十一話 違和感
学校から帰宅する道中、悠月と和馬は溜息をついていた。顔を見るとかなり疲れているようだ。
どうして2人がこんなにも疲れているのかというと、数十分前に起こったある男との会話が原因だ。あの男とは、2人の親友である喜田村秋人だ。
数十分前、HRが終わり皆が帰る支度をしている時にそれは起こった。
「悠月、帰るぞ!」
「ああ、ちょっと待ってくれ。・・・これで良し。帰るか」
「いいなあ・・・ずりいなあ・・・・」
「何が?」
「俺も一緒に帰りたい!!お前らだけずりいぞ!!!」
「いやそういわれても・・・」
帰りたい!帰りたい!と駄々をこね始めた。それを見た2人はなんとも言えない顔になっていた。完全に我儘な弟の世話をしている兄たちみたいな構図になっている。
悠月と和馬は家が同じ方向に対し、秋人は反対方向つまり2人とは帰り道が真逆なのだ。そして、部活も引退したので最近は一緒に帰ることが増えてきたのだ。そのせいか、ここ最近先程のようなことが何度も起きているのだ。そして、それを宥めるのも2人がやっている。周りは楽観的にまた始まったとしか思っていない。2人もまたかと思ってはいるが、今日の駄々は一段と激しかったので宥めるのにも時間がかかり、余計な体力を使ってしまい絶賛精神と身体が疲れている状態だ。
「はあ・・・今日ほど疲れたことはないぞ・・・」
「そうだな・・・はあ・・・」
先程から溜息が止まらない2人だったが、和馬があることに気付く。
「あ、悠月。家通り過ぎてるどころじゃないぞ」
「え?・・・あ、全然気づかなかった」
「ごめん、気付くの遅くなった・・・俺らが気付かないってことは相当疲れてるってことだな・・・」
「そうだな・・・。あ、あそこの自販機でなんか飲もうぜ。少し休みたい」
「俺もだ。よし、ちょっと休むか」
そうして2人は自動販売機で飲み物を買い、近くにあるベンチに腰を下ろし休憩することに。
「そういえば、結構来たけど大丈夫なのか?」
「ん?ああ、この先にある道を曲がれば帰れるから大丈夫だ。それに昔から何回も通っているしな」
「そっか!それよりさっきの秋人の事なんだけど、」
「ああ・・・あれはな・・・」
悠月はあの事を思い出し遠い目をしていた。
最近秋人の暴れる頻度が高くなった事や、たまに泣きつかれることもしばしば。悠月はもはや妖怪か何かに憑りつかれているのでは?と考え始めたが、その考えは一瞬で吹き飛ばされた。思い返せば、1年の時からあんな感じだったことを思い出し、あれが通常運転だ。あれが秋人なんだ。と納得し呆れた。それは和馬も同じだった。
その後は秋人の話から切り替えて他愛もない話をしたり、進路について少し話したりして2人は飲み物を飲み干し、じゃあまたなと挨拶をしてそれぞれ帰っていった。
2人は秋人の事を散々言っていたが、なんだかんだ秋人の事を大切に思っているのだ。でなければ、あんな事をされても一緒に行動したりはしないだろう。もしされたら、殆どの人は秋人の事を見放したり、一緒に遊んだり行動したりすることはないだろう。
だが2人はそれでも秋人の事が大切なのだ。親友なのだ。
だが親友だからと言って限度もある。明日悠月は秋人に対しこれ以上やるなら一緒の高校には行かないことを伝えようかと思いながら歩を進めていた。
その時、なぜか違和感を感じた。悠月は周りを見渡し確認すると、少し後ろに先程まで無かった場所に謎の入り口があった。悠月はその入り口に近づき見てみるが何も見えない。見えるとするならば、木々が生い茂っていることぐらいだろう。
悠月は入ろうかと思ったが、もう少しで日が沈むので明日またここに来ようと思ってその場所を後にしたが、なぜかまた入り口の所に戻ってきた。まっすぐ歩いたはずなのになぜか戻ってきてしまった。その後何度も試すが同じことの繰り返しとなってしまった。
悠月は先程の違和感はもしかしたら妖の領域に入り込んでしまったのかと思った。この道は何度も通っているがこんな道は存在していない。なのに目の前には存在している。悠月は見えるようになってしまったからなのかいろいろ考えたが、この場所から抜け出せないのならば入るしかないと思い、意を決し入ることにしたのだった。