四十八話 かつての人
「クリフ良かったわね。そんな貴方の姿を見る羽目になるなんて私はなんて幸運者なのかしら」
「あぁ。リアラを守ってくれてレヴィには感謝してるよ」
「リアは別に守らなくても十分に強いわ。むしろ貴方なんかよりも強くなるわ」
なんというかレヴィさんが剣呑な口調で喋りだして、それを軽く流してるクリフさんがいる。
普段はこんなことをする人ではないのだろうかクリフさんは。
「リアもいつまでもソレにしがみつかれてないで離れなさい。狂気が移るわ」
「レヴィさんって結構毒舌だったんですね」
レヴィさんが魔石を取り出したことでクリフさんも離れてくれて、とりあえず空気が悪いと思ったから椅子を二人に引いてあげると座ったので私も椅子に座ったらフレイさんだけ仲間外れだったのを気にしてこそこそと椅子に座りに来た。
「それにしても冒険者やってるなんて聞いたからびっくりしちまったよリアラ」
「あはは。なんというか成り行きと言いますか色々ありまして」
「それよりも赤いのに自己紹介したらどうかしら?」
「レヴィちゃん、ここは空気読んで二人の再会を祝したほうがいいんじゃないかなー?」
手元で魔石を転がしながら脅すようにイラついてるレヴィさんがクリフさんを睨むと「そうだな」と言ってフレイさんの方を見て言う。
「初めましてお嬢さん。俺はクリフ、よかったら名前を聞いてもいいか?」
「えとーはじめまして?フレイと言います」
「ははは。気楽にしてくれていいからな。明日から一緒にダンジョンに向かうわけなんだし」
緊張してるのか固いフレイさんに優しく言い。イケメンに挨拶されてフレイさんが緊張してるということはこの世界でもクリフさんはイケメンな部類なのだろう。そして何故か私がちょっと誇らしく感じる。
「レヴィから色々聞いたけど、二人と他にもう一人ダンジョンに向かうやつがいるって聞いたんだがその人はこの宿にいないのか?」
「レッド君ですね。レッド君はゴブリン嫌いの宿に泊まってるそうですよ。それとフレイさんのお兄ちゃんです」
「そうか。それなら後で会いに行こうか」
「夜にいきなり来られたら迷惑かしら。明日の挨拶でも考えておきなさい」
おすすめしないと聞いてはいたけど毎回こういうやりとりを二人はしてるのかクリフさんはレヴィさんのとげとげしい言葉を「それもそうか」と普通に受け入れてる。
「俺としてはリアラの話も聞きたかったりするんだが…それももう夜だからやめたほうがいいか?」
「私も聞きたいことも話したい事もありますけどレヴィさんどうでしょう?」
「リアが話したいと言ってるわ。好きに話しなさいな」
「それじゃあ俺から話すか。とはいっても依頼を達成するために森に入って時間がかかったとしか言えないんだが」
「それはきっとそうなのだろうと思いました。その後はどうしてたんですか?それに依頼の結果も聞きたいです」
私としてはむしろ死んでいただろうと予想してたくらいだから時間がかかったことは仕方ないだろう。
依頼の内容はたしか魔物の召喚だったはずだ。実際に魔物が召喚されたとなれば相当苦戦していたのかもしれない。
「依頼の結果は成功した。その後は急いで戻ったがリアラは行商人と向かったと聞いて焦って追いかけたが向かう先が西の街くらいしか思い浮かばなかったからそこまで行ったが冒険者をしてるとは思ってなかったから次の行き先はどこか考えたけど分からなかったから別の依頼を受けていたんだ。それもまぁ魔物の召喚関係だな」
まさか探してくれていたとは。でもそれなら組合で私を探すことは出来なかったのだろうか?
純粋に依頼ばかりで忙しかったのかもしれないし考えてもたらればでどうしようもなかっただろう。クリフさんが言った通り冒険者になってるなんて思ってもないだろうし。
「随分と忙しそうねクリフ。そんなに召喚がポンポンと起きたら大問題でしょうに」
「困ったもんだよ。俺としては王都にリアラがいると思って本当に焦ったからな」
「そう…それは本当に忙しそうにしてたのかしら…」
どうやって召喚というのを察知してるのか分からないが、そんな大層なことをし続けていたことに驚きだ。
私は生きてると仮定したとしてもレヴィさんが暇扱いしてたからもっと簡単なことをしてたと思ったのに。
「クリフさんがそんなに大変だったなんて思ってもみませんでした。いずれ強くなったらあの森に行こうと思ってましたけどこうして会えてすごく嬉しいです」
「あの時みたいに元気な姿じゃないからきっとリアラはたくさん苦労したんだね。俺はあの時のリアラの方がいいと思うけどな」
「「あの時ってなにかしら!」なにー!?」
二人がいきなり身を乗り出してクリフさんに問い詰め始めた。
あの時と言われて私も思い出すけど、そういえばもう少しラフな感じで話してたような気がする。
そう考えると途端に恥ずかしくなり二人を押さえる。
「今でも元気です!あの時は記憶がちょっとアレ的なソレだったので口調がちょっと気安かったかもしれませんね!この話は終わりです!」
「ははは。そうだな。今も十分に綺麗なままだしな」
「リアは私に話してないことがあったのかしら?そうだとしたら私はとても悲しいわ!」
「そうだよリアラちゃん!リアラちゃんてずっと固いんだもん!なんなのー?どんな風に話してたのー?」
あの時も丁寧に話してるつもりだったけど、今は普通に話してるように言えてるけどボロが出ていたかもしれない。というかなんなら泣いて色々と汚かったかもしれない。
「とにかく私の話です。二人はすでに聞いていますからつまらないかもしれないですけど」
「後で教えて頂戴ねリア」
「夜楽しみだなー」
二人は置いといて、私は西の街での事やそれから魔物襲来、東に向かい途中でアーライナに強くなるために英雄を語り継いで一緒に生きていくことを伝える。
クリフさんはそれを神妙な顔で聞きすべてを聞き終えると。
「すまない」
「クリフさんが謝ることじゃないですよ。それに西の街にクリフさんがいても魔導を使ってくる魔人がいたのでもしかしたらクリフさんでもタダじゃ済まなかったかもしれません」
「いや、本当にすまない」
そこまで気にしなくても良い。私達はまだ生きてると思っているから。
「クリフはもっと反省すべきね。第一に街でもっとリアを探していたら良かったのよ」
「それもそうだ。行商人について行ったと言ってももう少し探していたら辛い思いをさせずに済んだからな」
「いやいや、二人とも落ち着いてください。私はむしろあの人達にとても良くしてもらいましたし、今はそのおかげでここまで強くなろうと思えましたから」
私が宥めてレヴィさんはそれでも憤慨したように怒っていたけど、クリフさんは微笑みながら再度「すまない」と言ってくる。
「英雄達のお話は終わりです!むしろその英雄の一人だったクリフさんが生きていたんですからね」
「俺は英雄と呼ばれるような存在じゃねえぞ?」
「私からしたら英雄ですよ。クリフさん以上に強い存在をレヴィさんしか見たことないです」
「アハァ…リアは私のことも英雄視してくれてたのかしら?」
実際そうだろう。貴族全体が同じくらい強いと言われたら私としては魔物なんて脅威じゃなくなるくらいなのだから。
いや、レヴィさんは確か王国は強いって言ってたから実際同じくらいに強いのかもしれないけどレヴィさんは私の想像してるような民を守る貴族だから…あれ?反乱起こそうとしてるから…。
「英雄…ではないかもしれませんけど?私からしたらレヴィさんは英雄です!」
「なんでちょっと疑問形なのかしら?それならクリフも同じ扱いでいいでしょ」
クリフさんもか。国家転覆を企んでいる二人を英雄と呼ぶべきか少し悩んだけど私がそう思ってればそうだろう。
「もちろんフレイさんもですよ」
「え?いやー私はないかなー武勇伝みたいなものとかもないしなー」
「リアにとっては戦友も英雄みたいなものなのだから受け取っておきなさい赤いの」
こんな風にかつて思い描いた英雄と、今を共に歩んでくれる人達と一緒に談笑できるなんてとても素敵なことだ。
もしここに最後まで防衛線を貫いた人達が揃えば理想の幸せな光景があっただろう。
大丈夫。今も私と一緒に生き続けているから。
「なに最後みたいな顔してるんだリアラ」
クリフさんが頭を撫でて来て、私が考えていたことを察したのかたしかにしみったれた顔をしていたかもしれないなと思う。
「明日からダンジョンに行くわけだしな。みんなよろしく頼んだぜ」
そう言って今日はもう別の宿を取っていたのか宿に戻るとクリフさんは言って明日にこの宿で集合するように話した。
レッド君が来たらそのときに説明しなければいけないだろう。ただ私よりも強いと言えばレッド君は安心してくれるだろう。
「疲れたかしら」
レヴィさんがベッドで寝転び呟く。
「レヴィちゃんが疲れたっていうなんて珍しいねー?」
「疲れるわよ。クリフの相手をするなんて大体良い話ではないのだから」
「朝から話してたんですか?」
「今後の予定とか色々詰めなければいけないことがあるのよ」
実際のやりとりはきっと暗い内容だったりもしたのかもしれないと思っていたら。
「一番はリアについて探ったときが疲れたわ」
「私ですか?」
「言っておくけれどクリフは女性に言い寄られたりすることが多いからあんな軽率な態度を取るような奴じゃないわ。それをする程度には色々逆に尋問されたわ」
そんなに心配してくれていたのかと思うとむしろ嬉しいけど。というかやっぱりモテるんだ。
私としてはそこまでされるとは思わないけどクリフさんは義理堅い人なのかもしれない。明日また謝っておこうかなと思ったけど、逆に謝られそうな気もしたのでこの話は流した方がいいかもしれない。
「レヴィちゃんはクリフさんのこと狂ってるって言ってたけどそんなことなさそうだったよー?」
「人柄は良いと言ったでしょ。魔核結晶が絡んだらあいつは狂うわ」
「思うんですけど、それって叶えたい奇跡をクリフさんが求めてるからじゃないんですか?」
「聖教会の方針…といいたいけれど、そうねクリフも求める理由がきっとあるんじゃないかしら?ただそれにしたって狂ってるわよ」
奇跡を起こす魔核結晶という物を使って起こしたいと言うとぱっと見の想像でしかないけど死者蘇生くらいだろうか?
例えば好きな人がいてその人を生き返したいとかならクリフさんも狂うほど欲するかもしれないし。
「ちなみにですけど聖教会が求めてる理由って分かるんですか?」
「新興宗教なんかが神に祈るのと同じよ。神様が魔核結晶という存在で私達を作ったとかそんなんかしら?あぁ表向きの話よ?裏では分からないわ」
神様イコール魔核結晶ならなんで魔核結晶が生まれる対象が魔物の体内なのかって矛盾が気になるけどきっと宗教ってそう言うものなのだろう。
それにレヴィさんは表向きと言ったということは実態はもっと良いことかもしれないし悪いことかもしれない。
ただ腑に落ちないこともある。それならなんでクリフさんはレヴィさんに協力してるのだろう?魔核結晶狂いと言うなら手伝う意味がある気もするのだけど。
あとは明日に備えて眠るだけだしそんなに考えるより明日のダンジョンのことについて考えた方がいいかとも思ったとき。レヴィさんが起き上がり私に近づいて耳元で囁く
「少し話があるわ。トイレとでも言って二人で外に出ましょ?」
「あー、フレイさん!私トイレ行ってきます!」
「どうしたのリアラちゃん…そんなはっきり言わなくても…ってレヴィちゃんも行くのー?」
「リアがトイレの使い方知らないっていうから手伝ってくるわ」
私がどうしたらトイレの使い方を知らないことになるんだと思ったけど、この世界のトイレ実際に見たことなかったのを思い出したら恥ずかしくなって顔を赤らめてしまいフレイさんが妙に納得したような顔をしてきた。
「えとー…ごゆっくりー?」
私とレヴィさんは馬屋の方まで移動して用件はなんなのだろうと言う前に。
「もう少し言い方ありませんでした?」
「アハァ…別にいいじゃない。前にトイレがどうのって言って分からなかったのは本当のことでしょう?」
そうだけど!そうじゃない!と文句を言いたくなるのを堪えて。大人しく用件を聞く。
「それにしたってどうしました?フレイさん抜きの話だと不穏な気配がするんですけど」
「まさに不穏な話よ。リアからしたらうんざりするかもしれないような話ね」
「外で話していいんですか…?」
「空間を断絶する魔導を使ったわ。ここではない遥か遠くには漏れているけど人が生息してないところだから安心していいわ」
空間を断絶ってなんだろう?召喚の応用みたいなものだろうか?まぁ、魔導を使ったというなら大丈夫なのだろうけどいつの間に使ったのだろう。
「今決断しろって話ではないわ。ただ先に話しておこうと思ったのよ。私と一緒に国を壊してほしいの」
「今回は直球で言うんですね」
「時期が早まったわ。クリフにも確認を取って早急に事を進める方がいいと聖教会が判断して私の協力者にも連絡を取ったわ。全てにおいて準備が早まったのよ」
レヴィさんの顔を見ればいつにもまして真面目な顔で、そこにいつもの笑顔は無かった。
「えと…それってもうすぐ戦争が起きるからってことですか?」
「戦争と言うよりも一方的な蹂躙と呼んでいいしょうね。まだ戦争の方が可愛いと思えるわ」
「疑問しかないです…まず勝てるんですか?レヴィさん王国は、王族は強いって言ってたじゃないですか」
「勝つために準備を進めてきたんだもの。なによりさっき言ったことを受け止めてリア、聖教会も私達の味方なのよ。立場的に言えば中立を気取ってるでしょうけど裏でクリフを寄こす程度に協力してるわ」
ということは商業ギルドだけが関与してないということだろうか…まぁどちらかと言えば商業ギルドも中立というか王国寄りな考え方だろうからギルドと争わないという意味も込めて聖教会が中立の立場を保ってるというところだろうか。
「今すぐに決断ってわけじゃないならいつまでに決断したらいいんでしょう?避難が必要ってことですよね?仲間にならなかったら」
「それは追々伝えるわ。どちらにしてもそう遠くない未来に迫ってると言うのは確実よ」
「判断に困ります…私は前にも言いましたけど王国の人がどういう人か自分で確認したわけじゃないですから」
不穏なことではあるけど、ここまでの内容だと困る。
今日は良い一日だったなと思えそうなそんな日だっただけに…というよりもそんなことを企みながらクリフさんは平気な顔で私達と話していたのか。
「リア。貴方は確実に選ばなければいけなくなるわ」
「どうしてそんな決まってるんですか?私は別に、それこそ中立みたいなものですよ?」
「貴方は優しすぎるわ。たかだか少し会った程度のクリフにでさえ、いえこれは言い方が悪いわね。それでも優しすぎるということは私達と共に進むか、敵対するかもしれないくらいには優しすぎるわ」
いくら私でも敵対だなんて思えない。国の人と関わりはないし…いや。蹂躙とレヴィさんは言ってた?
「王都に住む人達ってどうなるんですか?」
「死ぬ…いいえ。殺すわ一人残らず」




