十七話 狒々の頼み事
雑貨屋さんでノートなど必需品を買いに来ていた悠月は雑貨屋での買い物を済ませ、家に帰る前に雑貨屋のすぐ近くにあるコンビニへ寄った。中に入り、色々見ていくと、お菓子コーナーに悠月の目を引くものがあった。そこの前に立ち、悠月はどっちを買うか悩み始めた。悠月の目を引いた物とは新商品のチョコレートだ。抹茶とほうじ茶の二種類のチョコが売られており、どちらも買いたいところだが、先程雑貨屋で買い物をしたため手持ちが少なく一つしか選べないのだ。
(どっちにしよう・・・。悩むな~・・・。)
「うーん・・・よし!こっちにしよう」
そう言って手に取ったのはほうじ茶のチョコだった。抹茶は後日買いに来た時にでも買おうと決め、レジにいって買ったのだった。
無事にチョコを買えた悠月は家に向かって歩いて行った。途中、少し遠回りをしようと来た道とは別の道を歩き始めた。悠月が歩いている道は舗装されていない。所謂林道と言われる道だ。林道を歩いていた悠月は段々と色が濃くなり始めた紅葉たちが心地の良い風に吹かれていてゆらゆらと葉を揺らしている。その風に乗せて微かに甘い香りが漂っている。金木犀だろうか。そんな香りを楽しみながら、歩いていると、茂みからカサカサと音が鳴った。悠月は疑問に思ったが気のせいかと思い歩き出そうとしたが、音が段々と近づいてくるではないか。
悠月は音が近づくにつれ段々と怖くなり、逃げる準備をしたその瞬間茂みから何かが飛び出てきた。うわああああ!と叫んだ悠月は恐怖のあまり腰を抜かしその場にへたり込んでしまった。
ドスン!と音を立てながら悠月の目の前に降りてきた何か。降りてきた影響だろうか、強い風が吹いた。思わず目を瞑ってしまったが、目を開けるとそこに居たのは2mはあるだろう獣がいた。見た所、猿に見えるが猿にしては大きすぎる。このことを踏まえると考えうることは一つ。それは、妖怪ということだ。
腰を抜かしていたが、冷静に考えていたおかげか段々落ち着いてきた。そして一呼吸した後、目の前にいる獣に問いかけた。
「お前妖怪なのか?」
すると、妖怪?は嬉しそうな顔をしながら答えた。
「おお!お主わしが見えているのか!そうかそうか。いかにも、わしは妖じゃ」
「やっぱりか・・・何の妖怪なんだ?」
「わしは狒々という妖じゃ。昔からここらに住んでいるのだが、まさかまた見える者と出会えるとは。うれしいのう!」
そう言った狒々は余程嬉しかったのだろう。小躍りし始めた。狒々が足を落とすたびに振動が来て、草木が揺れる。悠月は狒々に嬉しい事は分かったから踊るのをやめるように言った。狒々は踊るのをやめ、シュンとした。悠月はそんな様子の狒々に咄嗟に怒ってるわけじゃないことを伝えると、狒々は優しいなと言い悠月の頭を優しく撫でた。少しくすぐったかったが、なんだか祖父に頭を撫でられている感覚がした。
すると、狒々はあ、と何か思い出したかのように声をあげた。不思議に思った悠月はどうしたのか問い掛けた。狒々は頼みたいことがあると言い、頼みたい事とは何かと言い掛けた所で悠月の体を持ち上げ脇に抱えた。悠月はえ?と思っていたその瞬間、狒々は颯爽と森の中に入っていった。悠月は人の話を最後まで聞け!と怒り気味で怒鳴ったのだった。
漸く動きが止まり、着いたぞ!と狒々が言った。だが、悠月は返事をする気力もない。何故かというとここに来るまでに、木々を伝って飛んでいたのだ。そして、移動するたびに体が揺れるため段々気持ち悪くなってしまったためだ。ということで悠月はいつも以上に疲れていた。狒々は悠月を降ろし、ここがわしの住処じゃ!と言った。住処?と疑問に思った悠月は顔をあげた。
すると目の前には大きな屋敷があった。悠月はここが狒々の住処ということに驚きを隠せないでいた。だが屋敷をよく見ると、かなりボロボロの状態で障子や襖などに穴が開いており、張替など以ての外。
この場所はどちらかというとよく心霊スポットとして紹介されているような建造物に近いだろう。
悠月は少し嫌そうな顔をしたが、門の所にある表札が気になり立ち上がり門の前に移動した。表札には「水守」と書かれていた。水守という文字何処かで見聞きしたような気がした悠月だったが、狒々がこの家の事を話してくれた。
「この家は昔祓い屋を生業としていた一族が住んでいたのだ」
「祓い屋?確か祓い屋って妖怪や幽霊のような奴らを祓ったりする人達だっけ?」
「ああ。だが数十年前にこの家の当主が亡くなったことでこの家に住んでいた人間は一人もいなくなってしまった。跡を継ぐ者など当然居なかった」
「その亡くなった当主が水守家最後の当主で、跡取りも居なかったってことか」
「そういうことだ。人の一生などわしらにとっては一瞬なのだから」
確かに長い年月を生きる妖怪とは違い、人間の寿命なんてたかが知れている。人間と妖怪の時間は同じようで同じではないのだ。住む世界も見てるものも同じなようで違う物なのだ。そのことを痛感する悠月だったが、狒々が是非とも中に入ってくれと言い背中をグイグイ押してくる。そこでハッとなり背中を押してくる狒々に向かって分かった!入る、入るから押すな!と困惑しながら言った。
狒々に押されて門を潜り、玄関を開け中に入ると目の前の光景に驚きを隠せない悠月。それは何故か。外から見た時からは想像出来ぬほど綺麗だったからだ。外からでは障子や襖も穴が開いていてボロボロだったのに、障子も襖も穴が開いていないどころか新品のように見える。まるで、今の今まで人が住んでいたかのような普通の家のようだったのだ。
目の前の光景を見て呆然としている悠月に狒々は何故この家が綺麗に見えるのか説明をした。
「この家には特殊な結界が張られているようでな。普段は外から見た通り中も同じようにボロボロなのだが、この屋敷に『客』として迎え入れると中が当時のままの状態になるのだ!不思議だろう?」
「いや、不思議すぎるだろ・・・」
(というか、どっちかというと魔法と言われた方がしっくりくるんだけど・・・)
ともかく、この屋敷に招かれなければただのぼろ屋敷、招かれれば本当の屋敷に入る事が出来るということは身をもって知ったため何とか納得した悠月。
「そう言えば、頼み事があるって言ってたよな?頼み事って何のことだ?」
「おお!そうじゃった!忘れとったわ!実はな、ある部屋を開けて欲しいのだ」
「ある部屋?」
「ああ。その部屋は何やら結界が張られているらしくてな。何度も試したのじゃが、弾かれてしまって手も付けられんのだ」
その部屋がどこにあるのか問うと、こっちだと言いその部屋の前まで案内をしてくれた。そして例の部屋の前に着き、悠月は襖に触れたがビリっと電流が流れた気がした。まるで静電気で車やドアノブに触れた時になるような感じだ。とても痛い。右手を振りながら、確かにこれは開けることすら出来ないと思った悠月は襖を見た。すると、下の方にお札が貼ってあるではないか。剥がしてみようと試みるが先程と同じようにビリっとなった。無理に剥がそうとしても無理なようだ。
悠月は他の部屋に何か書物が置いてある部屋なんかないかと狒々に聞いた。すると、この部屋から3番目の部屋に大量の書物があったと言った。悠月はその部屋に向かいあの結界を解く方法を探すのだった。