五十四話 雨と赤と青
目を覚ますとずっと起きていたのかレヴィさんが頭を撫でてくれていた。
いつもは暇さえあれば魔石の加工をしているのに優しくされ続けられるというのも恥ずかしいものだ。もしかしたら昨日のやりとりを思って妹扱いしてくれてるのかもしれない。
「レヴィさんもう大丈夫ですよ」
「アハァ…それなら冷たくなってるけど水で顔を洗っておきなさい」
言われた通りにいつも温水で届けられる水桶があって冷たくなっていたけど顔を洗っておく。
ついでに服も着替えて体を拭いておく。
「なにがあったかは分からないけれど私に任せていいわ」
「それなんですけど。一応今日一緒に過ごすってことにしちゃってまして」
「リアは大丈夫なのかしら?おすすめしないわ。昨日の貴方は抜け殻みたいだったもの」
実際その通りだろう。今の私は強くなるなんて思えないただの心臓を動かしてるだけの無機質な人に過ぎないようなものだから。
いや、卑下していても仕方ないのだから。レヴィさんだけは守れるようにならなくちゃいけないかなとも思った。
妹と慕ってくれるこの人と一緒なら今後も仲良くしていけるかもしれない。
フレイさんはまだ起きないかなと見てみれば、そもそもフレイさんがいなかった。
「レヴィさんフレイさんがいないんですけど?」
「昨日赤い男のところに行ったわ。今後のことで話し合うのだそうよ」
「今後ってなんでしょう?グランダの解体作業でしょうか?」
「いえ。この都市を離れることについてよ」
それは…唐突だ。いつの間にそんな話になっていたのだろうか。
私が昨日放心状態だったから話せなかったのだとしたら申し訳ないしこちらから出向くべきか悩んだが、荷物はあるのだし戻ってくるということだろうからすぐにどうこうするわけではないのだろう。
レヴィさんの魔石加工を見ながら過ごしていると昼前くらいにクリフさんが訪ねてきた。
一瞬レヴィさんを一人にしても大丈夫か不安になったけどクリフさんに悪態をいつも通りに言ってたので今日はずっと魔石を加工し続けるのかもしれない。
明日はレヴィさんと過ごそうと思いつつクリフさんと一緒に外に出てみれば雨だ。
この世界って雨降るんだなんて思ってしまう。
「クリフさん雨ですよ?傘とかないんですか?」
「ははは。俺が濡れてるように見えたか?」
そう言われたらクリフさんは別に傘とか持ってないのに濡れてないと思ってたらクリフさんが道に出れば雨がクリフさんから避けている。なんだこの謎現象。
「これを見てくれるか?」
ネタ晴らしするように懐から取り出したのは丸い玉だ。魔道具だろうか?
「これを持ってると濡れないんですか?」
「そうなるかな。あまり雨が降る地方じゃないんだけどせっかく一緒にいられるなら昼食を一緒にしたいなと思って持ち出してきたよ」
この人もレヴィさんみたいにどこかから召喚したりとかできるのかなと不思議に思いつつ、ただちゃんとバッグを持ってるあたりそこまでのことはしてなそうに見える。
昼食はどこかなと思っていたら現代料理店に来て、やっぱりここなんだと思いつつも美味しいからいいのだけど。なんかたまには別のメニューを頼んでみるかと思って周りをみてもいつもの人気はなく雨の日は繁盛してないらしい。
「その魔道具って持ってる人少ないんですか?」
「聖教会の支給品だからね。この国では持ってる人はいないかもしれない」
そんな貴重なものなのか。というか聖教会も普通に魔道具とか作れるんだ。
「リアラはどんなものが食べたい?」
「せっかくなのでクリフさんと同じものを食べます」
「どうしようかな。ハンバーグでも食べようか」
いつも周りを注意深く見てたつもりだったが存在してたのかハンバーグ。
クリフさんが注文してそれまでの間なにすればいいのか分からなかったのでどうしようと悩んでいると。
「リアラはこれからどこに行きたいとかあるの?」
「どこかですか?」
「強くなりたいと言っても俺が守る限り強くなる必要なんてないんだ。それなら好きに生きていいんじゃないかな」
どうせならみんなで仲良く過ごせたらいいななんて思うと、それは反乱の後になるわけだし。
レヴィさんもそしたら忙しくなるのかな?そもそも王都に襲撃しに行くわけだから一緒にいるとなると王都に向かうことになるのかもしれない。
「王都ですかね。レヴィさんと一緒にいたいですし」
「そうか。それなら少し大変だけど俺もリアラの近い人を守れるようにするよ」
「ありがとうございます」
クリフさんもこれから忙しくなるだろうし都合が良いのではないだろうか?
フレイさん達はどこに行くのだろう?レヴィさんがすごいおすすめしてたから北の聖教会にでもこれから行くのなら途中までは一緒に行けるかな。
「クリフさん達はいつまで都市にいる予定なんですか?ダンジョンの探し物は探さなくて良くなったって言ってましたよね?」
「そこは連絡待ちだったかな?まぁなんか言ってきても多少時間がずれても問題ないからなぁ」
「わりと自由なんですね…レヴィさんがクリフさん暇人扱いしてましたけど本当な気がしました」
「実際は暇だよ。最近が忙しかっただけでこれからはもっと暇になるだろうな」
極力反乱計画について口を出したくないが、話題がスレスレの話題しか思い浮かばないのでどうしたものか。
「クリフさんて普段はどんな風に過ごしてるんですか?」
「依頼が無いときは魔物討伐くらいかな?落ち着いたらやってみたいこともあったりするんだぜ?」
「どんなことでしょう?」
「弟子を育ててみたいとかは思うな。俺がちょっと特殊なだけで実際俺は出来ることしかしてないからそれを教えてやってみたいな。できれば我が子にと思うがそれは出来るか分からないしな」
それなら弟子希望のレッド君がいるではないかと思ったがもっと幼い年齢の子を鍛えたいのだろうか?
私が子供ならスパルタ教育でもされない限りクリフさんに追いつけるとは思えないのだけれど。
「なんというか普通に普通の人なんですねクリフさんて」
「俺を何だと思ってたんだ…」
「やっぱり英雄でしょうか?レヴィさんも言ってましたけどクリフさん尋常じゃないほど強いですし」
「あのな。俺だって人間なんだぞ?」
それもそうで、予想外と言うか意外なのは事実だ。
そうこうしてるとハンバーグが来たので二人で食べる。ちゃんと肉汁が溢れてくるし美味しいハンバーグだ。きっとオークかミノタウロスの肉をミンチにしてるんだと思うと少し複雑だがあれは猪だし牛…カバ?牛だ!
「リアラはハンバーグで良かったのか?他にも食べやすいものもあったりするんだけど」
「美味しいですよ?肉って感じがしますね」
「ははは。肉だからな」
食事をしながら談笑も交えて、クリフさんが私が話のネタが無いことを気付いてくれたのか色んな話をし始めてくれた。
魔物を討伐しに行ったとき空中にいる敵をどうやって倒したらいいか三日以上追いかけて羽休めの時を狙ったとか。ドラゴンを遠目で見たことがあるけど倒せそうに思えなかったとか。
周りに客が少ないのを良い事にゆっくりと店の中で話しを聞いてクリフさんは昨日言った通り反乱の話題を出すことは無く。時間もほどほどに暗くなってきたところで宿まで送ってくれた。
「それじゃ次はいつ会えるかな?」
「どうでしょう、明日はレヴィさんと過ごそうと思ってるので。どうせならみんなで遊ぶのは駄目なんですか?」
「どうだろうな?俺はレヴィに好かれてるとは思えないし、それにレッド達の都合もあるだろうしな。俺はリアラと一緒にいれればそれでいい」
これが人生のモテ期ってやつなのかと感じながら明後日一応宿に来ると話してクリフさんは帰って行った。
そういえばあの人はどこの宿に泊まってるのだろうか?お金に関してそこまで持ってなさそうなイメージはあるがもしかして野宿とかしてたりするのかな。
部屋に行くとレヴィさんが魔石を加工していて、フレイさんがまだ帰ってきてなかった。
「ただいまです。フレイさんは今日も帰ってきてないんですか?」
「おかえりなさい。明日には北の聖教会に行くそうよ」
「え?あぁ、都市を出て行くって話でしたもんね…結局あまりダンジョンで稼げてあげれなかったですね」
「それに関しては大丈夫よ。私が金貨を何十枚か渡したのだから十分すぎるほど儲かったと思うわ」
そんなことをしてたのかと思い、またそれならどうして金貨を渡したのかなとも思ってしまう。
今までは宿代等私やフレイさんに払ってくれていたし別段不思議ではないのだけど、レッド君の旅立ち金みたいなものなのだろうか?
「そんなに渡していいものなんですか?」
「いつか言ってなかったかしら?貴族はお金は持ってるものよ。だから別にいいのよ今まで仲良くなった情も湧いているつもりよ」
それでも赤いのと特徴で呼んでいた気がするけど、レヴィさんからしたら普通の扱いがそれならまぁ良いだろう。
「今日はクリフさんと話しましたけど明日はレヴィさんと一緒にいる予定です」
「アハァ…私と一緒にいても変わらない気もするけど…嬉しいわ」
「それに明日旅立つならフレイさん達が寄ってくれるかもしれませんしね、宿に残っておきましょう」
「そうね。ただ忙しいかもしれないからそのときは無事を祈りましょう」
なんだろう、まるで来ないみたいな言い方をするがフレイさん達が来ないイメージがあまり湧かない。
レッド君なんて引け目すら感じていたくらいだし挨拶くらいはするんじゃないかなと思ったけど。
そういえばいつか私を鍛えてくれた兵士のダズさんやオンボルドさんが挨拶は不要みたいなことを言ってたし、この世界では挨拶は基本しないものなのだろうか?
それなら私から今挨拶に行こうかと悩んでいたらレヴィさんがこちらを見ていた。
「リアは。これからどうするつもりなのかしら?」
「それクリフさんにも聞かれました。レヴィさんと一緒に王都に行こうかなって思ってます。強くなるのはちょっとしばらくは考えないでおこうかなって思いました」
「そうなのね。一緒に行けたらそれは素敵だわ」
微笑んでくれてレヴィさんは再度魔石の加工を続ける。
いつもはフレイさんがいて賑やかにしてくれていたけど二人だと静かな時間だなんて感じる。
何もしてないと言うのも妙に落ち着かないというか、基本いつもなにかしら外に出たりダンジョンに行ったり気絶したりと忙しい毎日だったな。
よく聞けば雨音も心地よく感じて何をするでもなくレヴィさんを眺めながら過ごしていた。
次の日も雨が続いていた。
特になにをするでもなく雨音を聞きながらレヴィさんにたまに話しかけてフレイさん来ないかなとか考えながらゴロゴロする。
「レヴィさん思ったんです」
「どうしたのかしら?」
「もしかして娯楽とかこの世界にないんじゃないですか?」
「アハァ…一応ではあるけれどボードゲームがあったきがするわ」
「本当ですか!?やりましょうよ!雨ですけど露店に売ってるなら買ってきますよ」
「申し訳ないのだけれどルールが私分からないわ」
ルールが分からないなら仕方ない。
ただ娯楽がない世界だと何をして過ごせばいいのか暇すぎる。
「じゃあしりとりでもしますか?」
「どうせ異界のことを話すのでしょう?私本当にそれがあるのか分からないから不利じゃないかしら」
「ルールは知ってるんですね」
いつもならフレイさんが喋りはじめていた日々はとても貴重だったんだなってフレイさんの偉大さに感謝しながら私が話せそうなことを考える。
「レヴィさん思ったんです」
「次はなにかしら?」
「もしかしてこの世界の歌って吟遊詩人だけですか?」
「唄?そうね吟遊詩人くらいだと思うけれど」
「それなら私が歌ってあげましょう」
「それはいいわね。特等席で聞いてあげるわ」
私はうろ覚えの歌詞でリズムに乗りながら歌ってみたがレヴィさんが何とも反応に困る顔をしていた。
「なんというか、意味がよく分からない唄だったわ」
「歌詞よりも雰囲気で楽しむってやつですよ」
「私向けにもっと初心者な唄はないのかしら?」
「童謡くらいしか思い出せませんけどいいですよ?」
せっかく雨なのでカエルの合唱を歌ったりきらきら星を英語で歌ったりと色々試してみた。
「アハァ…なんとなく分かったわリアの歌っていうのは作業しながら聞くと心地よいものということね」
「間違ってはないですね。どうせならレヴィさんも歌ってみましょうよ」
「恥ずかしいから嫌よ」
「恥じらいは捨てると気持ちよくなるものです」
「多分だけれどリアが特別なだけじゃないかしら?異界の人はそんな頻繁に歌ってるものなの?」
「歌うためだけにお金を払って個室を借りるくらいには頻繁に歌ってましたよ?それなら私の世界のことを話しましょうか?いつも教えてもらってばかりですし」
魔導ではなく機械が発展してること。遠くで会話できる機械や空を飛んで遠くの国に行ったりも出来ること。私が知ってることを話すとレヴィさんはクスクスと笑いながら楽しそうに聞いてくれた。
「王都で聞いたことはあったけれど出身者から聞くと面白いものね」
「聞いたことはあったんですね?じゃああまり面白い話しではないんじゃないですか?」
「そんなことはないわ。吟遊詩人の唄を直接聞くのと人伝手に説明されるのでは違うでしょう?」
それもそうかと思い私が知ってるからレヴィさんは良いのだろう。
それなら他に面白い話は無いかなと考えているとレヴィさんが私のことを聞いてくる。
「リアのことは無いのかしら?どんな風に生まれて育ったとかそういうの」
「私ですか?それがこの世界に来てからあんまり思い出せないんですよね?なんとなくと言いますかこうだったなぁ。そんな記憶がまばらに残ってる感じです」
「ほとんど赤ん坊みたいな存在なのね…」
「そう言われると違うとは言えますけど否定するのも間違ってる気もします」
ふと気になって木窓を開ければ結構長い間話してたのか外は暗くなっている。
話したり歌ったり静かな時間を過ごしたりと色々あったなと思ってるとレヴィさんのお腹が鳴った。
「珍しいですねレヴィさんお腹すいてるの」
「私は普通に食事は取る方よ。むしろリアが食べなくても平気なのがすごいわ。せっかくだから食事を作ってくるわ」
「ウィルスさんが持ってくるんじゃないんですか?」
「私が作ってあげたくなったのよ。待ってなさい」
そう言うとレヴィさんは部屋を出て行った。どうせなら私も手伝った方が良いだろうか?
あれ?そもそもいつからかウィルスさん見かけてない気がする。




