七話 熨斗目の頼み事1
九月が終わりを迎える頃、学校では生徒たちが忙しなく動いている。
この日は明日から2日間開催される文化祭の最後の準備を行っているようだ。各学年クラスでは展示物を展示するスペースの作成や、廊下などに飾るものをパネルに貼ったりしている。
悠月はそんな様子を見ながら最後の文化祭なんだということ事に感慨深い気持ちになっていた。そんなことを思っていた悠月はクラスメイトに声を掛けられ、荷物を運んでいる途中なことに気付き急いで教室へと戻った。
無事に全ての準備が完了し、悠月は明日から文化祭が始まることに胸を弾ませながら帰る支度をし、友達に声を掛けて帰宅した。
帰宅すると玄関は鍵が掛かっていた。母は買い物に出かけたのだろうと考えた悠月はスペアキーで鍵を開け部屋に入り制服から部屋着に着替えた。すると、微かだが物音が聞こえた。
(猫でも入ったのか?いや、母さんは戸締りはちゃんとしていくからそれはない)
そう不思議に思った悠月は物音のする場所に行った。すると、物音が聞こえる場所はかつて祖父が使っていた部屋だった。
部屋の襖をゆっくり開けると、そこにはおかっぱ頭の女の子が立っていた。女の子は扉があいた音に気付いたようで後ろを振り向いた。
悠月と目が合うとお互い時間が一瞬止まったかのように動かなかったが、女の子が急に走り出し押し入れの中に逃げてしまった。
悠月は呆然としていたが、我に返り押し入れの扉をゆっくりと開け、中に居る女の子に優しく声を掛けた。
「驚かしてごめん。物音が聞こえたから何かと思って来てみたんだ」
「脅かすつもりじゃなかったんだ。本当にごめんな?」
奥の隅っこにいる女の子は膝を抱え顔を俯かせていたがゆっくりと顔をあげ悠月の方を見た。
女の子は眼に涙があり、今にも零れ落ちそうなほどだった。悠月は驚いたがもう一度優しく声を掛けると女の子はゆっくりと悠月に近づいて押し入れの中から出てきた。
その後女の子は先程逃げたことを謝った。
「急に逃げてごめんなさい。私と目が合ったことに驚いてしまって・・・」
「いや、こっちこそごめん。お爺ちゃんの部屋に女の子が居るなんて思わなくて吃驚して固まっちゃて・・・」
「・・・。へへ。お互い様って言うやつだね」
女の子は笑いながら言った。悠月は女の子が笑ってくれたことに安心し、女の子に何をしていたの聞いた。
「実はこの部屋にある写真を探しているの」
「写真?」
確かに祖父の部屋に祖母との写真や悠月達も入れた家族写真なんかが沢山アルバムの中にある。
どんな写真かを聞くと、祖父が女の子を撮った写真があるらしい。
「でもどこを探しても見つからなくて・・・ねえお兄ちゃん、一緒に探してくれないかな?」
「分かった。まだ見ていないアルバムとかあるかもしれないから一緒に探そう」
女の子は目を輝かせてありがとうと嬉しそうにお礼を言った。
そして、アルバムを取り出しアルバムの中の写真を見て探したが見つからなかった。他のアルバムも開いて探したが見つからず難航していた。
女の子は悲しそうな顔をしていた。悠月はそんな女の子を見て頭を撫でた。女の子は驚いていたが嬉しそうな顔になり、ニコニコで悠月に撫でられていた。
悠月は撫でながら他に写真なんかあったかと記憶を引っ張り出しながら考えていると、ある場所に祖父が大事そうに写真を見ては閉まっていた場所があることを思い出した悠月は女の子にその場所を伝え一緒に行った。
「おにいちゃん、ここは?」
「ここは、お婆ちゃんが使っていた部屋だったんだ。大事なものはこの部屋に置いておくことが多かったんだ」
そういいながら、棚に向かい下から二段目の場所を開けると小さい箱が入っていた。小さい箱とはいえど写真が入るくらいの大きさだ。その箱を開けると古びてはいるが綺麗な写真が一枚入っていた。
「昔この写真を見たことがあったけど、その時は何も写ってないことを不思議に思っていたんだ。その時お爺ちゃんはこれは大事な写真なんだって言ってたんだよ」
そう言いながら悠月は写真を女の子に渡した。
「あの時お爺ちゃんが言ってたこと分かる気がするよ。とてもきれいな写真だね」
その写真にはとても嬉しそうな顔で笑っている女の子が移っていた。
女の子は嬉しそうに笑い、ありがとうと言った。とても大切に、大事そうに写真を持っている女の子に悠月は微笑んだ。
女の子は暫く写真を見ていたが、ふと顔をあげて悠月の方を見て何故私が見えるのか聞いてきた。
悠月は平然と答え、見えるようになった経緯や女の子が妖怪だということをわかっていた事を伝えると、女の子は目が飛び出そうなほど驚いていた。そんな女の子を見た悠月は思わず苦笑いしてしまった。
「じゃあ改めて挨拶するね!私は熨斗目って言います!この家には昔からずっと住んでいるの!」
「って言うことは座敷童なのか?」
「うん!私座敷童だよ!お兄ちゃんのお名前は?」
「俺は菱矢悠月だよ。よろしくね。熨斗目」
よろしく!と答えた熨斗目は嬉しそうに笑っていた。