第4話 星屑の誓約(あやかし)
星影の迷宮から持ち帰った最初の星の欠片を胸に、夜月アカリは自室の窓辺で静かに月明かりに照らされていた。欠片は小さくも確かな輝きを放ち、まるで温かな鼓動を宿しているようだ。
「この力……ちゃんと使いこなせるのかな」
不安と期待が入り混じる中、アカリの胸は波打った。しかし、彼女の決意は揺るがなかった。この星の欠片が失われた星々の魂の一端であり、自分がその救世主であることを、心の奥底で受け入れていた。
翌日、学園の古びた図書館。放課後の静寂を破って、リリスが真剣な表情でアカリに声をかけた。
「アカリ、この欠片にはまだ秘密がある。星の欠片は単なる輝きじゃない。人の感情や願いを映し出す“魂の鏡”なの」
「魂の鏡――?」
リリスは図書館の書架から一冊の古文書を取り出す。そこには伝説とともに、星の欠片の力を解放するための術式が記されていた。
「この術式によって、欠片を呼び覚まし、星々の光を取り戻す第一歩を踏み出せる。でも、同時にそれは欠片に宿る祈りや想いを見なければならない。恐れや悲しみも、強く映ることがある」
アカリは古文書に記された呪文の一節をそっと唱え始めた。欠片が淡く揺らめいて、やがて彼女の目の前に幻想的な光景が浮かび上がる。
そこは――見慣れた学園の夜空。しかし、星々はかすかに震え、星屑が宙に舞い散っていた。その中に、一人の少年の姿があった。少年は寂しげに空を見上げ、アカリを見ると静かに語りかけた。
「君が星の鍵……僕と約束してほしい。星屑が消える運命を、変えてほしい」
アカリの胸に強い熱が込められる。見知らぬ少年の真剣な瞳が、彼女の心の奥底に刺さった。
「約束……それは?」
「この星の世界を救うこと。そして、互いが繋がっていることを忘れないでほしい」
光景はふっと消え、欠片は再び落ち着いた輝きに戻る。アカリは深く息を吸い込んだ。
「分かった。私はこの旅を、星屑の祈りを胸に、最後までやり抜く」
リリスも微笑みながら頷く。
「それでこそ、異世界の鍵を持つ者よ。だが、気を付けて。欠片には失われた星の記憶だけでなく、闇の影も映るの」
その言葉に、アカリは少しぞっとした。しかし、背筋を伸ばし、決意を新たにした。
「……闇が待っているなら、私は闇も受け止める」
図書館の窓から見える夜空は、静かに、しかし確かな輝きを取り戻しつつあった。
その頃、遠く異世界の彼方では、暗い影が動き出していた。星々の消失は単なる偶然ではなく、何者かの意志がその裏に潜んでいたのだった。