三十五話 幻の花を見つけて
妖怪から教えてもらった場所に着いた悠月と足長は周りを見渡したが、見当たらない。もうどこかに移動してしまったのかと考えていたその時、足長が小さな声で見つけたと言ったのだ。
「悠月殿!見つけたぞ!」
「え!本当か!」
そう足長が見ている方を向いたが、悠月からは何も見えなかった。恐らくかなり遠くにいるようだ。足長はおーいと声を掛けながら、相方である妖怪の居る方へと走り出した。悠月は急に走り出した足長に驚いたが、足長を見失わないように足長の後を追いかけたのだった。
暫く走っていると、段々と姿が見えてきた。目の前にいる妖怪は確かに腕が長い。足長は、目の前にいる妖怪に声を掛けた。すると腕の長い妖怪、手長が呼びかけに気付いてこちらを見た。手長は足長を見て泣きそうな顔になり、長い腕を使ってこちらに向かって走ってきた。そして、2人はお互いに抱き着いた。手長は泣きながら足長にごめんと謝った。
「ごめんなさい・・・!ごめんなさい!!」
「謝るな・・・。お前が無事で良かった・・・!」
悠月は息を整えながらも、2人が無事に再会できた事に安堵した。暫くして、落ち着きを取り戻した手長は悠月に気付き驚いていた。足長はここに至るまでの経緯を説明すると、手長は申し訳なさそうに謝った。悠月は手伝おうと思ったから手伝っただけだと言った。手長は改めて感謝し、お礼を述べた。
足長は何故あんな事を言ったのか聞くと、いくら探しても見つからないなら探すのをやめ帰ろうと言ったのだが、それを聞いた足長があともう少しだからと手長を何とか引き留めようと何度もしつこく言ってきたため、疲労が溜まっていたせいか段々イライラし始め、最終的に喧嘩し別れたという。だが、別れてから暫くしてイライラも落ち着き冷静になった所で大変な事を仕出かしてしまったと気づき、嫌われてしまったかもと考え泣きそうになったらしい。
その時に丁度通りかかった、妖怪が心配し話し掛けてきてどうしたのか尋ねたらしく、悠月が足長と出会った時に説明していた事をそのままその妖怪に話した所、手長を慰めつつも幻の花がある場所なら知っているかもしれない人物がいると言われたのだ。それは誰なのか聞くと、
「そいつは人間でな。最近、ここいらの妖怪から相談されたり困っている事があれば手伝ってくれるらしくてな。まあ、変わり者の人間がいるのだ。そいつに聞いてみるといいかもしれん。もしかしたら、その花が咲いている場所を知っているやもしれんぞ?」
と言われたらしい。その人間の名前を聞くと、『ユヅキ』という人間だと言われたようだ。ここら辺でよく見かけると言われた為、ここら辺でその人間を探していたようだ。そして、その人間から教えてもらった幻の花を見つけ足長の下へ持っていけば、驚かせると同時に仲直り出来るかもしれないと思っていたようだ。
その話を聞いて、悠月は驚いた。まさか2人共、妖怪から悠月を頼りに花を見つける事を提案されていたとは。悠月は、そんなに妖怪たちから信頼されているのかと少し半信半疑になっていた。なにせ中には悠月を食べようとしてくる奴が殆どと言っても過言ではないからだ。その度に狒々たちが助けてくれたのだが。
足長は固まっている悠月を指さしながら、この方が悠月殿だと紹介していた。足長は一瞬固まったがその後、ええ!と驚いていた。悠月はその声でハッとし、手長が本当に悠月かと聞かれるとそうだと返事した。
「なら!幻の花が咲いている場所を知っているのか!?」
「えっと・・・幻の花って言う花は知らないし聞いた事も無い」
「そうなのか・・・」
「けど、もしかしたら咲いているかもっていう場所には心当たりあるよ」
「本当か!!」
目をキラキラさせながら悠月を見る手長に戸惑いながらも頷き、案内をするといってその場所まで案内することになったのだった。
そして、歩く事数十分。ある場所に着いた。足長たちは首を傾げた。なにせこの場所は直ぐ近くに川があり、舗装されている狭い道があるだけなのだ。そして目の前には山がある。そんな何の変哲もない場所に花畑が存在するのかと疑っていた。
ある場所とは、以前悠月があるはずのない場所に道が出来ていたという不思議な体験をした場所だ。その先を道を進んでいった先には果ての見えない一面の花畑があったのだ。悠月はそこなら探している花があるかもしれないと思ってここへと案内したのだ。
悠月は地面に陣を書きその上に立ち、悠月の部屋に咲いている白い彼岸花の花びらを一枚ポケットから取り出して、あの時の光景を思い描きながら手に持っている花弁をフッと息を吹きかけた。すると花弁は不思議な事にまっすぐ進んでいき、草木に当たると思いきや花弁はすっと壁に吸い込まれていった。すると、花弁が消えた場所に道が現れた。
3人は驚いた。手長足長は急に目の前に道が現れたことに驚いたのだが、何故悠月も驚いたのかというとこの術を使うのは初めてで上手くいくかどうか分からなかったため不安だったのだが、まさか一発で成功するとは思わなかったため驚いたのだ。我に返った悠月は2人を目の前に出来た道の案内を再開したのだった。
暫く歩いていたその時、悠月が着いたぞと言った。2人は駆け寄るとそこには一面の花畑が広がっていた。2人は初めて見るこの景色に見とれているようだ。
「この場所なら、2人が探している幻の花が見つかるんじゃないかな」
「・・・ああ、そうかもしれぬ」
「・・・綺麗だ。あの子にも見せてあげたいな・・・」
「そうだな・・・。だが、我らの目的は幻と言われる花だ。早速探してみよう」
そう言って2人は花を探し始めた。悠月も探そうとしたのだが、そういえばどんな特徴のある花なのか聞くのを忘れていた。特徴を聞くと、枝に花が咲いているらしく花弁は白く細いようで一夜しか咲かないという花のようだ。枝からなる花は限られてくる。悠月は木々が沢山ある場所に行ってみてみると桜や梅の花などいろんな花が咲いていた。
この場所を探して数分が経った頃、悠月はふと視界に入ったものがあった。それは、白く細い花だ。月明かりに照らされて美しく咲いている花。悠月は教えて貰った花の特徴に似てると思い、もしやこれではないかと急いで足長たちを呼び、この花を見せるとこれだと言った。
「あった。あったぞ!」
「やった!これでやっとあの子に見せる事が出来る!ありがとう、悠月殿!」
「見つかってよかったよ。実は目当ての花が咲いてるか不安だったんだ・・・。でも、あってよかった」
そう言って笑った悠月に何度も感謝した手長と足長。そして、花畑から出た悠月達は道が閉ざされた事を確認してここで足長たちと別れる事に。
「悠月殿、手伝ってくれて感謝する。ありがとう」
「無事に見つかってよかったよ。それに、綺麗な花が見れたしむしろこっちが感謝したいよ」
「早くあの子に見せようよ!この花が枯れる前に」
「そうだな。では、我らはもう行く。世話になったな」
「またね!」
「ああ!気をつけて帰れよ~」
そう言って手を振りながら2人を見送った悠月は、自身も家へと帰ったのだった。悠月の手にはあの幻の花。悠月はその花を金魚鉢に浮かべた。一面に浮かぶ幻の花はまるで絨毯の様なとても綺麗な光景だ。見惚れていると、下から声が掛かった。夕食の時間のようだ。悠月は返事をし、下へと降りて行った。早く両親に合格発表の結果を報告をしなければ。