 あまりの出来事の連続と初めて見るルカの表情に頭がついていかず、午後の祈祷では失敗を繰り返し心配した司教様から帰宅するよう言われてしまう始末だった。



 ◇



「セレナ様、お帰りなさいませ」


 いつ馬車に乗ったのか、メイドに声をかけられ自分が帰宅したことにやっと気が付いた。


「旦那様が領地よりいらしております」

「……着替えたらお話があると伝えてちょうだい」


 旦那様には恩がある、けれどアレンとの関係はもう終わらせなきゃいけない。


「おかえりセレナ、会いたかったよ」

「旦那様、申し訳ありません!」


 旦那様の部屋に入るやいなや頭を下げる私に旦那様はまるで知っていたように声をかける。


「アレンの事だろう? 婚約者のいる騎士が筆頭聖女に不埒な感情を抱いていると領地まで噂が流れてきたよ」


 一瞬にして血の気が引いた。

 ルカが話していた内容が子爵領にまで広まっていたなんて。

 私がはっきりと正体を話さなかったせいで子爵家の評判まで落としてしまった。


「あ、あの旦那様」

「すまなかったね。血は、今でも怖いのだろう?」

「知っていたんですね」

「アレンとの関係も白紙に戻そう。大丈夫だ、婚約が無くなってもセレナは私の娘だ。後見も然るべき家を探そう」


 そう言って微笑む旦那様に泣きそうになる。

 孤児院の頃から、私が領地を離れてからも親としてずっと気にかけてくれていた旦那様のもとから離れるのは少し寂しいけど、アレンとの仲が拗れた以上もうこの家のお世話になるわけにはいかない。


「その事なんですが、リンコット伯爵家が名乗りを上げてくださったんです」

「そうか……あの家なら大丈夫だろう」


 その時、アレンが扉を押し破る勢いで入ってきた。


「父上!」

「騒々しいぞアレン」


 怒りで顔を赤くしたアレンは昼間の事を上官に叱責されたのだろう、旦那様に窘められるのも聞かず私を睨み付けながら話し始めた。


「セレナとの婚約を破棄してください。悪辣な噂を流すような女とは共にいられません!」

「その話ならたった今白紙に戻したところだ、そしてその噂はセレナではなくお前の身の振り方が原因だ」

「俺に非はありません。俺は騎士として常に最前線で戦ってきた自負があります。こいつの様な守られるだけの足手まといの聖女なんて俺に相応しくない、俺にはもっと相応しい人が居ます」


「すっかり驕り高ぶるようになってしまったな。そのような騎士に人を守れるとでも思っているのか」

「守れますよ。ただし、俺が守るのはこいつじゃない」


 そう言って満足そうに部屋を出て行くアレンの姿に旦那様が落胆のため息をこぼした。


「私でもセレナだと気付いたのにな」


 そう呟く旦那様に私は何も返せなかった。



 ◇



 夜会の日、屋敷の前にはずいぶんと豪華な馬車が止まった。


 菫色の髪を緩く結びいつもの見慣れた白いローブとは違う正装を身に纏ったルカはどこから見ても貴族の男性で、私が今日の為に仕立てたドレスはアレンの瞳に合わせた菫色のドレスだったけど、こうして並ぶとまるでルカの髪色に合わせたようだった。


「セレナ様、ドレス姿も素敵ですね」

「ありがとう、ルカもとてもかっこいいわ」


 ルカにエスコートされ教会の紋章が描かれた馬車に乗り込むと、中には司教様がいた。


「ルーカスから話は聞いたぞ、とんでもない事になったな」


 ルーカス、という名にルカの方を見ると彼は拗ねたような表情を見せた。


「教会ではただの見習いのルカですよ。それにセレナ様は貴族間の均衡も自らの力についてもご存じではありませんよ」

「はぁー……セレナ、よく聞きなさい。まず君は歴代でも有数の治癒能力の持ち主だ、そして叙爵の決まった君を狙う貴族がこの国だけでなく他国にも居る」

「えっ、え!?」


 先代の筆頭聖女様から教えを受けた時にはそんなこと言われなかった、ましてや旦那様からもそんな話は聞いていない。


「そして今の君に婚約者はいない。君と縁付けば自分のいる部隊を優先してもらえるかもしれない、教会ではなく自領所属になってくれるやもしれない、そう考える馬鹿がいる」

「どの騎士も国一番の聖女がいるというのは心強いですからね。しかしセレナ様と縁の切れた元婚約者殿の部隊は次からはその恩恵を受けられないかもしれない、騎士達は荒れますよ」


 思わず息を呑む。

 私の存在が騎士団の士気に関わっていたなんて思いもしなかった。

 それに司教様の話の通りなら私の立場はかなり危うい。


「今まではベルディング子爵が上手くやっていたからな。会場ではルーカスから離れるな、そしてそれは着けておいた方が良い」


 ドレスに合わせたレースの目隠し、それを身に着け馬車から降りると、何故司教様があんなに真剣な表情だったか、私は思い知ることになった。



 王宮の控室に入った瞬間からチラチラと視線を感じる。

 恐らく私が今まで助けた騎士達だろう。


「目隠し、外しますか?」

「今更盲目の聖女の仮面は剥がせないわ」


 からかうルカに少し肩の力が抜ける。


「いつものようにエスコートします、ですから緊張しないでくださいね」


 ルカの細い指が目隠し越しに優しく触れる。

 その時、厳かな場に相応しくない声が響いた。


「聖女様!」


 こちらに向かって来るアレンから私を庇うようにルカが前に出た。


「ここは王宮ですよ、ベルディング子息」

「おい、アレンやめないか!」


 ルカと騎士団の人に止められてもアレンには何も聞こえていないようだった。


「盲目の聖女様、貴女を守る貴女だけの騎士にしてください」


 熱に浮かされたようなアレンに私は冷めた視線を送る。



「セレナ・ベルディング筆頭聖女並びにルーカス・リンコット神官見習い」



「えっ?」


 呼ばれた名に信じられないといった表情で立ち尽くすアレンを置いて私たちは広間に続く扉へ向かった。


 広間に足を踏み入れると、じろじろと絡みつく値踏みするような探るような不躾な視線が突き刺さる。

 司教様の言っていた事はこれかと実感していると、私を安心させるようにルカが指先を握ってくれた。

 しかしそのルカにも不躾な視線は向いていて、若い貴族達がルカを睨みつけている姿に馬車の中で聞いた貴族の均衡という言葉を肌で感じた。


 その中に、アレンもいた。


 私の姿と呼ばれた名前で自分の思い違いにやっと気づいたのだろう、呆然とする彼と目隠し越しに視線が合うと彼は逃げるように広間から出て行くのが見えた。



 無事叙勲式を終え、未だ緊張に震える足で突き刺さる視線から逃げる様に控室に戻るとそこにはアレンが待っていた。


「セレナ、どういうことだ! それに隣の男は何だ!」

「どういう事も何もあなたとの婚約はすでに白紙に戻されています、あなたとはもう他人です」

「そうではなく、どうして言ってくれなかったんだ」

「私が言って聞いてくれましたか?」


 そう返すとアレンは黙り込んだ。

 隣のルカが冷めた視線を送りながら言い捨てる。


「だからあの日言ったんですよ、節穴と」


 名実ともに私とアレンは他人になった。

 今のアレンは聖女に言い寄る不埒な騎士でしかなく、騎士団の人達の厳しい視線が突き刺さっていることに気付いてもいない。


「セレナすまなかった、もう一度チャンスをくれないか」

「セレナ様の後見人はリンコット伯爵家とトンプソン侯爵家が付きます。当家が庇護する聖女にみだりに近寄らないでいただきたい」

「お前ではなくセレナと話しているんだ! セレナもう一度俺のもとに戻ってきてくれ」


「アレン、私はね、盲目の聖女なんて肩書じゃなくきちんと私を見てくれる人の隣にいたいの。そしてそれはアレンじゃない」


 そうはっきり告げるとアレンは見るからに肩を落とす。

 そんな彼を騎士団の人達が引き摺るように連れて行った。


「本当に申し訳ない聖女様。」

「その声は……シモンズ卿?」


 頭を下げる彼の服に付けられた階級章から彼が討伐部隊の隊長だとわかる。


「そうです。今後聖女様と会わぬよう、あいつは前線から外しましょう」


 それは騎士として昇進の道が閉ざされたと言っても過言ではない。

 けれど、今のアレンに騎士は向いていない。

 いくら関係が無くなっても幼馴染の彼にこれ以上怪我はしてほしくないから、きっとこれで良かった。


「ねぇルカ、侯爵家も後見に付くなんて聞いてないわ」

「言ってませんでした? 母は侯爵家の出身なんです。ちなみに司教様も侯爵家の出で叔父にあたります」

「聞いてない……」


 庶民には耳にすることないお歴々が身近にいた事に唖然としていると、ルカはニコニコと笑いながら私の手を取る。

 その笑顔はいつもの見慣れたルカだ。


「あなたを守ります。理不尽な目に遭わせることも、政治利用だってさせません。あなたのそばに居させてください」


「ずっとそばに居てね、でも、お互い秘密は無しよ」


 そう言って手を握り返すと彼は嬉しそうにはにかんだ。


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― 新着の感想 ―
面白かったです 傲慢になりすぎていたし騎士としてはアウトだと思いました
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