四十二話 アーライナ魔窟3階層二
私達はこちらに迫ってくるかもしれないゴブリン達に対してどうやって立ち向かうか話し合いをした。
その際にレヴィさんが私達以外のパーティ以外は半分に分かれて左右のゴブリンを防ぐ役割を提案し始める。
「あんたの所って4人で中央をあんたらが突き進むって言うのか?無理じゃないのか?」
「少数精鋭で突き進んだ方がいいわ。なにより私は魔導を使えるし赤い二人は貴方たちと同じように中央を防ぐ役割に徹してもらって突っ切るのは私とリア、この二人で突っ切るわ」
「2人は無茶じゃないのか?それに命を託せと言われても」
「別に左右で分かれた部隊が押し切って背後を取るように動いてくれて構わないわ、どっちにしても中央にいられると私の魔導の邪魔なのよ」
魔導の邪魔と言われてしまえば冒険者は口を止めて提案には渋々ではあるが賛成のようだ。
とはいえ私も冒険者の言う通り中央を突っ切るというのが本当にできるのか分からないから困っているとレヴィさんが私達3人を呼び寄せる。
「赤い二人にも話しておくけどさっき言ったことは半分嘘よ。今回は間違いなくゴブリンの変異種なのでしょうね」
「え?じゃあリーダーとかはいねえのか?」
「半分て私とレッドが中央を抑えるのも嘘だといいなー…」
「考えてもみなさいな。リアは目立つ髪色をしてるしまた変異種となれば知ってる冒険者が結構いるのでしょう?そしたら変に仲違いをするより上位種が現れたと言った方が連携がとりやすいわ」
レヴィさんの言うことも分かる。なんなら掲示板にわざわざ『強者求む』と貼り紙まで出していたのだから意図的に出してると思われる変異種に巻き添えを食らっていると分かったら私達に敵意が向くかもしれない。
とはいえ中央突破が本当にできるのかという疑問もあるし、上位種が嘘だということは変異種を倒さなければいけないのだろう。
「リアも今の状況を打破するなら誰かに変異種だとばれて敵を作るよりも早く元凶を倒して誤魔化してしまった方がいいわ」
「そのための強行突破ですか?それでも中央に少しは戦力を分けてもらった方がいいんじゃないんですか?」
「その点についても左右よりは魔導を当ててゴブリンを一気に減らした分左右よりは中央の方が安全だから二人でもなんとかなると思うわ。赤い二人は自力でなんとかなさいな。今までも変異種が強敵だったのなら今回もリア一人だとどうしようもない分最低一人は同行が必要よ」
最悪冒険者から敵視されても私はみんなが無事なのがいいのだけど、ただ変異種を相手にすると今回は2階層でも相当に強かったのだ。
3階層ならもっと強い敵が出て中層か最下層クラスの魔物を相手にされて死ぬというのも考えたら責任は重いが私一人が頑張ればなんとかなるのは今までと特に変わらないと思えば気楽とも言えるだろうか
「俺は分かった。フレイは大丈夫そうか?」
「私主体で戦ったことないからなー…それでもレヴィさんの言う通り強行突破して階層ボスを倒さなくちゃいけないなら強い人が向かった方がいいだろうしいいんじゃないかな?」
「毎度申し訳ありません…本当は他の方にも謝りたいですけど、まさか巻き込むとは思いませんでした」
なんだかんだ二人とも良い人なのだ。私が変異種と遭遇しやすいと分かっていて、それでもパーティを続けてくれる優しい人。
二人にもそうだけど、今回戦ってくれる人の分も戦うと思ったらとにかく頑張らなければと思う。
「リアは私を抱きかかえてくれるかしら?貴方の速度についていけないだろうし連れて行ってくれれば援護出来るわ」
「乗り心地悪いかもしれませんけど了解です」
4人で話し合った後は冒険者たちを見ればどっちに分かれるか相談がそっちも終わったみたいで。この位置から扇状に広がるように前進して戦闘を行うと決めて全員でまた無事に会おうと言い合い分かれる。
「できれば優しくしてほしいわ。赤い男が担いだ時鎧がお腹に当たって痛かったわ」
私は鎧をしてないから大丈夫だろうとは思うけど、担ぎ方がいまいち分からないのでお姫様抱っこするように抱えるとレヴィさんは満足そうにしてるので大丈夫だろう。
「俺たちは後ろからついて行くけど、リアラの方が速いから気にせずぶっ放して進んでくれ、すぐに追いつく」
「分かりました。出来る限り早く倒してきます」
私はレヴィさんを連れて走るとゴブリンがどこまで接近してるのか分かってなかったが、注意しながら進むと、特に何かが来るわけでもなくもしかしたら攻めてきてない?と疑問を抱いていると視界の端に何か見えてそれを避けると弓矢が地面に刺さる。
「木の上に登ってる射手は放っておきなさい、それとこの調子だと陣形を構えてるかもしれないから前衛が見えたら一旦降ろしてくれるかしら」
言われた通り射手は放置するが、当たらないかひやひやするがそこまで精度が高くないのか私が走ってると当たることは無さそうだ。
偶然当たるということが無ければ多分大丈夫だろう。
そのまま走ればゴブリンが数十体は見えて、その装備は今までのように革鎧などではなく鉄の錆びた鎧を着込んでいた。
「なんか装備が新調されてませんか?」
「ゴブリンの浅知恵とはこのことだわ。私やリアからしたら重い装備をしても関係ないでしょ?」
そう言うレヴィさんを地面に降ろすと、どこかからか取り出した加工された魔石をいくつか握り呪文のようなものを唱える
「解き放て『炎龍餐の贄』」
それは龍という言葉が入ってるのを表してるようにドラゴンが放つ炎をどこかからか召喚したのか渦巻く炎が真っすぐに放たれる。
ここが森だということを忘れてはいないだろうかと不安にもなりつつ魔導を使った後のレヴィさんを再度抱えて突き進む。
横を見れば燃え焦げたゴブリン達が苦しみもがいてるものや、すでに息絶えてるものが多数転げ落ちていた。
「森なのに燃やしちゃっていいんですか!?」
「射手は木の上で構えていたわ、それにダンジョンなんだからどうせ再生するもの。安心して突き進むといいわ」
たしかに射手の心配はしてたから後続のレッド君達が少しでも楽になるのならそれはいいのかもしれない。ただここまでド派手に動いたのだからゴブリン達もこちらに集中して集まってこないかと心配にもなる。
「今の魔導って連発はできるんですか?結構な範囲を燃やしましたけどまだ先に変異種がいると思うんですけど」
「今のは連発できないわね、一日か二日は待ってくれたらもう一度同じことはできるわ」
ということは別の魔導をつかってくれることを期待して先に進む。
再度ゴブリンが待ち構えていて、今度は先ほどよりもガタイが良い。これが変異種?とは思えないのでレヴィさんに再度お願いするべきかと思いレヴィさんを降ろせば以前使って見せてくれた魔導を使ってくれる
「解き放て『龍の飛瀑』」
前見せてくれたときはあれでも手加減してくれていたのか今回は威力も範囲も大きく前方を薙ぎ払うように高圧水が噴射して錆びているとはいえ鉄の鎧を着込んだゴブリンを水で切断していく
「これ、私がいなくてもレヴィさんだけでいいような気がしてきました」
「あら?これでも集中力が結構必要な分リアがいてくれて助かってるのよ」
運動が苦手とも言ってたし少しは約に立ってると思いたい。
ただ結構進んでるとはいえちらほらと見える戦わなくて良さそうなゴブリンをスルーしてるとはいえ変異種とは中々会わない。
もしかしたら中央ではなく左右のどちらかにいるのでは?と不安にも思うが再度大量のゴブリンが槍と盾を構えて横に並び兵隊の隊列を維持してこちらに穂先を向け迫ってくるのを確認してレヴィさんに再度頼る。
「ファルメナの領域を犯せ『死龍の汚濁』」
連発できないと思っていた魔導もレヴィさんがすごいのか加工された魔石を消耗し発現するそれは毒だろうか?瘴気のようなものが前方に噴射されてそれを浴びたゴブリン達はもがき苦しみながら倒れていく。
「これ、私、進んでいいんですか…?」
「言い忘れていたけど瘴気よりも外に出るまで息を止めて走って頂戴」
できれば早めに言ってほしかったと思い、ちょっと息を吸い込んでしまっていたけど特に何もなかったので少しなら大丈夫なのかと思い走り抜ける。
魔導は召喚と言ってたからどこかから召喚してるのだとは思うけど、これがどこから持ち出されたものなのか、そしてなんでこんなものが使えるのか疑問ばかり浮かぶ。聞けば答えてくれるのだろうけど聞いても分からないと思えば聞く気も失せるのだが。
それでもレヴィさんが張り切って魔導を使ってくれるものだから結構進めたんじゃないかと思っていると、それらしき存在が見えてきた。
レヴィさんの予想してたオーガと言うものなのだろうか、それは鬼だ。
角を二本額から生やし、ゴブリンとは違い赤黒い肌はこれがゴブリンの変異種とは思えないような存在でなによりも特徴が見た目の違いというよりは大きさが違う。軽く私の3倍はあるであろう巨体に剣で斬れるとも思えない筋骨隆々としたその姿は私がウェアウルフに感じた勝てないという初見の印象と同じように感じる。
「援護はするわ。ただ、一撃でも食らえばリアはどこまで吹っ飛ぶか分からないし、できれば避けて頂戴」
「善処はしますが、私がどうにかできると思えないのでレヴィさんに頼り切りになると思いますので周りに注意してくださいね。頑張ってきます」
どう立ち向かえばいいのか分からないが、それでもレヴィさんに敵意が向かないようにナップサックに納めていた使う機会がそこまで無かった石を取り出して『強く飛んで』と込めてオーガに向けて投げてみれば胴体に当たって石が砕けるだけで傷らしい傷は負うことなくわたしの方を見て咆哮し迫ってくる。
どんな風に攻撃してくるかと注意しながら見てみれば太い腕を力任せに振ってくるだけの一撃を私に向けてきた。
ただ大振りの一撃。されどそのスピードはウェアウルフで感じた速度よりあまりにも速く避けようとしたが左腕が掠ってしまい軽く骨が砕ける音とぶらりと垂れ下がる左腕は一瞬遅れて痛みがやってくる。
避けてみようと思って最初の一撃で当たって腕一本使い物にならなくなることが直撃しなくて良かったのか、避けようと思っても遥か届かない高みにこのオーガがいることが絶望すべきなのか。
「ぐっ…レヴィさん!これ私じゃどうにもならない気がします。レヴィさんに任せちゃだめですかね!?」
「オーガの魔人化なんて初めてみるものだから少し様子見したかったけど、離れてなさい」
追いつかれないように、レヴィさんの射線に入らないように横へ飛んでオーガを見るとレヴィさんが何かしてようと関係なく私に向かって飛んで両腕を勢いよく叩きつけようとしてきた。
さすがにそこまで溜めを作って飛んでくれるのならと横に再度飛んで避けてみせると、地面に着地すると同時にこちらに肩から当たってくるように体当たりをしてきてこれも一瞬出遅れてしまい避けようとした際に力の入らない左腕に当たり。とにかくこのままではいけないとだけ考え思いっきり後ろに飛んで逃げる。
「解き放て『龍の飛瀑』」
距離が開いたことでレヴィさんが高圧水を放射しオーガに当てると、これで終わったと思ったが削れている肉体が血を流しているのが確認できてもその胴体は無事なままで魔導が終わった頃にその姿をよく見ると傷が塞がっていく姿を確認できた。
「アハァ…オーガの魔人化ともなればこの程度じゃ効かないのでしょうね。リア!もう少し時間稼ぎなさい」
「燃えるやつとか!さっきの毒みたいなやつは出来ないんですか!?」
「私の魔導よりも貴方の方が十分頼りになるわ。自信を持って挑みなさい」
そう言われても、レヴィさんの攻撃よりもすごい技なんて私には持ち合わせてない。
一か月半よりも前にも思い続けていたウェアウルフに対して抱き燻った感情を持ってただひたすらに『追いつきたい』と願い呟きながらオーガを見る。
レヴィさんの攻撃で多少でも疲れてくれてれば儲けものと思いながら、攻撃してきたレヴィさんを無視して私に迫るオーガを右腕のみでどう対処したものか。
担いでいたから握っていなかった剣を右手に持ち身構えるがオーガは私なんて警戒するに値しないとばかりに再度跳躍してきて剛腕を叩き込んでくる。
一度見た攻撃であればと思い避けて、追撃が来ることを想定していたら陥没した地面の土を握り込み私目掛けて投げつけてきた。
予想外の攻撃に視界だけは確保するために剣で目線に迫る土を防御しながら足を止めたら恐ろしいほどの速さでショルダータックルを真っすぐと走ってきて避けようとしても今度は右足がオーガの足にぶつかり空中で回転するように飛ばされる。
「『砂塵の大喰らいより無数の牙』」
それも召喚と言うやつなのかというくらいに馬鹿げた数の棘のような牙が地面からレヴィさんがオーガに向けて生えてオーガの右足と左半身を貫くように串刺しにしてみせた。
これで少しはダメージを負ってくれているかと思えばそうでもなく地面から生えた牙をへし折り自分の体から抜いて放り捨てると、ジュクジュクと弾けるような音を立てながら体を再生していく。
「リア、貴方は今のあいつを見て戦いなさい」
そう言われてもと思うが、レヴィさんの攻撃が通じてないのなら私がなにかしら役に立つしかない。
今のも援護のためにレヴィさんが魔導に集中できていなかったと考えたら私が盾にならないでなんのためにここにいるのか。
「私はお前に『追いつきたい』」
強く、強靭な肉体と剛力を持つ、圧倒的な再生力を持つ私よりも遥かに強いお前に追いつきたい。
願ってどうにかなる私の言霊を乗せて使えなくなっていた左腕も合わせて両手で剣を握りオーガと対峙する。
私には力が足りない。変異種のような速さも無ければ何ができるのかなんて思いつきもしない。
だから私はオーガに向かい少しでも足止めになればと注意が私に向いてるなら好都合だと思い動けるようになったオーガが再度私にショルダータックルを馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくるのを見て私もオーガに迫るようにすれ違いざまに剣を斬りつけて見せると強靭な筋肉をわずかに斬ることができてもすぐに再生してくる。
そんなことは想像してる。私の攻撃が通じないのなんて最初から分かりきってるのだからと思い背後に回っている私が反撃するなんて思ってもみなかったであろうオーガに向かい飛んで胴体に剣を斬りつけようとするとオーガが振り返り正面から斬りつける。
大したダメージになんてなってないのだろう。この近い範囲に私がいることをあざ笑うかのように右手で私の小さな体を掴み上げ握りつぶすように力を込めてきて、私の身体が悲鳴を上げるように骨の砕けるような音を響かせる。
「あああああぁああああ『追いつきたい』『追いつきたい』あああああ」
それでも願うしかできない無力な私を呪いながら掴んできたオーガの手を掴んで離そうともがくが、まだ力が足りてない。
「穿て『砂塵の大喰らいの牙』」
私を掴んでいたオーガの腕に地面から生えた牙の棘を狙い定めてレヴィさんが飛ばしてきて私は掴まれたまま空中へ飛ぶ。
空へ放り投げられながらオーガを見れば腕から先を失って血を吹き出しながらレヴィさんを睨んでいる。
腕から離れて尚も力強く握りしめてる腕を急いで外しながら立ち上がるとオーガがレヴィさんに向けて突っ込んでる姿を見て心底羨ましいと思い『追いつきたい』と呟きながらレヴィさんを守るために走る。
「リア!私にかまけてないでそいつの首を斬りなさい!」
こんな状況でもまだ私に戦っていて欲しいと思ってくれるレヴィさんを放っておけるわけがない。私に巻き込んで死んでもらったら私が生きてる意味がまた失われてしまう。
「お前に『超えなきゃ』ならないんだ」
そう願い、オーガよりもただ速く駆け抜けオーガがレヴィさんに追いつかないように足に向かい、いつの間にか落としてしまった剣を拾い上げ投げつける。
オーガのふくらはぎに突き刺さったことで地面に転ぶように蹲ったその背中に向かって飛んでオーガの首に拳を叩きつける。
「アハァ…なんて素敵なことなのかしら」
オーガは地面に倒れて、レヴィさんが私を見ながらそう笑顔で喋りかけてくれる。




