五十三話 甘い誘惑
やはりというかレヴィさんに邪険にされながらもフレイさんに行ってらっしゃいと言われながらクリフさんと外に出る。
今日はどこに行く気なのだろう?と思ってついて行けば手をつなげてきた。
驚きはしたけど、なんだか懐かしいなと思って特に追及することなくついて行くと東に向かっているからまさかダンジョンに行く気なのかと思ってしまう。
「クリフさんこっちは何もないですよ?ダンジョン行くんですか?」
「ダンジョンには入らないけどそこから都市を見てみようかなって思ったんだけど嫌だったかな?」
別に良いのだが何の意味が?と不思議におもいつつもついて行き、特に会話もすることなく歩いてダンジョンの前まで来た。
「わりと正直に思ったことを言ってもいいですか?」
「いいよ?」
「何しに来たんですか?私いなくて良くないですか?」
「ははは。そうだね。ただリアラに都市を見てもらいたくてさ」
なんでまた。というか中から見ればよくないか?と思うが大人しく都市を見てると冒険者が歩いてるのが見えたり。ダンジョンからグランダの素材を背負ってたりするだろう冒険者たちがダンジョンを行き来している。
あとはなんだろうか。城壁がしっかりしてる?とかかな。
「リアラはどう思う?この都市のこと」
「発展してるなぁとは思いますね。それと強いて言うなら豊か?ですかね?」
「そうだね。ただこれはどうして豊かなのか考えた時ダンジョンのおかげで豊かなんだよ」
それはたしかにそうだろう。ダンジョンで食料も賄えてるし、素材とかで行商人が買いに来たり売ったりと需要も供給も出来てる。
「それじゃあもしダンジョンが無くなったらどうなると思う?」
「困るんじゃないですかね?ただ人はいるので冒険者もいますし畑を耕せばいいんじゃないでしょうか?」
「畑も耕すにしても一から作るとなったら時間がかかるものだよ。それに便利な作物があるとはいえそれを大量に必要としたときここにいる人数じゃどうしようもなくなってしまう」
人口が多いからそうだろう。これだけの人口が集まってるところだと困るというか死んでしまう人もいるかもしれない。
「さっきから何を言いたいのか分からないです」
「レヴィと話したんだろう?あの子は優しいからね。きっとこの都市と同じようにリアラは街でもこういう光景を見ていたと思ったんだ」
胸がズキリと痛む。私がこれから起こるであろう見殺しのことを冷たい水を被せられたように冷え切る感覚が滲む。
「それを話すってことはクリフさんも勧誘ですか?」
「レヴィは勧誘してたのか。彼女らしいね、ははは。俺の場合はちょっと違うかな」
「違うと言いますと?」
「俺と生涯を共にしてほしい」
これは…なんと言うべきか…。
クリフさんからそんな言葉が出るなんて想像してなかったし、そもそもそういう対象として見てなかったし。
なんで私にこんなことを言ってるのか分からない。もしかしたらビジネスパートナー的な?いや私にビジネス要素はないか。
「どういう意味か聞いてもいいですか?」
「俺と一緒に過ごして、子供も欲しいな。平和なところに行ってもいいかもしれない」
「…なんで私に言うんですか?」
「リアラと一緒にいたらそう強く思ったと言ったら信じてくれるのか?」
信じれるわけないだろう。そんなに一緒に過ごしてない。
私にとっては恩人のように感じてはいるがそもそも、最初の出会いと最近のことを合わせても三日か四日程度しか知り合ってないし私は好かれることをした覚えもなければクリフさんのことを恋愛視するような出来事もなかった。お互いに言えることだ。
「なにが目的なんですか?」
「俺を選んでほしいと思ったんだ。そうすれば俺は何を捨ててもいいとさえ思ってる」
レヴィさんにも私を選んでと言われた記憶を思い出す。
つまりこれは勧誘と一緒じゃないのだろうか。
「私は、お二人がやってることは私ではどうにもできないと諦めました。今更こんな私を求める意味が分かりません」
「リアラのためなら計画を今からでも打ち消すように頑張ってもいいと思えたんだ」
正気か?と一瞬疑るが…この人の強さがあればもしかしたらなにか打開してくれるのではとも思ってしまう。
英雄が。私が受け入れることで手に入るならと打算的になったらこれほど美味しい話はないだろう。
美味しい話すぎて疑いが晴れない。
「ほ、本当に今からでも計画を…いえ。私は国家転覆に関しては正直詳しくないです。ただ救える命を出来る限り救いたいと英雄に報いたいと思ってるだけで…」
「俺ならそれができる。そしてリアラ、俺は君のことを欲しいと思ってる。それでいいんじゃないかな」
それでいいのかもしれない。それで本当にいいのかもしれない。
「考えたいのですが…」
「いいよ。ただ時間が限られてる。いくら俺でも一度始まったことを急には止めれない…それと少しでも二人の時間を作れないかな?リアラに好かれるように頑張るよ」
そう言って手を離してこちらを向くクリフさんを見る。とても真面目な顔だ。良いお顔立ちをしている。
この英雄を私の物に…いや私に好いてると言ってくれてるのだ…どこに疑う余地があると言えるだろう。
「時間に関してあんまり詳しく聞いてないんですけど知ってたりします?」
「一か月程かな?他で動いてる連中の仕事が早ければ三週間かもしれない」
それなら今回も計画が早まって避難勧告が出来なくなったというし三週間は考える時間があるということか。
いや、避難勧告をするにしても早ければ早い方がいいに決まってるのだから実際もっと切羽詰まってるかもしれない。
「ちなみにですけど…クリフさんにお願いしたら避難者はどれくらいの早さで作れますか?」
「王都の人達を助けようと思ったら一週間後までには答えを聞きたいね。二週間である程度の人は救ってみせるよ」
格好いいな。そんな断言できるなんて。
ただレヴィさんに教えてもらって早く行動しなかったことを悔いるならクリフさんを味方に出来るなら私は答えを出さなければいけない…ただそんな恋愛に関してどうのとかより、私の体を差し出せば簡単に英雄が味方してくれるならいいのではないかと。
「リアラ聞いてほしい。別に俺のことを選ばなくても俺はリアラを守るよ絶対に」
「なんで…おかしくないですか?好かれることをしてないです」
「自覚してないだけでリアラはとても綺麗だよ」
そういう…ものなのか…。
ただ選ばなくても守ってくれるということはと考える。利用するようで申し訳ないが。
「私がお願いしたら避難者を出してくれませんか?」
「それは…すまない、リアラともう離れてしまうことが考えれない」
そんな人だっけ?と不思議に思いながら、私はなんだかんだ初の告白をされてる。
私は彼のことを利用したいと思ってる。
天秤にかけるのか?私の体と英雄の想いを…それなら私の体なんて無価値に等しいじゃないか。それを価値を見出してくれるなら差し出したっていいはずだ。
「じゃあ…クリフさんを選んだらいいんですね?そしたらみんな救われるんですね?」
「もちろんだよ」
「それじゃあ…私で良ければ…」
「ありがとう。じゃあ今からレヴィを殺しに行こうか」
「……は?」
今日何回思ったか、この人は何を言ってるんだ。どうしてレヴィさんを殺すと言い出したんだ。
「落ち着いて聞いてほしいリアラ。レヴィはこれから多くのリアラにとって大切な人を殺そうとしているんだ。それならレヴィをここで確実に殺しておいた方が時間も稼げるし救われる命も多い」
「意味が分からないです!私にとってレヴィさんも大切な人ですよ!?」
私の両肩に手を置いて目線を合わせるように、そして今日話し続けていたいつも通りの声色で、おかしなことなんてまるで何もないように彼は言葉を続ける。
「無理ですよそんなの…レヴィさんを殺さない方面で考え直してくれませんか?」
「だとしたらより多くの犠牲が出るだろう。俺一人じゃそこまではできない」
元々英雄一人に任せると言うのも無茶な話しだが、レヴィさんもそうだがどうして毎回誰かの命を天秤にかけなければいけないのだろうか。
いやレヴィさんも言ってたはずだ『私を殺せば』と。彼女本人がそう言ってたのだから間違いなくレヴィさんが重要な役割を担ってる一人なのだろう。
それでも考えればまだなにかあるかもしれないと考える。
「レヴィさんはクリフさんがいないと探し物が見つからないんじゃないんですか?」
「そうだろうね。ただそれもレヴィの魔導を本気で使えばどうにかなる。実際他の場所で動いてる人達もそうしているし俺がいるのはおまけ程度でしかないよ」
「本当にそうなんでしょうか?聖教会というのが絡んでいるんですよね?その人達をクリフさんが抑えてくれれば…」
「聖教会を抑えることはできない。そこまで聞いてるなら言った方が早いな。聖教会は王族と渡り合える程度には強い」
これはどっちの話が本当なのかという話か?
レヴィさんは王族が本気を出せば大陸を制覇するのは余裕みたいなことを言っていたはずだ。
ただクリフさんの話を信じるなら聖教会の方が強い?
どちらも所属が違って意見が違うのならどっちが合ってるか答え合わせする時間もないのに決めることなんてできるか私に?
どうして、なんで、でも、いや…考えても考えても分からないものは分からないでしか終わらない。
「私にレヴィさんは殺せません」
「俺がやるからリアラは気に病むことはないよ」
「気にするに決まってるでしょう!私がやれと言ってるようなものですよ!」
「リアラ…考えて欲しい。そうでなければきっと君は後悔することになる」
まただ。また未来が決まってるかのように言われる。どうせ変わらない未来を彼らは言い続ける。
もしかしたら救えるかもしれないなんて淡い期待を甘い誘惑を添えて。それでもレヴィさんを殺していい理由になるわけがないのに。
「後悔って…私がレヴィさんを殺さなければってことですか?殺したらそれこそ後悔なのに?」
「仮にレヴィを殺さないとしても捕縛しても彼女は自分の命と引き換えに行動を起こすだろう。それくらいのことをやってのけるからこそ、この計画に加担している」
「分からないじゃないですか!いえ。いえ…レヴィさんの覚悟は知ってます…けれどクリフさんと一緒に説得すればもしかしたら和解できるかもしれません!」
「レヴィは王族に忠誠を誓った両親を殺し、罪無き民を救うために少ない犠牲で多くの人を助ける道を選んだ強い子だ心変わりするとは思えない」
両親を?いや、王族が腐ってるとは聞いていたがそれほど。もう彼女は引き戻れないところまで来ているということか。
ただ犠牲が多く出るだろう。それについて訴えても…あの夜に訴えて、つい先日だ。彼女は泣きながら悔いていたのはこれから殺すことになるだろう人々に向けてきっと懺悔したくて泣いていたのかもしれない。
自分の手を汚しながらも覚悟を背負ってるなら説得なんて確かにできない。
「どうすればいいんですか?私はもう諦めたんですよ…諦めてしまったんです」
「俺ならリアラを助けてあげれる」
「レヴィさんを殺さないでほしいんです…」
それだけは頷いてくれず。ただ私はまた見捨てるという決断をするしかない。
「俺はいつでもリアラの返事を待ってる。だから今後はこの話はしないようにするからせめて一緒に入れる時間を作って欲しい」
「それは…分かりました…明日にしませんか?今日はあまり考えたくないです…」
「分かったよ。見送る」
どこか私の心がまたひび割れるような音を立ててる気がする。
グラスの底がないのに水を注いで零れてしまってるような絶望に近い感情が芽生える。
もう私が見殺しているのはこれで確定したと言ってもいいだろう。レヴィさんの命と王都の人々を天秤にかけた結果私はレヴィさんを取っている。
西の街で助けた命を助けれるとクリフさんが断言してくれたのに私は答えれないのだから。
宿にいつの間にか戻ってきていて私は二人が何か言ってきてるがそれをなんて返せばいいか分からなかったからただ今日は疲れてしまったと言ってベッドで布団に籠る。
後悔のしない選択を私はしたかったんじゃないのか。英雄達を追い続けて英雄のように生きたかったのではないのか。
それを考えればもしかしたら私はあの日。最後の防衛戦で戦い死ぬべきだったのかもしれない。
そうすればウィーネさんの想いを踏みにじることもなかったし、私も語り継がれることはなくとも名もない英雄として死ねたかもしれない。
いつ眠っていたのか。意識を取り戻しても思うのは最悪の結末で、それを緩和してくれるようにレヴィさんが抱きしめてくれていた。
「アハァ…起きたのかしら?一体あいつに何を言われたのか知らないけれど気にしないことが一番よ?」
そこにはいつも通りの笑顔を向けてくれる彼女がいて、この子は両親と決別してまで選択することができる強い人なのだと思った。
私にはそんなことできなかったのに。私は目の前にいる少女一人の命を引き換えにするほどの覚悟なんてできていなかったのに。
「レヴィさん…私は…」
「私が代わりに罵倒してやるわ。リアは優しいものね。私に任せておきなさい」
違うのだ。違うけれど、その言葉があまりにも優しくて。とてもレヴィさんが生きてることで後悔する未来なんて想像できないだけなんだ。
「レヴィさんはどうして…私に優しくしてくれるんですか?」
「ん?んー。そうね。私に家族がいたらきっとこんな子がいいなって思ったからかしら?」
「私が…姉ですか?」
「妹に決まってるでしょう。リアを見ていると私が守らないといけないのはこんな子だったと思えるから私も不思議な気分よ」
彼女の言う無辜の人々という救いたい存在と重ねてるということだろうか。
はたしてそうだろうか。私がそんな罪のない人間とはとてもではないが思えない。
「クリフが明日もやってきたら叩き返してあげるから今日は眠りなさい。私が守ってあげるわ姉として」
「それじゃあ私もお姉ちゃんを守ってあげなくちゃいけないですね…」
「姉妹は喧嘩したりもするそうだから守らなくていいわよ。むしろ嫌い合ってる姉妹が多いと聞くわ」
「レッド君達は仲良しですよ」
「そういえばそうね?例外もあってもいいかもしれないけれどリアはそこまで気負わなくていいわ」
こんな人を誰が殺してなんて言えるだろうか。
そんなことできるわけがないと。クリフさんの告白についてはまた別で考えておこう。




