五十八話 生きる英雄
レヴィさんは利用していたと言い、クリフさんは利用してないと言い出した。
そのことに私よりもレヴィさんの方が驚いていた。
「なにを言ってるのかしらクリフ。偽善はやめなさい」
「レヴィ俺はさっき言ったはずだ。リアラを探すためにダンジョンを利用するのが早いと思ったから俺は西の街を襲わせた」
「アハァ…何を言ってるのかしら。それこそリアの望まない行為をしているじゃない」
「俺はリアラのためなら街ごとき壊れてもいいと判断した。それにそのときに出会ったリアラは何も知らなかったから都合も良かった」
勝手に言い争ってくれているが。クリフさんは私を探すためだけに西の街を破壊して王都もそんな程度の理由で勝手に暴走してたのだろうか。そして私を利用してないと言う。
そしてレヴィさんはどうだろうか。都市に対して避難勧告をしていた。王都の民を憂いて涙を流していた。そして私を利用したと言う。
「貴方…やっぱりリアが特別なのね?」
「なにを言ってるか分からないがリアラは俺にとって大切な人だ」
「ふざけないで頂戴。貴方が貴方達がおかしいことを言うとき必ずと言っていいほど魔核結晶が絡んでいるじゃない。その発言はそのためにリアが利用できると判断したとしか思えないわ」
私はどうすればいいのだろうか。ダンジョンの方を見れば揺れはどんどん強まってる気がする。
恐らくだが二人が話し合ってたことからダンジョンの魔物が解放されて都市を襲ってしまうんじゃないだろうか?そうでなければレヴィさんは何のために避難勧告をしたのか。
その後は二人が元々の計画だった王都へ襲撃に向かうのだろう。
「リアラ!俺に言ってくれれば今からでもダンジョンを止めることができる!俺を求めてくれ!」
「リア!そいつは嘘つきよ!欺瞞と偽善に満ちた言葉で貴方を騙す卑劣な存在。私を信じて!」
そんなことを言われても。
「分かるわけないじゃないか!二人の言うことが分かるわけないんだ!どっちも嘘をついて私を騙そうとしてるんじゃないか…なんで私に優しくしてくれた人達を殺したんだクリフさん。どうして避難勧告をしてまで救おうとしてた都市をこれから襲うんだよ…レヴィさん…もう私にどうしろって言うのか分かんないよ」
「私はただ…貴方を…」
「俺に助けてほしいと言ってもらうためだ」
クリフさんははっきりと告げる。ただもう蹲ることしかできない私に対して。
「俺だけを求めてほしい。俺に助けてと言えば俺はいつだって助ける」
「どこがだマッチポンプ野郎が!お前がやったことが原因で大勢の人が死んだのに何が助けるだ!」
「言ったはずだ。決めないと後悔すると。だから計画には元より参加してた俺はダンジョンを活性化させた。大勢の人が死んだ?それでも助けるに決まっている。俺にとってリアラが生きてくれることが一番大事だからな」
「そんなこと知ったことか!私からしたら今のお前は最低だ。狂人が今さら綺麗ごと言ってどうするんだ!」
本当に私は蹲るだけしかできないのだろうか。今ならまだダンジョンをどうにかできないだろうか?
この都市には避難してない多くの人達がまだいるんだ。誰かが止めないといけない
「リア。きっと貴方のことだからダンジョンを止めようとしてるのだと思うけれど無理よ。だってアーライナは35階層以上もある大型の魔窟だもの。3階層で苦戦してた貴方が溢れ出る魔物に対して何ができると言うのかしら?」
「レヴィさん、私は尊敬してた。私が想像してた無辜の民を守る理想の貴族なんだって。そんなことが綺麗事だけで済まない気持ちも私には分かる。それでも超えちゃいけないラインていうのがあるんだ。それを超えた時点であんたが言ってた腐ってた王族と何が違うのか私には分からないんだ」
諦めないで良いよって言ってくれたじゃないか。だったら私は諦めずにまだこの手で救える何かがあるのならこの都市を守るために朽ち果てたっていい。
立ち上がってまだ震える地面によろめきながらもダンジョンの方へ行こうとしたとき、私の目がクリフさんが動くのを見て咄嗟に横へ飛べば私の足目掛けて剣を振っていた。
「リアラ、行くなら俺は止める。こんな都市にリアラの命は勿体ない」
「助けるどころか剣を向けて相手に命乞いを求めるところが最低だって言ってるんだ」
「アハァ…やっぱりこうなるのね」
レヴィさんがなにか仕掛けてくると思い魔導に対してはどう避けるか考えていると、その腕の向き先は私ではなかった。
「解き放て『龍の飛瀑』」
「ぐっ!?」
クリフさんに向けられた高圧水をどんな反射神経してるのか、そしてどんな剣技なのかもわからない一振りで高圧水が二つに裂けて斬られた。
「レヴィお前、本気でやる気か?」
「やるわけないじゃない。リアを貴方が斬ったら足が生えなくなるでしょ」
「歩けなくても俺がいれば問題は無い」
あくまで味方ではないのかと期待があったが私にも魔石を向けてきていて二人が勝手に争ってくれる分にはいいけど私が動けば二人は私を攻撃してくるかもしれない。
そんな不安を抱いていたがクリフさんは先にレヴィさんを仕留める気なのか一直線にレヴィさんの元へ近づき剣を振るがそれが飲み込まれたように剣の刃が消し去られる。
「ファルメナの領域を犯せ『死龍の汚濁』」
たしか毒の瘴気をまき散らす魔導。それを発現させて私を巻き込むほどの大量の瘴気が周囲を包み込む。
それを吸い込めば肺が胃が喉が体内が燃えるように熱く思わず咳込みながらもかきむしりたくなるほどの衝動に駆られる。
「『追いづぎだい』」
レヴィさんがここに来るとき教えてくれたことを信じて私は毒を克服できるとそのために体を毒の体性があると追いつきたいと願う。
正直効き目がそんなにあるかと聞かれたら疑問でしかないが、多少は楽になったかもしれない程度で二人がどうなってるか見れば、無くなっていたはずの刃が元に戻っていてクリフさんの剣戟をレヴィさんが魔導で防いでいる状況だった。
現状どっちの存在もやばいが。レヴィさんを防戦一方にしてるクリフさんの存在一人が脅威すぎる。
レヴィさんに関しては私をなんだかんだと気遣ってくれていたことを思えばこの毒も私なら克服すると思って攻撃したはずだ。今最も危険な方を何とかしなければならないと両足に力を込めて歯を食いしばりながら熱い体内を無視してクリフさんに向かう。
休憩していたときに置いた斧槍を手に持ち。ミノタウロスと戦っていたときにクリフさんの剣戟に耐えていたこの斧槍なら多少は食らいつけると信じて背後からクリフさん目掛けて斧部分が当たるように振るが。それは後ろに目でも付いてるのか剣を自身の体の真上を薙ぎ払うように弾かれ防がれる。
「リア離れていなさい!『砂塵の大喰らいより無数の牙』」
離れろと言われたときに後ろに飛ぶが私のところまで迫りくる地面から生える牙が私の足を貫く。
痛みに耐えながらクリフさんがどうなったかを確認すると空高く跳躍して避けていた。
「人間じゃないだろあれ」
「同感だわ。『砂塵の飛瀑』」
空中に向けて、かつて巨大グランダに対して行われた。砂嵐を螺旋状に描きながらクリフさんに向けた魔導が放たれる。
水とは違って無数の砂が飛び交っているこれをクリフさんがどう対応するのかと思っていたら体をひねりながら砂嵐の螺旋をかいくぐりながら多少の傷で地面に着地していた。
「本当嫌になるわ」
「俺も今ならお前の気持ちが分かるよ。邪魔する相手がいれば苛立ちもするんだな」
「粘着質な男は嫌われるって聞いたこと無いのかしら?」
「悪いが聞いたことないな。初めての恋ってやつだ」
実際クリフさんに頼めばダンジョンも本当に何とかして見せるんじゃないかと思うくらいに強い。というか異次元すぎる。
レヴィさんも周囲など気にせず魔導を放ってるがそれも無駄だと言わないばかりに多少傷付く程度で済んでいる。
勝てるのか?こんなのに。そんなことを考えた時に背後から遠吠えのような鳴き声のようなものが聞こえてきた。
―オオオォォォォォオン
後ろを、ダンジョンの方を見れば大量のウェアウルフがダンジョンから這い出てきてそれが都市に向かって走って行く。
何か方法は無いのか?こんなところで争って結局時間を無駄にしただけで私は何も出来ていない。
「クリフさん。強いのは分かった。とりあえずダンジョンを止めて欲しいんだけどそれが叶わないなら私は自害する」
「そうか、大丈夫だ。生き返るから安心してほしい」
本当のヤンデレはこっちの方だったのかと思うが。ここまで狂っていたら何を言っても無駄ではないだろうか。
「クリフ貴方もう開き直ってるのね。やっぱりリアが魔核結晶に関係してるのかしら」
「関係してるんじゃない。リアラが魔核結晶そのものだ」
「いよいよ人間と結晶の区別もつかないほど狂ったのかしら?それとも魔核結晶は結晶ではなく人間だったとでも?」
「時間稼ぎのつもりか?」
「違うわよ。答え合わせしたいだけ…私の性格少しは知ってるでしょう?」
二人の会話も気になるが、今のうちにダンジョンの方に行けばもしかしたらと思い走りだせばレヴィさんの魔導がすかさず飛んでくる。
「『龍の飛瀑』」
「『治れ』」
足を狙い打ってくると信じて言霊を乗せて無理やり走るが後頭部に鈍痛が響き私の体は前転するように転んで視界がぐらつきながら見てみればクリフさんが私のところまで迫って後頭部を殴り飛ばしたのだろうと分かった。
剣で斬られなかったのは幸いだろうと思っていたが。剣はレヴィさんの魔導を防ぐのに使っていた。
「なんなんだよ。助けるならちゃんと助けろよ」
「そのために必要なことをしてるだけだよ」
都市の方で遠吠えが聞こえながら、ここまで届かないはずの悲鳴まで聞こえてくる気がして。私はもう思考を放棄したい気持ちを回転させて考える。
「私が魔核結晶ならクリフさんの願いを叶えないと願えばいいのか?」
「そう、するのか?」
「アハァ…リア違うわ。クリフの願いと真逆を願えば貴方なら抽象的でも実現できるはずだわ」
レヴィさんがそう言った途端にレヴィさんが放ってた高圧水を一閃して斬り飛ばした後に剣を鞘に納めた。
「そうか…じゃあ俺はなんもできねえわ。あー疲れた」
戦意喪失と見ていいのか。私は立ち上がり都市に向かおうと思ったがクリフさんから止める声が聞こえた。
「リアラ。レヴィは奥の手を使ってないぞ。本気で向かう気ならもう間に合わないしリアラがレヴィに勝てるとは思えねえ」
「だからって諦めたら…それで私に何が残るんだよ!」
「同感だわ。本当にもうリアはやっぱり…諦めたって言いながら諦めてないのだから困るわ」
同感と、同意の意を示すならもう私を止めないで欲しい。そう思ってレヴィさんを睨むとそこには涙を流しながら私に優しく微笑む姿で立って魔石を私に向けている。
「どうして私のことを分かると言いながら分かってくれないのかしら。一番悔しいのは貴方かしら?それとも私なのかしら?私は止めるべきなのかも分からないわ。貴方がいつも私に答えを求めてきてたように私にも答えを教えて欲しいの。私は今貴方を止めるべきなのかしら?」
いつから泣いていたのかは分からない。クリフさんをどうにかしないとと思っていた。
レヴィさんが放つ魔導の挙動を見るために顔なんか見る余裕なんかなかった。
彼女がいつから泣いて戦っていたのかが私には分からない。泣きながら私を行かせるべきなのか葛藤しながら自分の行動がいつも正しいかなんて誰にも分かるわけない。
それは私が感じたことで、他の誰かもそう思って当然なのに。
「私が…レヴィさんの立場ならきっと止めてる…」
「じゃあお願いよ。もう私を苦しめないで欲しいわ」
「ただ…言えることがもう一つ…レヴィさんが私の立場ならきっとレヴィさんは進んでると思う」
「そうね。きっとそうだと思うわ」
一体誰が悪いのかなんて分からない。ただ今は。都市に残っている人達を諦めて。目の前にいる少女を抱きしめることしか頭になかった。
「ごめんなさい。そしてリア。ありがとう」
ダンジョンの方を見れば新たなる魔物が這い出て真っすぐと都市に向かって崩壊の音を奏でている。
「また私は何もできないままだ。英雄に合わせる顔が無い」
「リアラそれはちげえな。言ったろ?リアラは魔核結晶そのものなんだからどうにかしようと思えばどうにかなる」
「クリフさんの言ってる意味がわかんないんで言語力もう少しなんとかしてくれませんか?」
「すまない…けどなぁ。それを刻んだ本人が記憶を失ってるときたらどうしようもないだろう?」
さっきから何を言ってるのか。たしかに前世の記憶はおぼろげだけど、私は私のはずだし。
「俺がリアラを一度殺したと言ってもピンときたりしないか?」
「それは…なんか夢で見たことある。あります」
「好きに話してくれ。夢か…レヴィはなんか分からないか?」
レヴィさんは涙を拭って一緒に考えてくれるがそもそも魔核結晶というものを見たことがないからレヴィさんにそれを聞くのは無茶ぶりじゃないだろうか。
「私はクリフの言ってる意味がそもそも分からないわ。魔核結晶も魔石と同じなら刻まれた回路しか効果は発揮しないんじゃないかしら」
「魔核結晶は願望具だ。リアラを一度殺して胸から取り出したら輝いて消えた。多分だがリアラにしか使えないんだろうと思うんだが」
「それなら生き返ることを願っていたんじゃないかしら?」
「生き返るならいいが記憶を失ってか?それ以前に俺が最後に見た時は回路は刻まれてなかったはずなんだが」
それだと夢の内容と合わない気がする。たしか夢の中ではベッドの中で幼い私が何かレヴィさんと同じようなことをしてたはずだ。
「夢の内容で良いなら、私は魔核結晶に回路を刻んでいたと思うんだけど…」
「じゃあ俺には分からないな。あの後も湖を探したがそもそも湖そのものが消えていたからな」
依頼を達成しようとしてたとか嘘つきまくってるじゃないかこの人。
「リア…貴方確か風を起こしていたわよね?貴方はそもそも魔導を使いたかったんじゃないのかしら?記憶を失ってももし同じ人格なら同じ考えに至るんじゃない?」
「多分だが違うな。人格が違う。俺が初めて会ったときはもっと大人しかった」
「だとしたらリアが自分の体を作り変えるほどの魔導回路を刻まれてる理由が分からないわ」
私は少し考えた後に思ったことをそのまま話してみる。
「あのさ、そもそも私って魔核結晶ってやつを刻んだり加工してたはずなのになんでクリフさんに殺されたときに体内にあったの?」
「食べたんだろ」
「食べたんでしょうね」
そんな二人とも。息ぴったりに言われると頑張って考えてる私が馬鹿みたいになる。




