第3話 星影の迷宮(メイズ)
放課後の教室。静かな空間にカタカタと時計の秒針だけが刻まれている。アカリはまだ胸のざわめきを抑えきれず、机の上に広げた宙図の断片を見つめていた。
「星の欠片――どうしてこんなにも遠いの?」
リリスが隣に座りながら、柔らかな声で言う。
「欠片はただの“星”じゃない。失われた星々の魂。だから、その場所は通常の空間とは異なる“迷宮”――星影の迷宮――に封じられているんだ」
「迷宮……?」
アカリの心臓が強く鼓動した。目の前に広がる宙図の一部、そこには複雑に絡み合う光の線が渦巻いている。その中に、まだ見ぬ欠片の兆しがかすかに光っていた。
「その迷宮の入り口は図書館の地下にもあるらしい。封印の結界が張られていて簡単には入れないけど……」
二人は立ち上がり、静かに呼吸を合わせる。「行くしかないね」とアカリがつぶやいた。
薄暗い地下書庫。その奥深く、見覚えのある宙図の前でアカリは手を差し伸べる。不安と期待とが入り混じる感情が全身を駆け巡る。
「世界が変わる瞬間を、見逃さないで」とリリスは囁いた。
宙図の中心に指を置くと、図の光が生き物のように絡みつきはじめた。次の瞬間、足元が揺れて図書館の壁が溶けるように変形。二人はまるで星々に包まれるように、光の渦に吸い込まれていった。
目を開けると、そこは無限に続く星の海。だが、波打つ輝きの向こうには見えない迷路の壁が、影のように揺らめいていた。
「ここが……星影の迷宮」
リリスが言う。
「この場所はね、星の魂の断片たちが絡み合い、光と影が交錯する場所。心の迷いが強いほど出口は遠くなる」
アカリは握りしめた拳を解きながら自分に言い聞かせた。
「迷っていても、進み続けるしかないんだ……」
迷宮を構成する光の壁は、時に過去の記憶や感情を映し出す。アカリは突然、自分の幼い日の母との思い出を見せられ、胸が締め付けられた。
「諦めたら、星は消えてしまう……」
涙をこらえながらも、アカリは正面の光の扉に向けて歩みを進める。リリスも傍らで励ますように微笑んだ。
「星は、君の強さと優しさを待っている。だからこそ、諦めないで」
数々の謎を乗り越え、光の扉は静かに開いた。中にあるのは――小さな輝きを放つ星の欠片だった。
「これが……最初の欠片!」
アカリはそっと手に取り、その温もりを感じた。星の魂が自分の中に流れ込むような感覚。
「さあ、これからが本当の旅の始まりだね」
迷宮の彼方にはまだまだ困難が待ち受けている。しかし、少女の瞳は確かな決意に満ちていた。