五十一話 アーライナ魔窟6階層
6階層まで颯爽と進んでいくクリフさん達を追いかけるように歩いていき、5階層と似たようなジャングルを進む。
5階層では猪とオークの一応一種類?だけど方向性という意味で二種類いたのと同じような物かと思い周りを見ればその通りで四足歩行の牛っぽい何かと二足歩行の牛っぽい何かがいた。
なんで『っぽい』なのかと思えば私のイメージしていた牛とは違ってどちらかと言えばカバだろうか?頭がそれなりにでかいし口が前に突き出ている。
「これが牛なんですね」
「もっと可愛らしい見た目を想像してたのかもしれないけれど牛よ。リアにとっては馴染み深いと思ってたけど猪やオークの方が馴染み深かったのかしら?」
「そうですね。あっちはイメージ通りでした。豚もオークなのは知りませんでしたけど」
これなら牛と言うよりはカバと呼んだ方がいいのではないかと思っているとレヴィさんが小声で説明してくれる。
そしてこの階層でもクリフさんは無双していた。主人公ってこういう人のことを言うのかもしれないと思うくらいに。
私がミノタウロスを見るとそれはオーガとまでは言わないが十分に強そうで、攻撃を食らえば骨は潰れそうなくらいの筋力はしてると思う。
他の冒険者はどうやってここを狩場にしてるのか気になるがフェルンさんが、組合がちゃんと対応してくれているのか私たちがダンジョンに入って以降冒険者は見当たらない。
「クリフ、探し物についてもちゃんとしてるのかしら?良いところばかり見せようとして呆けてたりしてないわよね」
「あぁ…それはもう見つかったというか、見つける必要がなくなったって言った方がいいな」
ふとレヴィさんが兼ねてより言っていた探し物についてクリフさんとやりとりをし始めて、そしてその探し物を見つけなくていいとまで言い出した。
「それって…いえ、まぁなんとなく分かったわ」
「奥まで潜って行くとなると時間がかかって仕方ないからな」
「ただ聞いておくのだけれど、それは貴方がここを離れていくというわけではないのよね?」
「もちろん。それにしばらく金に困らない程度に狩りとかも済ませて置いた方がいいんだろ?」
「そうね。赤い二人には必要だもの」
なんか勝手に話が進んでるが、ダンジョンには潜るのだろうか?レッド君達の心配をしてるところを見るともしかしたら国家転覆についての話だったのかもしれないけど、探し物について探さなくて良いというのはなんだろう。
「レヴィさんはいいんですか?探し物のためにダンジョンに来たのに」
「いいのよ。そうね、オークの魔石が欲しいくらいかしら」
別に巨大グランダもこれから倒す予定のミノタウロスもクリフさんやレヴィさん二人でなんとかするだろうに遠慮してるのか一個だけ欲しがってきたので兄妹を見ると頷いて許可をもらったので快諾する。
「他の魔石はいらないんですか?正直私達何もしてないですよ?まぁ、それで言ったら許可をもらうべきはクリフさんに対してなのかもしれませんが」
「俺はいらねえかな?変異種の魔石がどんなものか確認したけど特に値段が高そうくらいしか思わなかったしな」
「アハァ…それじゃあ一旦残りの二つは預かるわ」
妙な言い回しをして魔石をもらうことをレヴィさんは了承する。
しかしいつもならもうすでに階層ボスが現れてもおかしくない程度に進んだと思うが私の時間間隔が狂ってるだけなのか中々出会えずにいた。
「6階層って広いんですか?」
「すまねぇリアラ…5階層までしか地図買ってないんだ…」
私が疑問を口にするとレッド君が申し訳なさそうにする。
私だって6階層まで進むと思ってなかったのだから別に仕方ないだろう。
クリフさんとレヴィさんを見ると二人は肩をすくめながら。
「おおまかな位置は分かるけど広さは分からないな。階層を隔ててるところまではもうちょいかかると思うが」
「クリフがそう言ってるのならそうなのでしょ。このフロアが全体に広いのか長方形に長いのかは私にも分からないわ」
むしろ壁という概念があるのかと疑問に思ったが3階層や4階層が天井が岩肌だったのを思い出して、地面だけ自然が溢れてる不思議空間なのかもしれないと思った。
わざわざ地面が根こそぎかわるくらいなのだしもしかしたら1、2階層が口内。3、4階層が食道とかそういう感じになっていたりするのだったらある意味私は誰かの胃袋に向かってるという貴重体験をしてるのかもしれない。
いや貴重体験と言えばいろんなことがすでに起こりすぎてるからどれも貴重なのだけど、体内にそれっぽい内臓に向かってると思ったらこれはふぁんたじぃだろう。
そんなことを考えているとジャングルが円形に木々もなく地面と、天井の岩肌が見える場所に着き。そこにはまるで私たちを待っていたかのように私のイメージしていたミノタウロスが斧槍を片手に立っていた。
「なんだありゃ、随分と綺麗だな」
「貴方の美的センスを疑うけれど…異常なのは分かるわね」
ドンと斧槍の柄尻を地面に叩きつけこちらを見据えてそれは話し出す。
「ソレイジョウノ…シンニュウハ…ユルセン」
どこか舌ったらずで喋りにくそうに私達に分かるように話してきて斧槍を構える。
門番といったところだろうか?それにしてもまさか喋ってくるなんて思っていなくて。どうせなら会話を試みてみるかと思って私が前に出ようとするのをレヴィさんが止めて、代わりにクリフさんが前に出る。
「わりいな。ここを狩場にしたいから邪魔なんだわ」
そう言って剣をミノタウロスに向けて振り、それに対してミノタウロスも斧槍をクリフさんの剣に合わせて防御をして見せる。
今までが今までだっただけに意外な結果にミノタウロスの強さを再認識して私も加勢するか悩んだがレヴィさんが腕を掴んだまま離していなかった。
クリフさんは圧倒的な攻撃をして、それをなんとか凌いでると言ったミノタウロスは力で無理やりクリフさんを剣ごと飛ばしたあと。そのクリフさんの隙を狙われるのかと思ったらミノタウロスは私達の方に走り寄ってきた。
「リア安心しなさい」
レヴィさんはそう言ってくれるが対処しなければ不味いのではと私の杞憂はそこで終わり私の目でも捉えきれない速度でクリフさんがミノタウロスの四肢を一瞬で斬り捨てた。
「は?」
なにが起こったのか理解に苦しむ。さっき吹き飛ばされていたはずのクリフさんがミノタウロスの背後にいつの間にか立っていていつもの剣戟以上のことをしてみせたのだ。
「もうちょっと何か喋るかと思ったけど喋らなかったな」
「クリフ。リアに余計な苦労をかけるんじゃないわ」
こうなることをレヴィさんは知っていたのだろう。というよりも今までが本気じゃなかったことを知っていたのだろう。
何年かけても追いつけるか疑問になっていた距離がはるか遠くに感じる。
兄妹も私と同じように呆けているし、明らかに人間の領域を超えることをしてるのは間違いないだろう。
そんな私達を置いてクリフさんは解体しながら血抜き作業をしたりとしていた。
「レヴィさん…クリフさんて魔導を使ってるんですか?」
「王国とは違うような魔導を使ってるのは間違いないわね。貴方とも違うわ。ただ本人としては魔導を使ってないと思ってるから聞いても無駄よ」
「それなら英雄大量生産とかもできるんですね」
とんでもないこともできるかもと思って言ってみるとクスクスと笑いながら。
「大量の犠牲を伴いながら完成したのが今の英雄かしら」
聖教会も聖教会できな臭いのではないかとも思ってしまう。
王国がどう腐ってるのかとも思うが、聖教会も似たようなことをしてるのならレヴィさんは聖教会のことも潰すつもりだろうか?
いや、それなら聖教会が安全だとは言わないか。
それから私たちはミノタウロスを解体され布に包まれたものを持ち、レヴィさんだけは手ぶらだが。
斧槍はせっかくなので私がもらうことにした。
フレイさんも欲しがっていたけど穂先が斧というのが使いづらいのと、そもそもオークが持っていた槍よりも重たかったので私が使うことに。
帰りの途中でオークもクリフさんが回収して、グランダに関してはさすがに放置するしかないと判断してダンジョンの外に向かう。
ダンジョンから出た後は組合に向かい解体場に素材を降ろして受付のところまで行けばフェルンさんが迫ってきたので私は今回何もしてないからクリフさんに聞いてほしいと伝えてフェルンさんに質問攻めされていた。
「さすがに今回は疲れたかなー」
「そうだな…移動しかしてないけどな…」
私も兄妹の言う通り移動しかしてないけど濃厚な一日だった気がする。
「レヴィさんは探し物しないならしばらくどうするんですか?」
「アハァ…そうね。リアについて行くわ」
「いいんですか?ダンジョンに潜ると思いますけど?」
「無理じゃないかしら?しばらくはグランダの変異種がダンジョンに溶け込む前に組合総出で解体作業が始まると思うわ。素材が腐ったとしてもダンジョンが溶かすにはでかいし、単純に邪魔だもの」
そう言われてみればそうなのかな?なんて思うとそうなるとすることが一気に無くなってしまう。
「リアが小銭稼ぎしたいならそれでもいいのだけれど。私は手伝わないわよ?」
「私もお金はあった方がいいと思いますけど…とりあえず装備が仕上がったりとかもあるでしょうしまたしばらく休憩ですかね?」
元々私は気絶していて最近の出来事のようにしか感じてないのだけどみんなからしたら私のせいで毎回時間が経ってるだろうし。今回くらいは私のせい以外で休暇を楽しみたいものだ。
クリフさんの話がグランダのところで中々進まないのを見てレヴィさんが先に帰りましょうと提案してきて、言葉に甘えてクリフさんに先に戻ることを伝えると承諾ももらいレッド君とは途中まで歩いて別れ。
宿に戻ると疲れた体をベッドで横たわりたい気持ちを抑えてウィルスさんに温水を頼んで先に三人で汚れを拭いてからようやくベッドに倒れ込む。
「リアラちゃんって疲れ知らずだと思ったけど疲れるんだねー」
「肉体は疲れないんですけど精神的には疲れますよ」
私達は今後どうしようかなとも話してレヴィさんにさっきグランダの解体で忙しくなるかもと伝えるとフレイさんもそれに参加するつもりはないらしく三人で何かしようと話し合った。
「レヴィちゃんて綺麗な服着てるけどそれってどこかで買えるのー?」
「アハァ…嬉しいことを言ってくれるわ。私が作ったのよ」
「レヴィさん職人じゃないって言ってませんでした?」
「そうね。けれど見てもらった方が早いわ」
そう言って私達に見えるように服のあちこちにポッケのようなものがついており、そこからマジックのように魔石を取り出して見せる。
「なにそれー!便利!」
「自分で作らないとここまで魔石を入れるのに不便なのよ。だから私は自分で作ったわ。別にここまでしなくてもいいのだけれど手元にある方が安心だわ」
「じゃあさ!レヴィちゃんに頼んだら服を作ってくれたりするのー?お金は…あ、いらないんだっけ?」
「別に予備があるからそれを上げることは出来るけれど…赤いのは私とサイズが合わないわね」
そう話しながらレヴィさんが魔石を取り出してテーブルに向けて服を召喚した。どうやって?というかいつもの詠唱も無しにどうやって?色んな疑問が出たがフレイさんはそれよりも服の方に興味を示して二人で服を見始めた。
口を挟みたいがせっかく楽しんでるならそれもいいだろう。それにレヴィさんがいつも手ぶらなのにどこに魔石やらを隠していたり、着替えとか旅の道具を持ってないのも今のを見たらなんとなく分かったし。
ただあんまり便利なものではないと言ってたけど、今のを見ると十分便利に見える。何か複雑な工程があるのだろう。
そして私はフレイさんに腕を掴まれてしまい、何事かと思ったら。
「私が着れないからリアラちゃんが着替えて見せて!」
「それレヴィさんに頼んだ方が良くないですか?本人の服ですし」
「アハァ…違うわ。自分で着るのと着てもらうのでは私が見れないじゃない」
レヴィさんも私に着て欲しいのかそう言って着せ替えられていく。
特に抵抗する気はないのだけど、恥ずかしい気持ちはあるがそれにしても着方が分からないものもちらほらあり、本当にレヴィさんは多芸なんだなと思いつつどっちかというとそっちの方を気にしながら服を着る。
「ここくらい広い都市なら布地が売っててもおかしくないし、普通に服も綺麗なものを売ってるかもしれないわ。仕立て直すより買う方が早いもの。明日はそれを見に行きましょうか」
「さんせー!」
私について行くんじゃなかったっけ?とも思ったが、私について行っても部屋で寝転がったりご飯食べたりするだけだから、武器屋防具屋に行くよりは健全的だろうと思い頷いておく。
明日の予定も決まって、南通りに行くことになった。
たしか比較的高級な品揃えと聞いてた気がするけど吟遊詩人の唄を聞いたくらいでそれ以外は特に知らない。
その後も三人で喋りながら過ごしているとフレイさんがいつの間にか寝ていたので。それを機にレヴィさんとも「おやすみ」と言って寝ることにした。
次の日になり、いつも通りレヴィさんが魔石の加工をしてるところから始まり、どんな品ぞろえしてるかなーとフレイさんが楽しそうに起きてから話していると。朝食と共にクリフさんが来た。
どうしたのだろうと挨拶をしつつ、レヴィさんが悪態をつきながらクリフさんがそれをスルーして私に話しかけてくる。
「リアラ、良かったら一緒に出掛けないか?」
「そいつについて行っても良いことなんて何もないわ。良かったらもなにも今日は予定で埋まってるのよ帰りなさい」
「えと。今日は本当に予定がありまして三人で買い物をしようと話してまして」
「それじゃあ明日は一緒にどうかな?」
「明日は私達と一緒にご飯を食べる予定があるのよ。分かったら今日は帰りなさい」
「明日は予定もないからいいですけど二人でですか?」
「そうだね、二人で話せたら嬉しいと思ってる」
レヴィさんは一旦置いといて、わざわざ私と二人で話したい事なんてなんだろう?と思いつつ了承すると帰っていった。
「リア…クリフに何を言われても無視しておきなさい…」
「心配しすぎじゃないですか?」
「リアラちゃん、クリフさんは良い人かもしれないけど誘いに簡単に乗ったらだめだよー?」
フレイさんまで一緒になって注意してくる。
そんなに変なことはしてないと思うのだけど、二人でというのが駄目だったのだろうか?




