五十七話 アーライナ
「朝です!」
「朝ね」
そんなやりとりをした後に「おはよう」というやりとりをしてレヴィさんは今日は魔石の加工をしてなくて椅子に座りながら窓の外を見ていた。
「今日はいつものやつしてないんですね」
「たまには休みたいわ。そんな気分もあるかしら」
「起こしてくれてもいいんですよ?まぁ、朝食作ってきますね」
「お願い」
朝から重たいものを食べさせるわけにもいかないので野菜炒め程度にしかならないが朝食を持って行くと毎回必ず「美味しいわ」と言って食べてくれるので料理の修行でもしたほうがいいかもしれない。
食べた後は食器を片付けて、一緒に外を見ていたらレヴィさんがいつの間にか私を見ていた。
「私の話を少し聞いてもらえるかしら?」
「いいですけど。どうしたんですか改まって?」
「リアの魔導回路についてなのだけれど、恐らく私の仮定では貴方は無限ともいえる可能性を秘めてるわ」
「いきなりすぎてついていけません、どうしましょう」
「まぁ聞きなさい。もしリアが前みたいに強さを求めた時、自分の体を作り変えるイメージでやってみなさい。もしくはそうね。纏わせると言ったら分かるかしら?例えば貴方の体から放出してる魔力を炎を噴出してるイメージとか、サラマンダーになったつもりになりなさい」
サラマンダーってなに!?私はそんなにふぁんたじぃ生物に詳しいわけではないのだ困る。
「じゃああれですか?ドラゴンの鱗とかも生えたりするんですか?」
「イメージ出来るならそれでもいいわ。そうすることできっとリアは何にでもなれると思うの」
「むぅ…レヴィさんが使ってた魔導の方が便利そうです」
「毎日加工してばかりできっとリアは飽きるんじゃないかしら?」
そう言われたら一緒にいる人がいればできそうだけど一人だと出来なそうな気がする。運動とかしてる方がもっと無心になれる。
「私が神様になりたいとか願ったらなれますかね?」
「アハァ…私は神を見たことがないから分からないわ。ただリアならきっとなれるわ」
そこまで言うならたしかに無限の可能性とやらを私が秘めてるのかもしれない?
ただレヴィさんが真面目な顔をしてるので私のことを考察したり色々ずっと考えていてくれていたのかもしれない。
失敗しても別に問題なさそうなら試してもいいけど炎が噴出すると私火傷しちゃうんじゃないのかな?鱗も生やしたらもはや人間から逸脱してしまいそうだ。
「そうですね。レヴィさんがピンチになったらやってみます」
「リアの人生なのだからもっと自分のために生きた方がいいわ」
呆れられながら言われるが。その言葉が優しさで溢れてることを感じる。
そしていつもの時間になったのかノックの音が聞こえてクリフさんが来たことを告げる。
「入りなさい」
「なんだ?今日は歓迎してくれるのか?」
「ダンジョンにいくわ」
「そうか。リアラは大丈夫なのか?」
「大丈夫ですけど順応性高すぎません?一言二言で済ます程度にクリフさんは強いんでしょうけどもっと考えたりするかと思いました」
「いつかは行くと思ってたから特に何も思ってないぞ?」
クリフさんは行くと分かってたのか。それなら納得だけど、何しに行くのかも分かってるのだろうか?
移動しながらでも聞けるので外に三人で出ると少し新鮮な気分を感じながら東に向かう。
「1階層まででいいって言ってましたけどどんなことをするんですか?」
「魔導を適当に放つ感じよ」
「試し撃ちですか?何かの実験です?」
「実験成果と呼ぶべきかしらね」
もうすでにレヴィさんはどんなことが起きるのか分かってるのかあまり楽しそうではない。
実験成果と言うならもっと喜んでもよさそうなのに。戦闘そのものが好きではないのかもしれないから戦いに使う魔導をあまり好んでないのかな。
「クリフさんもなにするか知ってるんですか?」
「大体は分かるが。今回はちょっと分かんないな」
大体が分かるだけでも凄いのだが。ちょっと雑な感じで言われた気もするけど、レヴィさんがいるからなのか手も繋いでこようとしないし、もしかしたら昨日のことを怒ってたりするかもとかと不安になる。
ダンジョンまでのんびりと歩いて着き。久しぶりにダンジョンに入ると相変わらず壁が光るので捕食しようと感知してるんだろうなと思うと不思議不気味現象だ。
階段を降りるとしばらく進んだあとにスライムをクリフさんがサッと倒して見せて。少し進んでレヴィさんが止まる。
「リア、壁にちょっと張り付いてもらってていいかしら?」
「別にいいですけど。私ダンジョンの壁あんまり好きではないのですがどれくらい張り付いてればいいですか?」
「そうね魔導を使った後なら大丈夫よ。終わったら言うわ」
私は言われた通り壁に背中などを張り付けて、なんというかちょっと情けないような感じにペタッとしてる。
クリフさんはレヴィさんの手伝いなのか魔石を渡されていて色々配置し始めている。
そんな危ないことでもしてるのかと思いながら見てるとクリフさんが丸い玉。雨避けに使ってたものを取り出して配置した魔石の中央に置いた。
「クリフやりなさい」
てっきりレヴィさんが魔導を使うのかと思ったらまさかのクリフさんに声をかけてクリフさんが詠唱を唱え始める。
「『破砕し、構築しろ。自らの名を刻め』」
―ゴゴゴゴゴゴ
ダンジョンが地震を起こすように揺れ始めて、私はバランスを崩さないように壁にもっと張り付いてバランスを保ちながらその詠唱の続きを聞く。
「『生を受けよ。身体を持て、自らを意識しろ』っともういいか」
なにがもういいのか。ダンジョンが激しく揺れていて二人ともよく立っていられるなと感心してしまう。
ただしばらくするとダンジョンの揺れも収まってきて、何事もなかったように落ち着いた。
「終わったわ。戻りましょうか?」
「もう終わりですか。早かったですね」
「この後は少し移動してそこでゆっくり過ごしましょう」
私達は来た道を戻って階段を上りダンジョンの外へ出る。
そしてダンジョンの裏に進むように歩き出したのでついて行くけど、こっちに何かあるのだろうか?と思いながら歩くとそんなに離れてない位置で止まる。
「さて、何から話しましょうかリア」
「それなら何をしたかについて聞きたいです。ダンジョン揺れてましたけど大丈夫なんですか?」
「魔導よ。ただ今回使ったのは聖教会の方が使う魔導だわ」
私には王国も聖教会も似たような物だろうとしか思えないけど何か種類が違うのか。
「聖教会はそうね…クリフの方が詳しいから説明しなさい」
「俺?ここで俺か、聖教会は主に神聖な儀を執り行ってだな。それで魔導を使うんだけど」
「もうすでに分かりません…!」
神聖な儀って何?さっきのやっていたことが神聖なのだろうか?
「神聖な儀って言うのは聖教会の建前みたいなものよ。魔導回路を刻むに至って刻みたい者は自分で立候補できる、ただそれは失敗するかもしれないし成功するかもしれないギャンブルみたいなものよ」
「それって失敗したらどうなるんですか?」
「死ぬわ」
そこまでする人はいるのだろうか?いや、さっきレヴィさんじゃなくてクリフさんが使っていたしクリフさんって立候補して自分から魔導回路を刻みに行ったのか。
「あ、言っとくが俺は拒否権なんかなかったぞ?受けなきゃいけない状況だったからな」
「リアにも言ったと思うけれど聖教会も別に全てが善というわけではないわ。王国より安全だしそういう環境でもない限りは一応拒否することも可能よ」
「できればクリフさんの説明だと分かりにくいのでレヴィさんに説明してほしいんですけど」
「わりい…」
単純にレヴィさんが教え上手なのだと思うから責めてるわけではない。
「そうね…見た方が早いと思うわ。きっとそうすれば貴方は分かるわ」
「だからここで待機なんですか?」
「そうよ」
「じゃあ何を話そうとしてくれたんですか?」
「これからについて…かしら?」
そうか、王都に向かったりとか色々予定が詰まってるんだっけ。昨日はなんだかんだレヴィさんに協力してもいいと思えて来ていたし。王国が腐ってると言うのを見るのも含めてもレヴィさんと一緒に行くとなると人間と戦わなければいけないか。
「というわけでクリフ説明しなさい」
「また俺かよ。あー…リアラがどうしたいかによるんじゃないか?」
「私はまだ人間と戦う勇気?覚悟ですかね?そう言うのが足りてないので足手まといだと思います」
そう言うと、何とも言えない顔をされた。
やっぱりどっちつかずで一緒にいることは難しいのだろうか。
ただそれでも一緒にいたいとは思う。私が何かできるとも思えないが。
「アハァ…少し休みましょうか」
「そう、だな」
二人ともさっきの魔導で疲れたのか。座り込んでゆっくりし始めたので私も一緒に座って空を眺めたりしつつ三人でこうやってのんびりすることもあるんだななんて思ってた。
でもなんだろう。気まずいというかこの二人と一緒だといつもレヴィさんが悪態をついてクリフさんがスルーするという一連の流れがないのも空気が重たくなる気がしてソワソワしてしまう。
何も言わないまま夜になってしまってから結構な時間が経った。
外にいて魔物に襲われないのかとも心配してたけどクリフさんがいるし杞憂なんだろうけど。それにしたってここまで無言が続くとは思わなかった。
「リア疲れてないかしら?眠るなら膝を貸すわ」
「あ、いえ。大丈夫ですけど二人は大丈夫ですか?休むと言って結構時間経っちゃいましたけど」
「私は大丈夫よ」
「俺も慣れてるから問題ないよ、心配してくれてありがとな」
その後も無言になって、また無言が続くのかななんて思っていたらクリフさんが立ち上がってダンジョンの方を、都市の方を見始めた。
「来るぞ」
そう言うと、ダンジョンがまた揺れているのか地震のように揺れ始めた。
「リア。私達がどうやって王国に立ち向かうか分かるかしら?」
「その前に地震起きてますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
どこが大丈夫なのか分からないけど、レヴィさんが立ち上がって大丈夫と示すように普通に歩き始めた。
王国に立ち向かうと言えば強い人達で戦争をするとしか思わないけど急になぜこのタイミングで話し始めたのか分からない。考えたくない。
「兵とか集めて戦争するんじゃないんですか?」
「それだと負けちゃうわ。王国は強いもの」
「戦力を集めていたくらいだから量より質で攻めるとかそんなの思ってましたけど」
「ある意味で正解ね。ただその質をどうやって集めるかを考えていたわ。結果的に質で勝ることは今の王国に立ち向かうには無理と決まったわ」
ということは量じゃないのか?それならやっぱり兵とか集めるんじゃないだろうか。考えたくない。
「そもそもどうして兵なのかしら?」
「兵じゃないならなんですか?魔物でも立ち向かわせるんですか?」
「その魔物もどうやって集めるのかしら?」
「生息域から追い出すようにしてとか」
「それだとそんなに大した量集まらないわ。貴方が経験した街を襲ってきた魔物はどこから来たと思う?」
考えたくない。
「レヴィ、もう嫌な言い方はやめてやれ」
「だめよ。リアにはちゃんと向き合って欲しいわ。私達のやろうとしてることと、そしてどうして私が貴方を大切にしてるのか。クリフが貴方を大切に扱うのかを」
ダンジョンを使って魔物をおびき寄せる。そんな魔導をあの時使っていて私がただぼんやりと壁に張り付いていたら?考えたくない。
「おかしいと思わなかったのかしら?私達が国家転覆を掲げていて何故こんな王都から離れた位置にある都市で悠々と過ごしてたことを」
それだけじゃない。私の経験した街のことを言ってきたのだレヴィさんは。あの時の魔物の軍勢は唐突に現れたものだ。それも魔導を扱うなんて特殊な例で。考えたくない。
「ただ勘違いしてはいけないわ。あの街はクリフという馬鹿の暴走によって引き起こされたに過ぎないわ」
「馬鹿は余計だろ」
「さらには王都にまで勝手に攻めていたのは馬鹿としか言いようがないわ」
私は西の街より南西にある名もなき村から来て。魔物は南西にある森からやってきた。考えたくない。
「リアラを探すためにはこれがもっとも早いと思ったんだ。ここで会えたのは運命を感じた」
ただ謎もある。ダンジョンなんて言うものを使ってこんなことをしてるならその制御なんてできるのだろうか?
しかし私を探すためにと喋るこいつはそれが出来てるような言い方をしている。
「計画は早まったわ急速的に。けれどもリア。貴方がいてくれたおかげなの。まさかダンジョンが貴方と言う存在を特別視してるなんて最初は思っていなかったわ」
「俺もリアラがそんな存在だとは思わなかったから驚いたよ」
何を言ってるんだろうか。ダンジョンに特別扱いなんてされた覚えはないむしろ敵対視されてるだろう。
「時間差でダンジョンを向ける予定だったのを貴方と言う存在がダンジョンを強くしてくれた。質より量をとる計画は質が勝ったのよ」
私の意味不明な壁の張り付きはダンジョンに私を意識させるためだったのかと思うがあんなことでダンジョンがそんな強くなるものだろうか。
「ところで知ってるかしら?ダンジョンのある所には名前が付くの。そのダンジョンに因んだ名前が街か都市の名前になるのよ」
「私を利用したの?レヴィさんもクリフさんも」
「利用したわ」
「利用してない」
二人がそれぞれ別のことを言い始めた。




