三十三話 アーライナ魔窟1階層二
駆除できるスライムを粗方片付けたあとはレッド君が先導して2階層に向かう。
「コボルトっていうのは犬ですか?」
「犬と言えば犬か?リアラよりももう少し小さいすばしっこい魔獣だよ」
「スライムより魔石は高いんですか?」
「銅貨5枚かな。魔石がそれなりに大きいんだ」
まさかゴブリンよりも強いのだろうか?私が考えてるものだとコボルトもゴブリンと同じようなものだと思っていたけど、それを上回るとなるとどうだろう。
ただ二人で2階層までを活動範囲にしてるというし、それなら私が苦戦したとしても大丈夫だと思える安心感はある。
1階層の地図を開けば、そこにはもう少し先を進めば2階層に下りれる場所が記されていて。私はフレイさんが一番活躍してる1階層を見てきたけどダンジョンでの死亡率が高いのは油断が多いことも関係してるだろうか?そうでなければ1階層で槍ではなくても長い棒を器用に扱える人間であれば小遣い稼ぎとして十分通じる気がする。
そしてあとは真っすぐ進めば2階層に行けるという通路を進んでると、そこにはスライムがいた。
いや、はたしてそれはスライムと言えるのだろうか?
今まで見てきたスライムは不定形の形をしていたりはしたが球体になるように周りのゲル状をぷるぷると動かしていた。しかし今目の前にいるのは広間にいたでかいスライムのように異質感を与える上に人型のスライムだ。
「なんだありゃ」
「階層ボスとかそういうのかと思いましたけど違うんですか?」
「あんなのみたことないよー。てか気持ち悪いね…人型のスライムとか初めて見たよ」
二人とも知らない存在が私たちの行く手を阻むようにいる。これがいつもいる存在じゃないというのならたまに出てくる珍しい魔物とか?それともいつもは深く潜ってる人達が何気なく狩ってる魔物なのだろうか。
そう悩んでいると、そのスライムが右手をこちらに向けてきて、何かしてくるかもしれないと身構えていると、その腕が質量保存を守るかのように右腕と足以外のゲルを減らし一気に腕を伸ばしてきた。
狙われているのはフレイさんだったので、咄嗟にフレイさんを横に飛ばして私は当たらないようにしゃがんで避けると伸縮速度が異様に早く。最初の位置から動かずして腕を戻し、身体の減っていたゲルも戻っていく。
何かの映像を巻き戻したかのようにする、その動作が不気味でありながら明確な攻撃意思を感じて私は石を取り出す。
「リアラちゃんありがとう!なにあれ!?」
「応戦するな!明らかに普通のスライムじゃないあれは」
応戦するなと言っても簡単に逃げさせてはくれなそうで、その腕を一気に伸ばして私を狙い迫って来るそれを避けると、今度はその腕が引っ込まず宙停止した後に曲がって私を追撃してきた。
それも避けるとまた逆再生するように戻っていく。この隙に逃げれるかと聞かれてもあのスライムが移動してくるかもしれないと考えたら下手に背中を見せたら腕に捕まって飲み込まれるだろう。
あまり威力は無いかもしれないけどせめて少しは速くなれと思い石を私の態勢が整えないままスライムに向かって投げる。
「『早く飛べ!』」
せめてどこかに当たれと思って投げる石は胴体部分目掛けて飛んでくれて安心したのも束の間、空いていた左腕で石を即座に掴み体内で一瞬で消化してみせた。
普通のスライムは石を飲み込んでもそんな消化速度ではなかったというのに。
「くそっ!リアラ、次やつが腕を伸ばして来たら俺が斬る!まだ避けれそうか?」
「途中で腕を曲げてくるかもしれません!それに斬っても斬った部分はまだ生きてるんですよね!?」
「逃げちゃだめなの!?あんなの明らかに勝てないよ」
「リアラは避けてくれてるが。逃げれる攻撃の速さじゃねぇぞあれは!」
実際フレイさんは最初の攻撃を私が飛ばさなければ腕に飲み込まれていただろう。私も集中してるけどあの腕を伸ばしてくる攻撃が宙で急停止して曲がってくるのが非常に厄介で姿勢を崩せば当たってしまう。
後ろに少しずつ移動はして逃げれるか図るが、向こうもこちらに近づいてるのか距離も開かない。
「後ろって壁とかありませんよね!?」
「そのまま下がっていいぞ!壁に近づいたら俺から言う」
ただ防戦一方の私たちにスライムの攻撃は知恵を今得ているように攻撃の手法が変わっていく。
私が避けるとなだらかな鞭のようにしならせて範囲攻撃をしてきたり。次には先端が二つに分かれて攻撃してきたりと変わっていく攻撃に都度避けて見せるが。次何してくるか分からない攻撃が私に予想させないように迫る攻撃をすんでのところでなんとか避けている状態だ。
「私、私が槍で突っ込むのはどうかな!?」
「フレイはあれをかいくぐって狙えるのか?」
二人で相談して何か対策を考えてくれるが。いっそ二人に組合に応援を呼んでもらいにいくか?いや、組合はダンジョンに関して基本自己責任の方針だからその対応がすぐにされるとは思えない。
それならもうフレイさんが言ってたように特攻して倒すしかないか。
「リアラ、無理を承知で聞くが。槍を使えるか?」
「握ったことしかないので自信はないです!ただこのままだとあいつの攻撃に対応しきれません!」
「すまねえがフレイの槍を使ってあいつの魔石を狙えるか?魔石さえ外せば動きが鈍くなるはずだ、その隙に逃げろ!」
籠手をしていても仕方ないので少しでも槍を握りやすくするために籠手を外して後ろに投げる。
あとはタイミングを見計らって槍を貸してくれればなんとか掻い潜って攻撃するしかない。
「取れ!」
短槍を私の体に当たるように勢いよく渡してくれるのをそのまま掴み、攻撃を避けようと身構えると。今度は私を目掛けてない攻撃で一瞬後ろを狙ってるのかと思った通路上の真ん中を通ったそれは数十本に先端が分かれて鞭のようにしなって無差別に攻撃を仕掛けてきた。
「二人も気を付けてください!」
レッド君が槍を渡すために近づいてたはずだ。もしかしたら当たるかもしれないので注意喚起だけはしておいて彼を見る余裕もなく。避けようとするが肩や足に当たり、そこが火傷するような熱さを訴える。
攻撃が収まり、また本体に触手を戻すとき。それに合わせて私もスライムに向かって突撃をする。
「『加速しろ!』」
実際どう効果するかは分からない。それでも再度攻撃が迫れば私はもう避けることはできないことを覚悟してとにかく足が速くなるというイメージをして言葉にする。
近づき魔石の位置を確認しようとすると上半身に無い?と思い下を見ると足と呼べるか怪しい下半身のおそらく足の部分に魔石のようなものに短槍を当てようとする。
その際に短槍が表面に当たるとぐにっとした感覚で押し返されそうな表面で抵抗される。力負けをしてる?
「『貫け』えぇぇえ!」
言葉にすればなんとかズプっと中に入り込み魔石をスライムの体内から外へ弾くが、弾いた後に身体も前に進みやばいと思って足を止める。
どうやら弾いた後に短槍がどんどん溶けていったみたいで、体が勢いに押されて転びそうになったのをすんでの所で踏みとどまり目的は果たしたので後ろに飛んで逃げようとした瞬間、意識が白黒に明滅した。
「リアラ!リアラ!」
「リアラちゃん!お願いもう少し頑張って」
二人は無事だったのだろう。私を心配してくれる声が聞こえる。
少し意識を取り戻しましたと、そう声に出そうとするが上手く声に出来なくてただ体全身が燃えるように熱い。この熱さどうにかならないかなと思っているとそれを忘れるように、意識がまた沈んでいく――
知らない天井だ。それどころか意識を戻して目を開けたらベッドで眠ってる私で知らないベッドと言うか知らない部屋だ。
やわらかいベッドだったので寝心地が良くて、思わず二度寝しちゃおうかななんて思ったけど、あれから何かあったのか確認しなければ。レッド君達はどこだろう?
起き上がろうとすると体がどうにも怠い。そのときに腕を見ると包帯が巻かれてあるのでどこか怪我をしていただろうかと思い返すとスライムの鞭みたいなものを多少は受けていたかもしれないからそれの治療かなと。ただそうなるとレッド君たちに治療してもらったということで結構な費用がかかったんじゃないかなと心配になる。
これはダンジョン初日にしていきなり儲からなかったかなと幸先が良くないと考えているとドアから紳士さんが現れる。
「起きられたのですね」
「あ、おはようございます。ここは宿ですか?」
「はい、レッド様たちから事情を聞いてリアラ様が危篤であると聞きそれならこの宿を使って構わないと提案しました」
喋ると結構体力を使って、紳士さんの話をゆっくりと聞きながら二人に迷惑をかけてしまったなと思う。
「二人に、会いに行きたいです。あ、それよりも宿の料金支払わないとですね」
「いえ、元々遊ばせていた空室に入ってもらっていただけですので。お二人に会うのは良いと思いますが大丈夫ですか?一週間は眠っておられたのでどこかまだ辛いなどあるのではないですか?」
「一週間?あれから何が?」
そんな日数が経っていると思ってなくて、どういうことだろう?と思ってると紳士さんが何か説明を喋ろうとしていたけど途中でやめてしまって。再度口を開き始めたのは二人のことだ。
「毎日フレイ様がリアラ様を介抱しにきますので、今動かずとももう少しすれば会えると思います。彼らから話を聞いた方が、状況を聞いただけの私よりも本人からの方が詳しい詳細を知ってると思いますよ。何か食べれそうですか?」
「なるほど…お腹はすきました…リットーゲッカ頼めますか?美味しかったので」
「病み上がりに食べるものではないのですが、気に入ってもらえたなら良かったです」
することもなくなったので寝転び、目を瞑ってると怠さが少し和らぐようであの時のことを思い出す。
スライムの魔石を飛ばすことには成功したはずだ。その後逃げようとしたけど間に合わなかったという感じだろうか?もしくは魔石を飛ばしても動いたスライムに気づかないうちに体を飲み込まれていたとか
考えるよりフレイさんが来て説明を受けた方が速いんだろうけど、私はあのとき注意をしてたはずなんだけどと、どうにも腑に落ちない。
単純に実力不足で実力以上の正体不明のスライムを倒そうとしたことそのものが無茶であったのかもしれないのだけど手ごたえがあった分少し悔しい。
少しは役に立てると思ったら颯爽とリタイアはあれだし、もう少しパーティ組んで欲しいななんて我儘を思う。
紳士さんが持ってきてくれたリットーゲッカを食べて、食事代どうしようと思って、私の荷物はどこかなと周りを見渡せば宿に備え付けられてるテーブルにナップサックがあって荷物が無事だったことが嬉しく中を覗いてみれば、なんか見覚えの無いでかい魔石があった。
一旦魔石は置いといてお金を払おうと思っていたが紳士さんは余り物で作っただけだからと受け取ってもらえず、世話になりっぱなしで、これは将来この宿以外に泊まるのはとうとう逃げれないと思った。
フレイさんが来るまで魔石を手に取って見てみる。
拳大の大きさをする魔石。こんなのに見覚えがあるわけもなく、人型スライムはもう少し魔石は小さかった気がするんだけどどういうことなのか。
ただ、あの二人がわざわざ私の荷物に入れてくれたと考えると人型スライムの魔石を私が討伐したからといった流れではないのかな。そうだとしたら私が見ていた魔石は想像以上に大きかったのを小さく感じていた?
だめだわからん。
そのあとフレイさんが数時間くらいしたら来てくれた。
「リアラちゃん!もう起きて大丈夫なの!?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「心配したんだから!生きててよかったー!」
レッド君は来ていないんだなと思ってると私の視線が浮ついてることに気づいたのかフレイさんがレッド君について教えてくれる。
「私は特にそう思ってないけど、リーダーの責任みたいなもの感じてたっぽいよ?あとここに来てないのは普通にリアラちゃん着替えさせたりするから寝ているところにレッドいても役に立たないから宿に帰らせてる!」
リーダーとは思われて無い上に雑な扱い…まぁ兄妹だから別にいいのかもしれない。それに私もそんな寝顔を見られる趣味も持ってないし裸を見られる趣味もないからありがたい。
「リアラちゃんやばかったんだから!もうぐっちょぐちょだったよ。なんか垂れてたし!」
「ちょっとそのあたりの記憶がないんですけど。なんですかぐっちょぐちょって」
「なんかリアラちゃんが突っ込んだ時、後ろから見てたから自信はないんだけど多分魔石を飛ばしたんだよね?」
「手応えはありました。実際に魔石を弾いたのを目にしてすぐに後ろに戻ろうともしてました」
「多分自爆したんだろうね。リアラちゃんがいきなりこっちまで吹き飛んできてスライムも四方に飛び散っちゃってさ、どうしたものかなーって思ってたら今リアラちゃんが持ってる魔石が転がってるの確認して、最初は小さかったんだけど膨らんで大きくなったから相当な値段するんだろうなーってただ今回はリアラちゃん任せだったから荷物に入れておいたよ!」
自爆したあたりは分かったけど魔石が膨らんだあたりからよく分からない。
「迷惑もかけましたし、私一人じゃ倒せませんでしたから換金してみんなで分けませんか…?」
「レッドもそうしようとしたんだけどね、なんか苦しんでるリアラちゃん看病してるとき魔石を当ててたら気分よくしてたから治るまでは売らないでおこうってことにしといた!」
なんで魔石を私に当ててるの?と思うけど、フレイさんなりに私を一生懸命看病してくれたことが嬉しい。
「けど普通は魔石当てなくないですか?」
「なんかねー、リアラちゃんが魔石?魔力?がどうのーって呟いてたから最初はどうやって食べさせようか考えていたけど分からなかったから当てといたよ!」
食べたら魔人になるんじゃないだろうか?いや魔力の塊なのだから消化してマナポーションみたいな役割でもするかもしれない。今度ポーション屋のリンリーさんに魔石でポーション作れないか聞いてみるのもありかもしれない。
ただ今は体が怠いだけで、そのぐっちょぐちょの状態から回復できたのが魔石を当ててくれたおかげもあるかもしれないし感謝しておかなければ。
「迷惑かけてすいません、明日からはよかったらダンジョン潜りたいです」
「今日はレッドに言っておくからさ、明日は二人で来るよ。まだ起きてからそんなに経ってないんだしこの宿のウィルスさんもリアラちゃんが元気になるまで泊めてくれるって言ってたし、ちゃんと治そ?」
紳士さんウィルスって言うのか、しかしこの魔石がいくらになるのか分からないけど一週間も眠ってたと言ってたし、出来れば早く活動しないと残金も心もとないと思うが。
「大丈夫だよ!スライムは倒さずに2階層まで行って稼いでたしリアラちゃんが戻ってくるまでと、私の次の槍が用意できるまではさ、もうスライムに手を出さないでおこうって決まったから」
「あ、槍ごめんなさい。たしか溶けちゃってましたよね」
「いいよいいよー安物だしね。むしろ私の役割なのにリアラちゃんに任せちゃったし私の方がごめんだよー」
今日までの出来事を聞いてみると、2階層に行ってレッド君がコボルトを倒してその日暮らしをしてたのだとか。
今までは二人で戦ってたのもあって稼ぎは出てたらしいけどフレイさんの武器がなくなったことで戦力的にも厳しいし、スライムも倒せないしで。
それと宝箱が出現してないか探したりもしてたらしい、宝箱に関しては私が分かってないので何とも言えないけど、それが運良ければ低階層でもそこそこ稼ぎになるのだとか。
「今まで聞くの怖くて聞いてなかったんですが、私の腕とか顔ってどうなってるんですか?ぐっちょぐちょって単語がどうしても嫌な想像しかできないんですけど」
「なんかわかんないけどリアラちゃん治ってるよ?すごいねー、最初は溶けたら人間てこうなるんだなってもう駄目かと思ってたのに」
やはり聞くたびに私が酷く溶けていたっぽくて、それが治ってるというのは私もわからないけど。何故か治ってるならそれは良かった。これで焼け爛れて知り合いに会うたびに怖がられるような見た目になってるんじゃないかと内心ひやひやものだった。
「それじゃ私はそろそろ帰るよ、レッドにも言わなきゃいけないしさ」
「レッド君にも迷惑かけてすいませんと伝えておいてください」
「いやいや、あはは、リアラちゃんいなかったら私たち絶対死んでたしそんなに深く考えなくていいからねー」
そう言ってフレイさんは出ていき、私一人になると起きたばかりで手持ち無沙汰になったけど。まだ体が怠いし魔石を当てると私の気分が良くなったと言っていたのもあって手元で転がしてみるが、特に何も感じない。
明日には換金してなくなるだろうし今のうちに色々試しておきたいけど壊したら元も子もないのでナップサックに戻しておいて、大人しく眠ることにした。
「あ、一週間てミーミちゃんの約束超えてる…」
ま、まぁ生きてることがなによりだし、明日レッド君達と話したあとにでも謝りに行こうかな。




