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四十九話 一悶着

 待って欲しい。王都に住む人たちも殺すということはもしかして街から避難した人達も巻き込むということなのだろうか。


「それはレヴィさんが言ってた罪もない民を殺すかもしれないってことですよ!?」

「私ももっとゆっくりやるつもりだったと言えば言い訳でしかないわね。どこかの馬鹿のせいで予定が早まったのよ」


 本意ではないのだろう。きっとそうだと言えるくらいに彼女は真剣に苦痛に満ちた表情を見せてくれた。


「ただ私はそれでもやるわ。元々犠牲は多く出る予定だった中、それがもっと多くなっただけでこの国は壊さなければいけないわ。リアに卑怯なことを言うようで申し訳ないけれど、私がやらなくても行動は起こされるわ」

「レヴィさんの意思でどうにかできないっていうのは…分かります。国を滅ぼそうなんて大規模なことをしようとしてますもんね」


 どうにかできないとしても、レヴィさんは行動を起こすつもりでいてそれをたまたま私のことを気に入ってくれて話してくれてるだけなのだろう。

 本当ならただ巻き込まれても仕方ないくらいだ。教えてくれるだけ親切で優しい。


「私に優しいって言う割にレヴィさんも優しくないですか?」

「もし本当に優しかったら赤いのにも言うでしょうね…貴方に言うのはきっと贖罪という私の心の弱さだわ」


 弱いわけがない。強いから優しいのだと思える。

 それくらい考えれる強さが私も欲しいくらいだと言える。


 ただどうしたものか。すぐに決断しなくてもいいとは言ってたけど、今王都に行けば私の知り合いを探して避難を促すくらいのことは出来るかもしれない。


「もし私がこのことを王都に住んでる人に伝えに行ったらどうします?」

「アハァ…それを私に聞くのね。四肢を切断して私の所に置いておくわ」

「さすがに駄目ですか…しかもそこまでレヴィさんに気に入られることをした記憶がないです」

「なにを言ってるのかしら。クリフにも気に入られてるのに、それにダンジョンに行けばクリフももっと貴方のことを大切にしてくれるわ」


 それはなんとも心強い限りだ。

 だがなぁ…そのクリフさんも加担して、止めることができないなら私の選択肢は確かに中立ではいられないかもしれない。


 もし西の街で必死に防衛して守ろうとした人達を今見捨ててしまったら、中立という立場で傍観してしまったら彼らに合わす顔がないじゃないか。


 そうすればレヴィさん達と敵対することになる。レヴィさん達も大切な人だ。私に選べと言うのは酷すぎるし辛すぎる。


「我儘言ったら駄目ですか…?」

「一つ忠告しておくわ。今王都に向かっても避難など間に合わないわ」


 私がお願いしようとしてることを察して先に言ってくれる。そうなるとそれこそ戦うしかないのだろう。


「それじゃあ聞くんですけど私がレヴィさんとクリフさんを相手に戦って勝てると思いますか?」

「私になら勝てるわ。クリフには無理でしょうね。リアが思ってるよりクリフは強いわ」


 何者なんだクリフさんはと突っ込みたいというか、羨ましいというか。

 レヴィさんも十分に強いと思っているけど彼女がここまではっきり言うなら勝てる見込みは無いのだろう。


 ちょっと今回はどうしたらいいのか何も分からないな。

 私が強くなろうと思って守りたいと思った人達が王都にいてそれを壊すという人も守りたい人で、敵対すれば私と関係ない人同士が争ってそれに守りたい人が巻き込まれる。


「レヴィさんの仲間になると言えば、少しでも助かる命はありませんか?」

「無いわ。むしろリアが協力すればその分貴方は傷付くことになるかもしれないわ」

「まぁそうですよね。私も実行犯になるわけですし」

「今決める必要はないのよ。ただ考えてほしいだけ」

「今考えて決めないと王都に行けないじゃないですか、今なら少しでも助かるかもしれませんしレヴィさんの邪魔にはならない程度に――」

「『龍の飛瀑』」


 瞬時にレヴィさんが取り出したのは魔石と共に何度か聞いたことのある魔導を使うときの詠唱。

 そして何が起こったのか一瞬理解が遅れて私は倒れる。


 左足、太ももに穴が開いて血が溢れている。高圧水が私の足を貫いたのだろう。骨まで吹き飛んでしまってるんじゃないだろうか。


「その傷では今から行動するのは無理ね。安心して?リアならその程度の傷癒せるわ。今も魔力が動いて貴方を治そうとしてるもの」

「そうですか…『今すぐ治らないと』困ります」


 言霊を乗せればイメージしているのはオーガの超再生であり、私の足がじゅくじゅくと音を立てて魔物のように治っていく。


「もう一度穴をあけた方がいいかしら?」

「レヴィさんが本気で四肢を切断するかもというのは分かりました…」

「何度だってやってあげるわ、貴方と私のために」

「こんな求愛を受けたの初めてです。ただ…やっぱりレヴィさん強いじゃないですか、勝てると思えないです」


 元々私が王都に向かうかもと注意していたのかもしれない。

 なにより馬屋に移動して宿内で話し合わなかったのがそもそも考えれば外に出てまで話さなくても空間を断絶とかいう意味の分からない魔導を使えば内緒話が出来たんだ。


 それなのに外に出たのは戦闘になるかもしれないと織り込み済みでいて、この場からダッシュで王都に出るのもその空間を断絶されてる以上私の体がどうなるのかも分からない。


「リア。私を殺せばいいのよ。そうすれば魔導は解除されるわ」

「出来ないのを知ってて言ってませんか?」

「そこまで大切に想っていてくれて嬉しいわ。本当よ?残念なことは貴方が今まで出会った人達と同じ程度にしか私のことを大切に想ってくれてないことかしら」

「私の世界ではそういうのヤンデレって言うんですよ…」

「意味は分かるわ。貴族だもの。愛は愛でも家族愛のようなものよ…そうきっと家族愛ねこれは」


 それも十分ヤンデレと言えるんじゃないだろうか。私はそこまで詳しいわけではないにしてもこんな風に私を傍に置いておこうとする行動は病んでるとしか思えない。


「今更知ってる人間が増えても気にしないって言ってませんでしたか…?」

「気が変わったわ。貴方が変えてくれたのよ」

「私に!私の!話を聞いてくれていたんじゃないですか!?レヴィさんも!クリフさんも!それで守っていたものを見殺せと?」


 どこかで冷静な私がいて、その私は分かってる。レヴィさんに言っても変わらないことは、それでも叫ばずにいられるだろうか?


 英雄と共に守りあったあの助けたいと思った人達をすべて無駄にしてしまうかもしれないと知って。


「私が馬鹿でした!レヴィさんに教えられたときに…すぐに行動すればよかったです…」


 ただ馬鹿だった。もっと深く考えなければいけなかった。強くなれば多くの英雄が思った守りたいと思える人を守れるようになるのだと馬鹿の一つ覚えでダンジョンに向かっていた。


「なんで私に教えたんですか!教えてくれたんですか!教えなければレヴィさんは何も知らない私を置いて計画を実行できたんじゃないんですか!?」


 レヴィさんが何かを話そうとしてくれるのを無視してただ感情の赴くままに私はレヴィさんを責めてしまっている。


「どうして…どうして気が変わったなんて言葉で…」

「私を殺せば、救える命があるかもしれないわよ」

「出来るわけないじゃないですか…私は守りたいから強くなりたかったんです」

「優しすぎるわ。冒険者ではなく理解ある領主の兵になるべきだったわね」


 諦めるしかないのか。いや、元々諦めていたんじゃないのか。それがたまたま西の街、今では廃墟の生き残りがいるかもと知って手のひら返ししてレヴィさんを責めてる。

 あまりにも滑稽だろう。あれだけ丁寧に教えてくれた人に対して、今もなお殺そうと思えば殺せる不穏分子に優しくしようとしてくれてるのに。


「一つ…教えてください…」

「いくらでも聞いていいわ」

「当初の予定ではどうなる予定だったんですか?」

「避難勧告を入れる予定だったわ。どうせあの王族や取り入ってる貴族は馬鹿にして避難勧告を無視する予定だったから。そうすれば少しでも助かる命があったかもしれないわね」


 それが一体どうして予定が狂ってしまったのか。

 私が疑問を思うようにレヴィさんを見てみれば泣いている。


「アハァ…リアを元々巻き込むつもりではなかったのよ?ただそうしなければいけなくなったの」

「協力は、出来ないです…ただ、諦めます…」

「いいえ。いいえ、貴方はきっと敵対するわ。私には分かるのよ。だからただの贖罪だとは分かっているけれど先に言わせて頂戴。ごめんなさい」


 別にもう反抗してまで王都に向かおうとは思わない。私が無力なだけでどうしようもないだけだ。


 そんな私をレヴィさんは優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれる。

 いつもこんな風に優しくしてくれていたなと思ってレヴィさんが悪いわけじゃないと分かっている。


「私もごめんなさい…レヴィさんが悪いわけじゃないのに」

「アハァ…リアはきっと私を許さないわ。リアの優しさが私を許せるはずがないもの」


 私もレヴィさんを撫でながら二人で涙を流していた。

 レヴィさんは私のことを思って泣いてくれていたのだろうか。それとも無辜の人々を見殺すのかと追及していたように何もできない殺してしまう人々のために泣いているのか。どちらにしても私がレヴィさんにしてあげれることをしよう。


 せめて私の手が届く範囲の人を守れるようにはしたい。


「随分長くなってしまったわね。宿に戻りましょうか」

「そうですね。ただ目が赤いのはフレイさんにどう言いましょうね」

「きっと寝てるわよ」


 投げやりな言葉を聞きながら、レヴィさんはもうすでに空間の断絶というやつを解いてるのか一緒に部屋まで戻るとフレイさんは寝ていた。


 本当に寝ていたことに私が笑ってしまうと、レヴィさんも一緒に笑ってくれてレヴィさんと一緒のベッドで今日は眠ることにした。


 もう諦めたのだから。私が生きたいと切望して願ったことがどこかひび割れるような音を立てた気がしながら心の中でしか届かないかの英雄達にごめんなさいと。申し訳ありませんと。考えうる限りの謝罪の言葉を思い意識を沈める。




 目覚めたときにはレヴィさんが起きていて魔石の加工をしていた。私が起きたのを確認できるように椅子をこちらに向けて座っていていつもの笑顔を向けてくる。


「おはようございます」

「おはようリア」


 フレイさんの方を見ればまだ眠っていて、起き上がり木窓を開けてみればまだ薄暗く夜明け前と言った感じだ。


「レヴィさんあんまり眠ってないんですか?」

「魔導を使うためには暇があれば加工しておかないといけないのよ。貴族の実態は案外そんなものよ、夫がいればこの作業を任せてもいいのだけれどね」


 というと結婚してる人は妻や夫に魔導回路を刻むのを手伝わせるのだろうか?

 フレイさんの方を見ながら貴族と結婚しない方がいいと起きた時に言うべきか悩んだけど恋愛を重視してるっぽいしフレイさんなら大丈夫かとも思いレヴィさんを見ていると。


「リアは暇なときよく人を見てるわね」

「趣味です」

「嘘よ」


 そんなやりとりをしてると昨日のことが嘘だったんじゃないのかなんて思ってしまう。

 本当は悪いことなんて何も起きないんじゃないかと。



 時間が経つとフレイさんが起きて三人で話しながら過ごしていると朝食も済ませてクリフさんとレッド君が二人で来た。


「待たせたか?レッドも連れてきたんだけど問題なかったかな?」

「昨日話したと思うわ。赤い男は6階層までは面倒を見るって」


 クリフさんも「よかったよかった」と言いつつレッド君は気まずそうな顔をして。


「なんか俺だけ情けなく感じる…」


 そうぼやいていた。


 レヴィさんの準備を待った後は私達は組合に出向き、再度ダンジョンに挑むことを伝えたのちに向かう。


 しかし後ろから見てみると三人赤い髪が並ぶとクリフさんがお兄ちゃんか、若いお父さんと言った感じだろうか?それについて行くレッド君とフレイさんが家族のように見える。


 そんなことを考えているとダンジョンに着いたので気を引き締めて1階層を進み始める。


 いつものようにフレイさんにスライムを任せて進むと思っていたらクリフさんが「ホイっと」なんて軽口を述べながら剣を鞘に入れたまま下からすくいあげるようにスライムの中の魔石だけを空中に飛ばしキャッチする。


「すげー…」

「なにいまのー!」

「ははは。すげえだろ?この程度のスライムなら俺に任せとけ!」


 なんとも頼りになる言葉だろう。というかこの人がいればダンジョンなんて簡単なんじゃないだろうかとも思える。


 クリフさんみたいな感じが出来る人がほかにいないかレヴィさんの方を見て一応確認しておく。


「あの技は普通の人もできるんですか?」

「あいつは片目を弄って魔導回路を刻んでるからスライム程度の動きは読めるでしょうね。ただ普通の冒険者は相当スライム好きならやってみせるんじゃないかしら」


 一応普通の人も出来ることらしい。

 いったいレヴィさんやクリフさんの眼にはどんな風に世界が見えてるのか気になるが、眼球を弄るなんて想像するだけでも痛い。


 基本的にクリフさんだけで十分すぎるほど順調に2階層も進んだ。

 コボルトも今の私が良く見ればすごい剣速で斬り捨ててるのが見えてこの領域は本当に人間なのかと疑問に思う。私にもできるようになるのだろうか。


「クリフさんすげえ!俺弟子にしてくれって言ったら教えてくれるか!?」

「これくらいなら俺がいなくても出来るさ」

「レヴィさん本当ですか?」

「無理に決まってるわ。剣一筋に一生を生きていたらもしかしたらあるかもしれないけれど…常人はそんな戦闘狂にならないもの」


 これもクリフさんが特別っぽいので案外クリフさんは適当なことばかり言ってるのかもしれない。


 3階層のゴブリンも一人でほとんど倒して魔石だけ器用に剣先で空中に飛ばしてキャッチする芸当を見せられていく。


 次はグランダと言われる綿毛鳥の住処だがどんな変異種が来るだろうと想像するとともに、このクリフさんが明るい素振りを見せているのに多くの人を見殺すことを、ここまで強い人がそうまでする理由を考える。

 もし私がクリフさんほど強ければと渇望しながら謝罪と強さを望みながら4階層の階段を下りる。

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