第2話 宙図(そらず)に刻まれた約束
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、夜月アカリはゆっくりと目を覚ました。まだ昨夜の出来事——あの異世界の扉から覗いた星々の海——が夢のように胸をざわつかせる。
「……あれは現実だったのかな?」
部屋の窓の外では、いつも通りの学園生活が待っている。だけど、もう彼女は以前と同じアカリではいられなかった。異世界の鍵を持つ少女としての使命が、静かに心を満たしていた。
図書委員としての任務を終え、アカリは今日も古図書館へ向かった。あの“星の海を渡る旅”の本は、依然として書架にそこにひっそりと存在している。だが昨日と違うのは、彼女に同行者ができたことだ。
「君の名前はリリス。異世界から来た、星の守護者——」
異世界の肩書きを持つ少女リリスが優しく話しかける。透き通るような青い瞳に秘められた決意は、それ自体が強烈な輝きを放っていた。
「今夜、宙図の祭儀が迫っている。星々の調和を保つ儀式だが、異変が起きていて、星が次々と消え始めている」
「消える……星?」アカリの声が震えた。
リリスはうなずく。
「その異変の核心には、封印された“星の欠片”がある。星の欠片は、失われた星々の魂そのもの。君はその欠片を見つけ出し、星の海に再び灯をともす力を持っている」
「でも、どうやって?」
「宙図を解読しなければならない。宙図は星の海の地図であり、異世界の秘密を示す唯一の手掛かり。図書館の地下に眠っているのよ」
二人は足早に学校の古びた階段を下り、地下書庫へと向かった。
薄暗い石壁の奥に、様々な星座が描かれた巨大な円盤状の地図が現れる。星の光を閉じ込めたかのように淡く光るその宙図は、静かに語りかけてくる。
「この星座の中に、星の欠片が隠されている……」リリスが小声で言った。
アカリは宙図の星々の輝きをじっと見つめ、感じた。そこには確かな絆と使命の響きがあった。
「星の欠片を取り戻す旅……まだ始まったばかりだね」
リリスの手が宙図の上でゆっくりと動き、星と星を繋げ始める。
「君の勇気と成長が、星降る世界を救う鍵になる。私たちは一緒だ」
図書館の静寂を破り、遠くで学園のチャイムが鳴る。現実世界と異世界の狭間で、アカリの冒険は新たなステージへと動き出していた。






