異変
「フォルティード」
フランはだいぶ魔法念唱にも慣れたようで、着実にゴブリンの数を減らしていた。温泉を出てすぐの時には気づかなかったが、結構な数のゴブリンがいる。具体的に言うと…二十近く。
「サガーズ」
キングゴブリンをも葬った雷属性の魔法。ティラの放ったサガーズは大量のゴブリンを一瞬にして消し飛ばした。
(こわー。)
フランの本音である。
一方トロスは…
「くそっ、どんだけいんだよ!仕方ねぇ。やるか…」
トロスはそう呟き、片手剣を構えた。
「風小爪」
言葉を放つと同時にゴブリンたちは地面に倒れた。死体となって。
【風小爪】
風属性の能力らしく、爪のような斬撃が特徴なのだが、魔法を使えないトロスが使えているので、魔法ではない魔法というよく分からない能力となっている。
「ふぅ、終わったか。」
一方シェンラーは…
ゴブリンたちを秒殺していた。
「やっぱ、新しい武器はいいね。」
シェンラーはまたゴブリンに襲われても即座に対応できるように、ゴブリン専用の武器を買っていた。
【ゴブリンソード】
対ゴブリンに特化している、片手剣である。この剣の一番の特徴は、ゴブリンを切ると火花が散り、周りのゴブリンを燃やすということ。
ゴブリンソードの力もあり、シェンラーは秒で終わらせていた。
「サガーズ」
「ウギャァァァァァ」
フラン、ティラペアも順調に数を減らしていた。クラストは…集中してる。
「?」
何か、何か分からないが、フランは違和感を覚えた。
「…は!」
「フラン、どうかした?」
「いやー、些細なことなんですけど、倒されたゴブリンたちが、チリにならずに消えているんです…」
「?」
ティラは今倒したばかりのゴブリンを見た。すると…
普段ならば少しずつチリになって行くはずの死体が、チリにならずにそのまま消えた。
「これは…」
ティラは考え込んだ。そんなティラの元に、あの男がやってきた。
「二人とも、大丈夫?」
「うん、大丈夫。シェンラーは終わったの?」
ティラはシェンラーに聞き返した。
「ああ。勿論。」
「そ、でも多分終わってないよ。」
「え?」
目の前から、軽く三十はいるだろうか、ゴブリンが歩いてきた。
「嘘だろ…」
「ねぇティラさん、何か気づいたの?」
フランはティラに聞いた。
「うん。このゴブリン、どれだけ倒しても意味ない。」
「え?」
シェンラー二度目の「え?」。ゴブリンを秒殺したシェンラーの働きは意味がなかったことになる。
「それはどう言う…」
シェンラーは聞いた。するとティラはわかりやすく答えてくれた。
「このゴブリンは、普通のゴブリンじゃなくて、召喚されたゴブリンだ。」
「召喚?」
ティラの発言に疑問を持つフラン。
「召喚っていうのは、魔力を消費して、ものを生み出すこと。ゴブリンを生み出すのも理論上可能。誰もやったことないけど。」
ゴブリンの召喚魔法は実在するが、召喚されたゴブリンは敵味方関係なく襲うため、禁忌魔法となっているはずだ。だが、私の予想が本当ならば、禁忌を犯した者がいるということになる。誰がそんなこと…
ティラは考えた。そして、ティラは異変に気付く。そう、根本的におかしなことがある。このゴブリンが召喚された者ならば。
「なんで、このゴブリンは召喚者の言うことを聞くんだ?」
みんなが戦っている中、クラストはただ一人、じっと待つしかありませんでした。ゴブリンは基本、高い攻撃力を持たないため、魔法使いの二人には防御はいらないし、トロスやシェンラーのところに行くと、逆に迷惑になってしまう。ならばどうするか。じっと待つしかない。そんな状況のクラストの心の声。
「いちご牛乳、美味しかったな。」
意外と可愛い、無口の防御役。
次回「サガーズ」