アルガ帝国の歴史上最も長い5分間
「では、行くぞ。」
バルトルは剣を勢いよくマランに向け、振り下ろした。
マランに向け振り下ろされた剣には炎が宿っており、先ほどの兵士と同系統の技を使っていることがわかった。
【剣技:炎竜】
アルガ帝国騎士団に伝わる五つのうちの剣技の一つで、技のためが大きいが、相手の防御を貫くほどの威力を出せるという特徴が有る。
マランは勘でこの技を受け止めきれないと悟り、咄嗟に避けた。マランは避けてすぐにカウンターを仕掛けようとしたが、バルトルの水を宿した剣に受け流された。
【剣技:水流】
アルガ帝国騎士団に伝わる五つのうちの剣技の一つで、水がどのような形の道でも上から下に流れるように、使い手次第で無数に形が変わる特徴が有る。※バルトルの場合は炎竜の後隙を無くすためにカウンターを受け流す技になっている。
(!?)
水流で形を崩したマランに向けバルトルは炎竜と同じように大きめの溜めをとった。
「電円」
身体能力の向上したマランでさえ捉えるのが難しいほどの早技。マランは咄嗟に剣で受けてしまった。
(指が少し痺れる…。)
そんなことをマランが思っている間にバルトルは剣技を構えていた。
「風刃」
透明な斬撃がマランに向け飛ばされた。速度が遅い為避けるのは容易だったが、無理やり右側に移動させられたことにマランは気付いた。
「土楽」
マランの避けた先にバルトルは攻撃を合わせてきた。
(何だ!?)
マランの背中に何かがぶつかった。威力は強くないがバランスを崩し、少しふらついてしまった。
【剣技:土楽】
アルガ帝国騎士団に伝わる五つの剣技の内の一つで、地面から土の塊を飛ばし、相手の体勢を崩すことができる。殺傷能力が低く相手を少しふらつかせることしか出来ない技で、騎士団の中でも使う人がかなり少ない。
「炎竜」
(!!)
マランがバランスを崩したところにバルトルは剣技を合わせてきた。
「くっ…」
頬を掠ったがぎりぎり避けられた。
「水月」
大勢を戻せず、ギリギリの状態で攻撃を避けるマランをバルトルは気にせず剣技で追い込み続けている。
「電円」
「風刃」………。
絶え間なく繰り返される剣技の連打の中にマランは弱点を見つけた。
(剣技を繰り返していくにつれて速度と威力が高まる中、【炎竜】の後隙が少しずつ大きくなっている…)
マランの中で思考は巡り、結論を叩き出した。
(【炎竜】に合わせてカウンターを打ち込めばおそらくこの剣技のループを抜け出せる。)
ただ、結論が出たところで実践に移せない為、バルトルはアルガ帝国騎士団の一番隊隊長なのだ。【炎竜】の後隙にカウンターを入れるなら【土楽】を対策しないといけない。だが、【土楽】は確実にバランスを崩してくる。ならばどうするか。マランの中にはもう対策が練られていた。
(踏ん張れば何とかなる。)
「風刃」
バルトルの透明な斬撃を避け、【土楽】に向け筋肉を硬直させ準備を整えた。
「土楽」
「!?」
バルトルの顔に驚きが現れた。
(土楽を気合いで耐えた…いや、対策を知らずに耐えることは不可能…いや、気合いで無理矢理可能にしたのか…?)
結論は出なかったが、バルトルは気にせず続けた。
「炎竜」
振り下ろされるバルトルの剣に合わせて、最大限の力を込め剣をバルトルの腹部に側面から叩き込んだ。バルトルは一瞬怯み、距離をとった。そう、マランの攻撃がバルトルに入ったのだ。
その後すぐに剣を構え、バルトル剣技を使った。
「炎竜!」……。
二人の決闘が始まりもうすぐ五分が経とうとしていた。マカンを含め四人がマランの勇姿を見守る中、その時はきた。
「…。」
「終わりだ。マラン。」
少し肥大化したマランの筋肉は元に戻り、バルトルと戦っていた時とは見違えるほど闘気が小さくなった。そう、スキルの時間切れだ。
「…その目、まだやる気なんだな。」
マランの目はスキルが消えてもなお、勝利をしっかりと捉えていた。
(まだだ。まだ、倒せてない。村のために、みんなのために、マカンのために…
まだ!倒れらんねぇんだ!」
威勢のいい声と共に、マランは全身に力を込めた。
「辞めとけ。もう限界なんだろ?」
「…。」
【マランのスキルのデメリット】
5分間の身体能力の向上。単純だが強力で、戦いを知らない一般男性がドラゴンを圧倒できるほどだ。だが、このスキルは明確な弱点がある。それが、5分を過ぎた後、使用者は動けなくなると言うものだ。元々戦えない体を無理矢理戦えるようにした為、スキル使用後は必ず反動がある。早くても丸一日は動けない。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
「…!?」
スキルの反動で立ったまま微動だにしないマランは雄叫びを上げながら剣を振り上げた。
「これは…」
マランの体はスキル使用時のように筋肉が肥大化し、体から蒸気が立ち昇っていた。
「勝負はまだ終わっていない」
(何だ、あれ…。あんな姿見たことがない…)
マカンは考えた。スキルが消えているはずなのに何故もう一度発動できたのか。考えられる可能性は一つだった。
「まさか…自分の中で盟約を作り無理矢理スキルを使ってるのか…」
「それは無理だろ…だって父さんがスキルの対価に出来るものを持ってない…」
ラムスは言った。
「多分寿命を使ったんじゃないかな。」
「は?そんな事したらただじゃ済まないぞ」
「体から立ち昇るあの蒸気、多分寿命を削っている証なんじゃないかな…。」
「てことは、闘いを早く終わらせないと寿命を使い切ってしまうってこと?」
「ああ。多分な。」
マカンは闘いを止めようと一歩踏み出そうとしたが、ラムスに止められた。
「盟約があるから俺たちは闘いが終わるまで決闘に干渉できない。」
「…。」
【盟約の違反時に起こること】
そもそも盟約は自身と相手の魂を賭けて行うものであり、破れば最悪の場合、両者とも死に至る可能性がある。
※第三者が破っても盟約の違反になる。
「炎竜!」
勢いよくバルトルは剣を振り下ろした。が、マランに弾き返された。
「水…」
バルトルは無理矢理大勢を立て直し次の剣技に繋げたが、マランの方が早く追撃していた。
「くっ…、電円!」
バルトルも意地でマランに一撃を入れ、両者共に後退した。
「このままやり合ってもキリがない。だから、次で終わりにしよう。」
「ああ。分かった。出し惜しみは無しだぞ。」
両者共に凄まじい眼光で見つめ合う中、ハルドルは魔法で速度をさらに向上させた。一方マランは…
(俺の速さじゃあいつに勝てない。なら、仕方ない。『盟約:俺の全てをこの一撃に捧げる』)
マランから立ち昇る闘気がさらに跳ね上がった。
「アイスボール」
地上から3メートルの高さに氷の球が現れた。氷の球が落ち始めると同時に二人は覚悟を決め、剣を構えた。
パリンッ
周りで見ていたものたちは何が起こったのか、速過ぎてわからなかった。視界に捉えることすら難しいほどの速度で二人はぶつかった。
氷の球が割れる音とほぼ同時に二人の中で決着がついた。
「見事だ。」
バルトルは言った。次の瞬間、バルトルは白目を向き地面に倒れた。ただ一人、その場にはマランが立っていた。誰もがマランの勝ちを確信した。
「父さん!」
マカンは走って駆け寄った。
「すまんがマカン、肩を貸してくれないか?」
「ああ。無茶しすぎだ。あのまま死ぬ気かと思ったぞ。」
「まぁ、生き残ったのは奇跡だがな。」
マランは、マカンの肩を借り、少しずつ歩き出した。すると、部下の肩を借りバルトルも起き上がった。
「見事だマラン。決闘は俺の負けだ。盟約通り俺たちはお前たちを攻撃しない。行け。」
「ああ。お互い生きてたらまた会おうな。」
マランはそう言いながら広場を後にした。
【バルトルとマランが結んだ盟約】
一、バルトルが勝利した場合、マラン一行は自首する。
二、マランが勝利した場合、バルトル率いる騎士団第一部隊はマラン一行に干渉しない。
三、第三者の介入は許さない
四、引き分けもマランの勝ちとする
五、勝敗は戦闘不能または降参した場合を負けとする。
広場を少し抜けた先にラムスが魔法陣を作って待機していた。
「マランさんお疲れ様です。後ちょっとで転移魔法の準備ができるのでゆっくりしててください。」
「あぁ、そうするよ。流石に疲れた。」
マランは近くにあったベンチに腰を下ろした。
マカンの肩を借りながらも無事に戻ってきたマランを見て、マルシは安心したように深く息を吐いた。
(よかった。マランさんが無事で。)
決闘が行われている最中、マルシとパルラードは広場を抜け出した。理由はマルシが広場を出ていくところをパルラードが追いかけたからだ。マルシはどうしても見ていられなかった。マランが命を賭けて闘い、少しづつ、確実に死に近づいていく様を、命の恩人の最後を。
「マランさん、準備ができました。帰りましょう皆の待つ村へ。」
「よし、帰るか。」
マカンの肩を借り疲弊し切った体を無理矢理動かしマランは立ち上がった。
地面に描かれた魔法陣にラムスが左手を置き、右手をパルラードが握った。パルラードの右手をマカンが握ろうとした時、奴は現れた。
「流れる水よ、温度は消え、凍てつく槍となれ《氷槍貫刺》」
「!!」
マカンは気付いたが反応が間に合わなかった。
(やぼい!なんか来る!)
すると、最後の力を振り絞ったマランがマカンを突き飛ばした。
「ぐはっ、」
何者かが放った氷の槍はマランの胸部を貫いた。
空を見上げた先に魔法を放った犯人がいた。
「お前は…クイル!」
「クイル、お前、何で!盟約があるだろ!?」
マルシは声を荒げながら言った。
「ああ、あの盟約は第一部隊に関するものだ。俺たち第三部隊には関係ない」
悪魔的な笑みを浮かべながらクイルは再度念唱を始めた。
「流れる水よ、温度は消え、凍てつく槍となれ《氷槍貫刺》」
すみません!気が付いたらいつもより長くなってました!
次回「帰還」




