四十四話 明晰夢
私はレヴィさんが言った意味が分からずに戸惑うと作業を一旦止めて説明してくれる。
「そもそも貴方は魔力を綺麗に放出しすぎてるわ。その体に刻まれたものが原因なのかとも思ったけどダンジョンの中で貴方は異常な成長を見せていたわ」
そう言いながら私の左腕を掴んでマッサージするように腕を揉んでくる。
「砕けた骨がここまで綺麗に治ってるのも異常ね、多分だけどオーガの再生を真似て再生して見せたのだろうけれどそれは今までも出来ていたのならもっと早くできていたはずよ」
腕を離して、手元から見せてくれるのはレヴィさんが以前見せてくれた魔導を刻んだ加工済みの魔石。
てっきり今からこれを食べろと言ってるのかと思って手を伸ばすと引っ込められた。
「私の魔石を食べないで頂戴…」
「すいません、さっきの流れだと食べろってことかと思いまして」
「加工した魔石を食べさせたらどうなるか見てみたい気もするけどあまりおすすめはしないわ。私の施した魔導回路と貴方の体に刻まれた回路が反発して爆発するかもしれないわ」
そんなこと言われれば怖いが。寝ぼけたり、レヴィさんがこっそりと食べさせてきたら私は簡単に爆発しちゃうのだろうか。
「まずだけれど、ダンジョンていうのは魔物の体内だとは分かっているわね?そして体内ということは魔力がダンジョン内では漂っていてそれを貴方が呼吸する度に綺麗に放出して排出してるわけだけれどその分貴方の体内の魔力量が増えているわ」
「他の人も同じなんじゃないんですか?」
「綺麗に放出してるというのを理解してないのね。通常の人間が放出してる量は体内に魔石が作られないために体の中にあるすべての魔力を放出してる状態なのよ」
魔石が出来てしまうと魔人化、魔物化してしまうために放出していないといけないからその方がいいのでは?と疑問に思う。
「ただ貴方の場合は一定量を常に綺麗に放出してるわ。体内に魔力が残ってるのにも関わらず魔石が作られることもなく保持したままの状態で」
「ということは魔力が溜まりまくって魔人化することはないし、魔力が…って魔力の使い道っていまいち分からないんですけど」
「私たちは足りない魔力を補って魔石などを使って魔導を使うわ。その際に体内にある放出される予定の魔力を辿って神経を経由して脳から魔導を使うという手順で魔導を発現させてみせているけれど、貴方の場合は体内に貯めた魔力で別のことに使われているのでしょうね」
普通の魔導については分からないと諦めつつあるので私の身体の話を集中して聞こう。
とにかく通常は魔力を貯めれない作りになってるけど私は貯めれているのに魔石が形成されないまま別の用途に使われてるということらしい。
「それって何に使われてるとか分かるんですか?」
「貴方がまさにダンジョンでやってみせたじゃない。オーガの再生を真似て見せてオーガに通用する怪力を叩きつけて、リアが追い付きたいと言って追いついて見せたその超常現象がまさにその刻まれた回路の一部だと思うわ」
つまり私はダンジョンの中でなら強くなりたいと願えば簡単に強くなれるということだろうか?それなら1階層に潜って延々と強くなりたいとイメージすればどこまでも強くなるのではないか?
「でもそれってレヴィさんの言う通りだとしたら毎回苦戦をしてるんですけど」
「ダンジョンの漂ってる魔力が足りないのでしょ。だから魔力の塊でもある魔石を食べればダンジョンでなくても強くなれると思うわ」
それなら1階層で留まっていても大した成果は見込めないのかもしれない。
ただ今までやっていたなんちゃって稽古がほとんど無駄だったかもと思うと少し悲しい気もする。
「魔石って普通の人が食べたらどうなるんですか?」
「死ぬわ。魔力暴走を起こして体内から放出しきれなくなった魔力がそれでも魔力を放出しようとして吐き気、眩暈、痙攣を起こして胃の中にある魔石が毒のように作用して…あ、でも少量、ゴブリン程度の魔石なら死なないわよ?眩暈を起こすくらいかしら」
普通の人間が食べても体に回路が刻まれてないから無駄に終わるけどね。と魔石の加工を再度し始めて言うだけ言って終わったのか、あとは自己責任ということなのだろうか。
一応というかウェアウルフの魔石に関しては私のナップサックに使い道がないかと放置したままであるので取り出してみるとそのサイズはとてもではないが飲み込めると思えない。
「レヴィさーん、魔石って砕いて食べてもいいんですか?」
「特に問題はないわ。アハァ…まぁ本当に食べるつもりだとしても私が魔石を使った方が安全だしその方がいいでしょうね」
作業に夢中なのかこちらを見ずに答えてくれたので、ウェアウルフの魔石をどうするべきか悩んでしまう。
そもそも毎度のことながら漠然的に追いつきたいと思って強敵に挑んできたわけだけどここで楽が出来るのならぜひとも楽をしたい。
でもそれが普通の人間なら死ぬと思ったらどうにも試す意欲が失ってしまう。それに強くなりたいといってもどういう風に強くなりたいのか今までは見本となるべき敵と戦いながらイメージしてたからやりやすかったけどどんなイメージをしながら食べればいいのだろう。
考えながら魔石を手で握って砕けるか試してみるとピキピキと音を立てて砕けていく。
オーガと戦う前の私がこれをできたかは怪しいがそれでもダンジョンの階層ボスに挑むたびに強くなるこの身体がレヴィさんの言う通りの回路を身体が刻んでるというのなら本来の持ち主はどういう気持ちで回路を刻んだのだろうと考える。
もし強くなるために必要なことだったのではと考えると、どれほどの存在の強さを想定してこの身体を変えたかったのかと思う。
アニメとかで考えるとドラゴンとか想像するけど実物を見たことはないし、私が想像できるのは現代兵器の恐ろしさとかなら映画とかの印象でなんとなくわかるがそう考えたら強いというより速いイメージしか湧かない。
魔法とかなら漫画程度の知識でいいならあるけど私が身体から解き放てるような物なのだろうか?
「レヴィさん、今日も質問ばかりで申し訳ないんですけど、私が魔導みたいなことって起こすことはできないんでしょうか?その強くなるっていうのがいまいちイメージしづらくて」
「そうね…出来ないとは言えないけれど、詳しく現象を理解しているのなら出来るんじゃないかしら?貴方の場合で言うなら体そのものを構築し直してるようなものだし。今回の例でいえば傷を癒す工程か過程を貴方は知識として知っていてそれを体に命令して作ってるようなものよ」
傷を癒すと言えば自己治癒力?私の思ってるものだとタンパク質の摂取とかだろうか?それで新陳代謝とかをかなり早めてたり?いや、私がそんな勉強してないのに出来るとは思えない。
「オーガを見て真似たって言ってましたけど、知らなくても理解してなくても出来るものなんですか?」
「リアが意識してなくても理解をしたと思うわ…いえ、理解してなくても目の前でそれが出来てることを見たのなら同じ生き物なのだから再現できて当たり前とリアは無意識に思ってるのでしょうね」
そうなのだとしたら私が今まで見た人達を、魔物を、そして私が今目の当たりにしてるレヴィさんを想像すればイメージとしては足りるだろうか?
テーブルで作業をしてるレヴィさんの近くを通って水が入ってるコップを手に取りベッドに腰かけて、念のために再度強く魔石を砕きつつ口の中に入れて水で流し込む。
これであとは魔石がなにかしら起きて魔力暴走を起こすとか言ってたけどレヴィさんの言う通りなら私の場合はこれでイメージしてるだけでダンジョンの中で成長を遂げたような現象が起きるはず。
英雄の姿を思い出し。スライム…は人間離れしすぎてるとしても、ウェアウルフのような跳躍とスピード。オーガのような強靭な力と再生。それを繰り返し思い出し想像する。
果たしてこれで正解なのか?と途中から疑問に思ってるとレヴィさんが驚いたようにこちらを見てきた。
「リア、なにしてるのかしら?」
「手元にあった魔石を試しに飲んでみたんですけど」
「馬鹿なのかしら?試すにしてもゴブリン程度の魔石って思ったのに貴方なんの魔石を飲んだの?」
「ウェアウルフの魔石があったので、というか手元にそれしかなかったので」
「ちょっとリンリーを呼んでくるから待ってなさい。今の貴方は魔力暴走を起こしてるわ」
そう言って急いで部屋からレヴィさんは出て行った。
私としては特に異常がないからレヴィさんの言った通りだと思うのだけど、と思っていると視界がだんだんと傾いてきた。
あれ?私は座ってるはずだから大丈夫なはずなんだけどと思っていると体を触るとちゃんと座ってるのに視界が傾いてる。傾いているならバランスを戻さないとと意識するとそのままベッドに横たわるように倒れる。
ぐるぐる回る視界の中、私は想像を続ける。
「私は強くなりたい。『レヴィさんのように』魔導を使いたいし…あをひをろようい…」
呂律が上手く回らないのはなんでだろうと不思議に思いながら考えるのは私が忘れていたこと。
何を忘れていたのかなんて分からないが忘れていることがある。これは私ではない私。
どうしてこんなに強くなりたいんだろうと不思議になる。
英雄を弔うためとか、英雄に追いつくためとかそうではなかった記憶が蘇るような感覚に私はそれでも私だから追いつきたいと願う。
きっとこれは夢の中なのかななんて思いながら白黒の世界が広がった。
そこはもっと幼い姿の私がいた。この人が本来の持ち主なのかななんて思いながら周りを見ればそこはダンジョンに似通った場所で洞窟のような場所だ。
木々もありはするがほとんど水没していて幼い私は水浸しの地面を歩いていてその子に迫ってくるのは今まで私と戦ったことのある魔物たちや英雄達。
どうして幼い私を狙っているのかなんて分からないけれど彼らは殺意をむき出しに幼い私を殺そうとしていてその姿を第三者として私は眺めてる。
夢と分かってはいても魔物は仕方ないにしても英雄たちまで私を殺そうとして来るのは気分の悪い夢だ。
今でさえ身体が小さい方なのに幼い私はもっと小さいのだからいくら走っても追いつかれてしまう。
その後は悲惨な光景だった。見たことも無いような喜々とした顔で英雄が私を腕を剣で槍で突き、魔物たちは私の腹を食いちぎるとてもではないが見たいと思えない光景。
きっと幼い私は死んでしまったのだろうと思えば、夢は繰り返される。
何度も何度も幼い私は逃げ戸惑い蹂躙されていく。一体何どこの光景を見ればいいのだろうかと思いながら後ろを見れば、今度はお前の番だと言うように私の背後に幼い私を蹂躙してたそれらが迫っていた。
焦ってすぐに逃げなければと思い走るが今まであの子が無駄に終わったことを思えば逃げて本当に正解なのだろうかと疑問が浮かぶ。
どうせ殺されるだけなら明晰夢として分かっているなら夢らしくせっかくなら挑んでみるのもいいのかもしれないと拳を握ってかつての戦友と宿敵たちに向かって殴り掛かる。
槍が私の体を貫く、痛い。剣が腕を飛ばす、痛い。頭にスライムが包まれて頭が焼けるような熱さにもがきそうになるほど苦しく、息も出来ない。体を食われる感覚に吐き気を感じながらも呼吸さえ許さないそれは気づくと何も無くなっていた。
夢にしては痛いし苦しいそれが無くなり。幼い私がベッドで横たわってる姿がある。
さっきまでの地獄とはまた違うものが来たのかとうんざりしながら幼い私をみていると横たわりながら咳をしてすごく苦しそうにしながらも何かをしている。
何をしているのだろうと近づいて見れば、綺麗な宝石を弄っていた。
透明なように見えたが白黒のこの世界が原因なのか本当はもっと輝いていそうなそれは鈍く光ってる宝石を丁寧にレヴィさんがやっていたような加工を幼い私が施している。
どうせ夢…などと思っていたけれど、仮にこれが本来の体の持ち主だとしたらきっとこの幼い子は魔導に携わっていたんじゃないかなと思うと、その宝石が急に一面真っ白にするほど真っ白にした。
彼女はどうなったのだろうと光が収まるとまた別の世界が見えた。
ここはどこだろうと思ってると真っ暗な何もないところで私は周りを見渡しても何も映らずに妙な孤独感を訴える。早く目覚めて欲しいと思い息苦しさに喘ぐ。
いや本当に息苦しいのだ、呼吸ができないことに今更になって気づくと首をかきむしるようにもがいて助けてほしくて手を伸ばし何かを掴んで体を引き寄せるように這い上がると、そこには色のある月が三つ並んでいる夜空が浮かんでいた。
この光景は見たことがあるな、とぼやけた意識を振り払いながら苦しかった場所から這い上がると私がこの世界で目覚めた場所と酷似した森が周りに広がっていて、後ろを見れば湖がある。
そして森の方を再度見れば何かがこちらに走って来ていた。
あれはなんだろうと目を凝らしてみれば私がいた。いや、この場合元の持ち主である彼女だろうか?
「いやだ…しにたくない…」
そう呟きながら彼女をよく見れば血まみれで、とてもではないが生きてることが不思議なほどな重症だ。
ただ私は知ってる。彼女が私と同じならその傷くらい治せると…いや今の彼女にそれが出来るのだろうか?私がダンジョンに入った状況と今の過去の彼女は別物ならもしかしたら彼女は助からないかもしれない。
「なんで…何もしてないのに僕は何も…してないのに」
それが誰に対しての訴えなのかは分からないが、死に際になりながらも「たすけて」「しにたくない」と言いながら私の近くで彼女が倒れる。
どうしたらいいのだろうか、夢とはいえもしかしたら彼女に対して何かしてあげれないかと彼女に近づいて体を抱えようとするが手が彼女の体を通り抜けて触れない。
まだ呼吸はかろうじてしてるから助けてあげれないかと思い、もう少し先に進めばかの英雄がいるんじゃと思い彼女に触れないならその英雄に助けてもらえたらとうろ覚えながら森の中を進む。
たしかこの道で合ってる?と不安に思いながらも進んでいくとそこには精巧な顔立ちの青年、クリフさんが歩いていた。先ほどまで魔物と戦闘していたのかと思う血濡れの剣を携えて。
ただ私が何かをするでもなく彼は湖の方角へ進んでいってるようでこのままいけばもしかしたら助かるかもしれないと思って夢のクリフさんを追いかけて湖へ進む。
彼女の元へたどり着くと、クリフさんが知っていたかのように彼女と話し始める。
「ここにいたのか」
「僕が…なにをしたっていうの?」
「すまない…」
そう謝って彼女の首に剣を突き刺し、胸を剣で斬り開いた後に夢のどこかで彼女が加工して作っていた宝石を取り出す。
これは彼女の魔石だったのだろうか?そう疑問に思うこともあればなんで彼女をクリフさんが殺したのかも分からない。夢なのだろうか?彼女の記憶なのか?
そんな疑問を打ち払うかのように世界が宝石によってまた白く輝きだし一面を白くしたあとに黒く塗りつぶしていく。
目を覚ますと、ウィルスさんの宿で横を見れば看病してくれていたのかレヴィさんが私を抱きしめるように一緒に寝ていた。
夢の内容が忘れられない程度に印象が強くて、ただあの優しかったクリフさんがそんなことをするはずないとも思って出来る限り夢の内容を忘れようと思いつつも、ただあの宝石はなんだったんだろう?と思うと夢にしては綺麗に加工を施していたし、会話の内容もそうだけど。彼女がボロボロになっていた血まみれの服は私がこの世界で着ていた最初の服とまったく似ていたのではないだろうか?
もし、あの夢が本当にあったことを体の持ち主である脳が記憶していて再現したのだとしたらと思うと怖くて今私がいる理由がなんなのだろうと思ってしまう。
体を震わせてしまっていたから起こしてしまったのかレヴィさんが私の頭を撫でながら目を開けていた。
「アハァ……起きたのね…苦しかったのかしら?それとも悪い夢でも見てたのかしら?とてもうなされていたわ」
「分かりません…ただ怖い夢は見てました」
「明日にはきっともっと良くなるわ。そしたら美味しいものを食べにいきましょう」
そう言って撫でてくる心地よさに身をゆだねて、夢が恐ろしかっただけに眠るのは嫌だったけど、ただ今はゆっくりとしようと思っていると瞼が自然と落ちていく。
「大丈夫よ。心強い味方も来てくれたし、もう怖いことは無いわ」
どれほど眠っていたのかは分からないけど、そういう話もあったなと思いながら意識が沈んでいく。
また戦わなければいけないと思うと少し嫌だが、何かを守れるくらいには強くならなきゃと思う。




