四話 倖醒の頼み事2
倖醒は一瞬険しい顔をしたが、顔を緩ませ懐かしそうな表情をしながらゆっくりと話し始めた。
「私はある男に仕えていたと言ったな?その男の名は藤崎禎道という。優しい顔をしていてな。気さくで人にも妖にも同じように接していた、心優しい男だった」
私と禎道が出会ったのは、とある神社だった。禎道は神社に居座り悪さをする妖がいるので祓ってほしいという依頼を受けやってきたのだ。その時私はその悪さをする妖に追いかけられていた。
安全な場所に逃げ込もうとしたその瞬間、その妖に捕まってしまったのだ。その手から逃れようとしたが全く動くことができず諦めていた。
その時、禎道が現れ見事に妖を封じたのだ。
お陰で私は助かり、禎道にお礼を言った。禎道は行く場所がないならば一緒に来ないかと言った。私は禎道に着いていくことを決めた。禎道の力になりたかったのだ。
こうして禎道と共に過ごしていくうちに、禎道の仕事を手伝うようになった。妖退治の依頼や、相談などが主だった。
妖退治の依頼があった時、私が妖を誘き出し禎道の元へ行き禎道が妖を封じる。これを繰り返しやっていた。
そのやり方が嫌だったのだろう、禎道はあまり危険な事はしないでほしいと言われたが、私は例え危険だとしてもお前が助けたいと思った人達を安心させる事が出来るのなら苦ではないことを伝えた。
禎道は顔を歪ませたが、私の気持ちを理解してくれたのだろう。呆れたように分かったと言った。
そうして今まで通りのやり方で妖を祓っていった。
しかしある日突然禎道の態度が急変したのだ。
祓い屋としての依頼相談をやめ、急に呪術師として活動し始めた。
その際、私の力を使って予言をしたり依頼を受け恨みのある人間に災いや病にしたりしていた。
私が逃げてくる前の依頼もこの類だ。
その頃から禎道の中から溢れ出る憎悪が膨らんでいった。日が経つにつれどんどん膨らんでいった。
私はあの優しかった禎道が急にこんな事をするなど信じられなかった。だから私は禎道に何か憑りついているのではないかと探ってみた。すると、今まで祓った妖の怨念や悪霊などが混ざってしまい禎道に憑りついているではないか。
どうにかしなければ。このままでは禎道が壊れてしまうと思った私は禎道から逃げてくる前に受けた依頼を中途半端にやったのだ。そうだ、あとは先程説明した通りだ。
「悠月よ。こんな事を頼むのはお前には荷が重過ぎるかもしれん。だがこの通りだ。頼む、禎道を助けてくれ。私も手伝う。だからどうか・・・」
この話を聞いた悠月は泣きそうになった。倖醒の思いが伝わってくる。
悠月は倖醒に頭を上げるように促し、自分も手伝うこといや、むしろ手伝わせてくれと言った。
倖醒は涙を流しありがとうと感謝した。
そろそろ夕食の時間になることを確認した悠月は、制服から部屋着へと着替え夕食を食べに行った。
リビングに行くと両親が待っていた。珍しくこんな時間まで何をしていたのか聞かれ宿題をやってたんだよと言った。両親は納得し、家族団欒で食事を楽しんだ。
部屋に戻り少し食べる物を拝借し持ってきた悠月は倖醒に渡した。
倖醒はここ何日もまともに食べていなかったのだろう。食いつきが良くあっという間に皿にあった食べ物は無くなっていた。倖醒は悠月にお礼を言うとよほど疲れてたのだろう、すぐに寝てしまった。
そんな倖醒に笑みをこぼした悠月は宿題をやり、終わったらすぐに寝る準備をし就寝した。