チキンレース(後編)
ブラックジェット団の飛形は悩んでいた。キルスイッチタイマーを使った決闘は知っていたが、まさか自分が直面するとは思わなかった。キルスイッチタイマーは、もう十分生きた高齢者か治療法が無い患者のためだろう。自分はまだやりたい事が多くある。50%の確率にかけるなんて無理だ。
決闘の時間が近付くにつれ、行くか逃げるかに葛藤が起きる。相手が先に逃げてくれないだろうか。
飛形は同じ部屋で爪の手入れをしている同居相手のタカコに声をかけた。
「明日、キルスイッチタイマーを設定してタイマンやる事になったんだけど」
「そう。好きにしたら」
「言うのはそれだけかよ、もしかしたら明日しぬかもしれないんだぜ、、、」
「お互いに干渉しない約束でしょう」
「いや、それでも何か言うことないのかよ」
「怖いならやめたら」
「・・・」
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深夜の河原に50名ずつ、合計100名ほどが向かい合っている。その中央に男が2人向き合っている。また少しはなれたところに1名、少し年かさの男もいる。その男が口を開く。よく響く声だ。
「立会人の、剛田だ。代表両名、左手を見せてくれ」
向かい合った鮫島と飛形が手のひらを見せる。両名の手のひらに赤いアザ。
「うむ、確認した。では勝負は、30分。24時丁度に相手が立っていた場合、キルスイッチが働く。条件に間違いないな」
無言で頷く鮫島と飛形。
「では、始め!」
キックボクシングがベースの鮫島は軽く足を前後に開き右回りに動く。総合ベースの飛形はやや腰を落としその場を動かず眼で鮫島を追う。
ジャブを繰り出す鮫島。その手首を一瞬で掴み引きずり込む飛形。
引き込まれる勢いを利用して手首を掴まれた腕をまげ、肘を飛形の顔に叩き込む。
グジッ、と鈍い音がして飛形の鼻がつぶれる。
飛形はそれでも手首を離さず、鮫島を引きつけ地面に転がし、自分も地面上のグラウンド勝負に持ち込み鮫島のバックを取る。一瞬で背後から首を固め鮫島を落とす。
動かなくなる鮫島をそのままに、ゆっくりと立ち上がる飛形。
2人を囲む群集の片方が盛り上がる。両手を上げる飛形。
と、落ちていたはずの鮫島が起き上がり飛形に後ろからタックルする。倒れた飛形が慌てて起きようとした、その顔面をローキックでサッカーボールのように蹴る鮫島。3メートルほど転がり動かなくなる飛形。
さきほどとは違う側から歓声が上がる。鼻と口から大量の血を吐きつつも立ち上がる飛形。ただ足元はふらつきダウン寸前に見える。それを見て鮫島が右ストレートを放つが、その腕を再び巻き込み投げを打つ飛形。ただ前回と違い川のすぐそばで投げたため2人とも川に転がり落ちる。ここの川はながれが速いため流される2人。
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「タカコ姉さんありがとう。姉さんが書いたシナリオ通り、2人は動いたって。24時でも水の中だったのでタイマーもチャラ」
「バカなやつらだよね。最初からやめておけばいいのに。立会人の剛田さんにお願いして、2つの団は解散させるようにしたから」
「姉さん、流石です。でも、本当は2人とも無事で姉さんも嬉しいですよね」
「それ以上しゃべると、あとでしばくよ」
「ごめんなさーーい」
明るくスマフォをきるリン。