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プロローグ
僕がたびたび思い出すあの少年は間違いなく僕の救いであった。
うざったいくらいの青空からは光の矢が降り注ぎ、シュワシュワと蝉の鳴き声だけが響いていたあの日、僕は公園のブランコで来るはずのない母さんを待ち望んでいた。ボーっと海沿いの道を眺めているとそこを通りかかった少年と目が合った。このときの心を奪われるような妙な感動を今でもよく覚えている。僕はどんな顔をしていたのだろうか、その少年はハッとした様子でこちらに駆けてくると隣のブランコに腰かけた。
「なんか悩んでんのかよ」
ぶっきらぼうな台詞ではあったがその口調は優しく、気遣いに満ちていた。だからだろうか、僕は抱えていたもの(詳しくは覚えていないが家族のことだろう)をその少年に吐き出すことができた。その少年は白い光線に目を細めながら暖かい相槌で話を聞いてくれていた。時間にしたらほんの数分だったと思うがそれは尊くて、かけがえのないものであった。
ただ、その少年が去り際に放った言葉がどうしても思い出せない。