第5話 消えゆく星の囁き
夜の帳が静かに学園を包み込む。窓の外、星空はいつもより冷たく、どこか翳りを帯びていた。夜月アカリは机に並べられた星の欠片を見つめながら、胸の中に重い予感を覚えていた。
「欠片の輝きが……弱まっている?」
リリスが隣で呟いた。
「これは良くない徴候よ。欠片は本来、持ち主の想いと連動して輝くはずなのに。何か異変が進行している」
アカリは強く震える手で欠片を握りしめる。だがその温もりは薄れ、まるで冷えた星屑のように儚く脆かった。
「何が起こっているのか、もっと深く調べなければ……」
そう決意を新たにして、二人は再び図書館の地下書庫へと足を運んだ。そこに待っていたのは、宙図の欠片とは異なる、もうひとつの謎だった。
「ここに記された“星の囁き”の記録……」
リリスは埃をかぶった巻物を慎重に広げる。古の魔導文字が描かれた文書には、星の魂と異界の狭間で織りなされる声が綴られていた。
「囁き……それは星々が持つ意思の残響。消えゆく星の祈りが、世界の隅々に届く最後の声。もしそれを掬い取らなければ、星の欠片は完全に消失するだろう」
アカリは指先で細かい文字をなぞりながら、心の奥で何かが叫んでいるのを感じた。
「絶対に、星を消させない」
そして、二人は星の囁きを追って、夜の学園へと繰り出した。月明かりが照らす屋上に立つと、冷たい風が頬を撫で、新たな決意が胸に宿る。
「星の囁きは、たった今、ここから聞こえてくる」
リリスが小声で告げる。その声は風に溶け込み、かすかな光の粒が夜空に舞う。
「聞こえる……本当に、星たちの声が」
アカリの心は激しく揺れた。星々が放つ終わりの歌、それは同時に新たな希望の芽吹きでもある。
「私たちにはまだ、できることがある」
二人は星屑の導きに従い、欠片の光を取り戻すための次なる旅路に歩みを進めた。
だが、闇の側も黙ってはいなかった。異世界の深遠に潜む影が、消える星のエネルギーを狙い、新たな刺客を送り込んでいたのだった。
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