二十七話 冒険者の定番?
組合自体は大きい建物で、むしろこれが組合じゃなかったらなんだろうというくらいには目立っていた。
他の建物と違って石作りも交じってるし、慈善団体を掲げてる貧乏イメージが強い組合にしては儲かってない?と露骨に思うしっかりとした建物。
冒険者っぽい人がそこに出入りしてることから間違いないと思って中に入ると、想像してたカビ臭さは無くて、それよりかはアルコール臭の方が強い、清潔感が保たれてる証拠なのだろう。都市とか規模が大きくなると組合は綺麗なのか、嬉しい誤算。
受付は多少混んでいて、人が少なそうなところを選んで並び、私の番になると知らない顔が来たから依頼を頼む側と思われたのか。
「本日はなにをご依頼されますか?」
「えと、冒険者になりに来ました」
「それでしたら、こちらの用紙に記入をおねがいします。代筆が必要でしたら銅貨10枚になります」
手早い。無駄がほとんどない動きで用紙を出されたので、以前に書いた時とは違いよく分からない文字も前回と同じような羅列だと思うので普通に名前と年齢を書く。西の廃墟で17歳と書いたら驚かれたし、今回は15歳と書いて提出すると多少驚いた様子を見られた。
「他で冒険者経験があるのですね。細かい説明は必要ですか?」
「いえ。あ、ダンジョンのことを聞きたいです」
「分かりました。ダンジョンは東門を抜けた先にある丘にあります。また依頼掲示板にあるダンジョン依頼は受けなくても事後報告の形で受けてもらって構いません。採取依頼等も掲示板を見てもらった方が早いと思います。またダンジョンでの冒険者同士の争いは原則禁止となってますが自己責任になりますのでよほどのことがない限りは組合では対処しません、仮に襲われたとなった場合は相手の特徴は聞きますが襲われたという報告をする側も襲う側も双方に悪い噂は立ちますので噂は立てないようにお願いします」
なんというか、きびきび言われて清々しいくらいの説明を要約すると、これって最後に噂を立てないようにお願いするってことは、襲うなら確実に仕留めろ。襲われたなら反撃で仕留めろってことだったりしないよね?
普通に良い感じに名声をあげていけってことだよね?なんか怖いくらいに最後の発言を強く言ってきたので身構えてしまう。
怖い話でいうところで、お化けとかそういうのより最終的に一番怖いのは人間だよねっていう展開になるんじゃないだろうか。
「不明点などありますか?」
「いえ、ないです…あ、ゴブリンの魔石を一個持ってて売りたいです」
「でしたら組合の隣の建物が解体場となってます、そこで討伐対象及び素材の換金も兼ねてますのでそちらへお願いします」
仕事のできる人ってこうなんだろうなって思うくらいにびしびし的確に言ってくれる。
解体場は後でも良いとして、掲示板の方を見てみよう。
『ダンジョン依頼 未踏破地帯の詳細な情報 内容で報酬変化』
『東門 ダンジョンを超えた先の魔物駆除 1匹に対し銅貨2枚』
『南門側の森林地帯魔物駆除 1匹に対し銅貨3枚』
『北門先 村の周辺護衛 村長から日数証明をもらい 1日ごとに銅貨2枚 食料は自給自足』
『ダンジョン依頼 食料になる魔物の素材 魔物により報酬変化』
変わったものと言えば東門と南門で報酬が違うことと。村の護衛?があること。そして魔物の素材価値があるっぽいことかな。
というかダンジョンの魔物って持ち帰れるんだ。『ダンジョンと言う名の魔物』が作り出した?生んだ?『魔物』なら倒したらしゅわわ~って感じで消えるのかもとか思ったけど、死体をそのまま放置すると徐々に消化するのだろうか?
むしろ魔物が魔物を生み出すと言うと、口の中にいるわけで生まれた魔物は唾液みたいなものだろうか?
ちょっと汚いな…。
そして最初の紙を見て思い出したけどダンジョンマップは確か組合が売買してるってディズさんから聞いた気がする。
もう一度受付の並びに混ざって、同じ受付嬢の人に向かう。
「なにかありましたか?」
「すいません、ダンジョンマップを販売してると聞いたことがあるんですがどこで買えますか?」
「こちらで販売してますよ、何フロアまでのマップを購入されますか?」
フロア別に販売してるのか、むしろ何フロアまであるのかも聞きたいけど、それを聞いたら売ってる側からしたら渋られるかな?
「何フロアまでのマップを売ってますか?あとマップの1フロアの値段を聞きたいです」
「フロア別に値段は変わりますが1階層は銅貨2枚。2階層は銅貨5枚。3階層は銅貨10枚。4から10階層までは銅貨20枚。以降は50枚で販売してます。現在判明してる階層は34階層までとなります。またこれは提案と言いますか…リアラさん一人で向かわれるより既に地図を所有してるパーティに入れてもらった方が良いと思いますよ、外とダンジョンは貴方が思ってるよりは複雑です」
元々私がどこかとパーティを組むと思って最初に説明しなかったのかな?それなら納得ではある。
私が地図を求めたことで一人で潜るつもりだったのが分かったのだろう。とはいえ誰かとパーティを組むつもりはなかった…なかったけど、私の今の装備だと誰かとパーティを組まないと魔物を1匹仕留めるのに時間がかかりすぎるし、少しは検討しないといけないかもしれない。
「ありがとうございます。ただ念のため2階層までの地図はください」
「こちらになります、水に濡れるといけないので気を付けてくださいね」
銅貨7枚を支払うと、カウンター下に用意されてるのかすぐに取り出されて渡される。サッと流し読みすると、見やすい地図が描かれてる。
マッピングした人は相当丁寧な人だったのだろう。もしくは2階層までは単純に人の出入りが多いから安全に探索できたのかもしれない。
用事は終わったので解体場に向かうのだけど。パーティの検討おすすめされたのもあって周りを見てどんな人がいるかなと思ってもここにいるのはほとんどおじさんばかりで、お姉さんぽい人もいるにはいるけどテーブル横に置いてある高そうな斧槍を見たり、私と同年代そうな人がいない。
私の実年齢はともかく、年齢が伴っても冒険者に身を置いてるということは稼ぎが十分で私が入ると報酬割合が減ってむしろ邪魔扱いされそうだし、できれば同じような境遇の人がいいのだけど。
それとも結構歳を取ってから冒険者になり始める人もいたりするのだろうか?それなら私も誘ったり誘われたりしたら嬉しいけど。いきなりダンジョンの中層に入られても、不安だし、やっぱり一人での探索になるのかな。
解体場も組合に負けないくらいに大きく中に入るとおじさんたちが解体していて色んな魔物や獣の亡骸を捌いている。近くにいたおじさんに声をかけてみる、
「ん?知らない顔だな。どした?」
「ゴブリンの魔石を売りに来たんですけど」
「あー、こりゃ銅貨1枚サイズだな。ちょっと待ってな」
そう言うと奥まで行って、銅貨1枚を持ってきてくれた。
なんというかわざわざ小銭のために作業の邪魔して申し訳ない気分になるが、銅貨1枚でも大事なお金なので感謝を告げて。忙しそうだし、魔物について色々聞きたかったけど大人しく解体場から出る。
今日の所は宿を決めて宿泊して終わりかなと思い、ゴブリン嫌いの宿屋を探してみると。宿屋と言うものは馬マークの看板を目印にした方が良いということが分かった。
おそらくだけど馬マークが描いてるところは馬車なども泊めれるところで、それなりに値段も高そうな見た目をしてる、ドアが白木で出来ていたり。
また馬マークにバツ印をつけているところは馬屋がないということだろう。そこも別に白木で出来てる清楚なところもあったりするのだけど、とにかく宿屋というのは看板を見れば分かりやすく配置されてある。
町の規模が都市と呼ばれるとこういう風に配慮されていくんだなと改めて都会に来たんだと実感させられる。
私が今までいたところって田舎だったんだなぁみたいな。ダンジョンがある都市だからこういう仕様なのかは分からないにしても、この宿屋と分かりやすいシステムはもっと他の町とかにも導入されてもいい気はする。
あとは外からでも値段が分かれば文句なしだけど、まぁそこまで言ったら情報過多すぎて困るか。
ドアのマークを見て探してみればゴブリン嫌いの宿屋を見つけて。たしかに耳長の人っぽいマークにバツ印をつけていて、他の宿屋は剣とか槍とかなのに、わざわざ細かい絵を描いて嫌いと示してるのは相当ゴブリン嫌いだろうし話題には出さないように気を付けよう。
「いらっしゃい、ごめんだけど今日は満室なんだよね」
「あ、わかりました失礼しました」
さて、どうしようか。さっそく出鼻を挫かれたので別の宿屋を探さないといけない。組合の受付嬢からやや不穏な発言も気になるし路上で過ごすのは極力控えたいんだけど最悪それも考えないといけないかなと思いつつ適当にぶらついて馬マークを探してると路地裏と呼ぶべきところにも馬マークが付いてる建物があることに気づいた。
大通りにばかり目を向けていたけどこういうところにも宿屋ってあるのかと思い。汚そうな場所はさすがに嫌だけど値段だけでも確認しようかなとドアを開けて聞いて行く大通りとの違いも気になるし冷やかしごめんの気分で。
「銅貨30枚食事は無しになります」「銅貨45枚になります食事つきは銅貨60枚です」「銅貨20枚になります食事は無しです」「銅貨80枚です、馬屋を使用になる場合は追加で銅貨10枚」
などなど、ちなみに20枚の所は路地裏の宿屋を一軒聞いてみた。大通りは基本的に銅貨30枚以上が相場なのかな?
そして路地裏をもう少し探してみると銅貨が食事なしで20枚、20枚、25枚などばかりで最低でも20枚は必要なのか。
一旦考えて、私は大通りにある銅貨80枚の宿屋に向かう。
「あ、先ほどの、本日はお泊りですか?」
値段も相まって綺麗な衣服を着てる紳士そうなおじさんでなんとなく話しやすそうだったのもあってこの店に来たのだけど、とりあえず交渉してみないといけない。
「すいません、馬屋を借りたいのですけど」
「馬ですねそれですと銅貨90枚になります。食事も合わせると銀貨1枚ですが?」
「いえ、馬屋だけ借りたいんです」
「申し訳ありませんが…馬屋だけ借りて別の宿に泊まるのはお断りしておりまして」
「いえ、私が馬屋で寝たいんです」
「え?」
「はい」
やはり稼ぎのない冒険者と言えば馬屋で寝るのもふぁんたじぃの一環だろうというのもあるが、案外馬屋で寝泊まりしてる人がいないのか意外そうな顔をされた。
「食事は…どうされますか…?」
「銅貨10枚ですよね?お願いします」
「畏まりました。では、銅貨20枚お支払いお願いします」
「はい。あ、あと井戸が使えるところって知ってますか?」
交渉も上手くいってほくほくだ。高い宿屋だし、馬が盗まれないように配慮くらいしてるだろうし安い宿屋よりも銅貨10枚も節約できた。
井戸の場所もさすが高級宿なだけあって近場にあるらしく、私は先に水浴びをするので食事は少し遅くなっても良いと伝えて、久しぶりの水浴びをする。
廃墟となった安宿の井戸は不人気だったのか人を見かけたことは無かったけど、ここは多少水を汲みに来る人がいるので少しは遠慮しつつ水を被る。
着替えもしたいけど、馬屋で着替えるとして。明日は武具屋を探して余裕がありそうなら多少は綺麗な服を買おうかなと思う。
あとはメンテナンス費用ってかかるのかな?
馬屋に戻るとトレイに器の上を綺麗な布で被せて用意されてあった食事を発見し、そこに敷かれてる藁が私の寝床かと分かったので早速ご飯をたべようと思い布をどけると、スープにパン、それと肉だ。
外で外食するよりも安いし、ここで普段は食事するのが良いかもしれない。
パンを食べてみるともそもそして固いがスープにつければ食べれないこともなく、スープ自体も美味しい。肉は何の肉かは分からないが質素な味わいをしつつもちゃんと調味料で味付けされてあるし、現代料理に拘らなければ十分美味しく食べれた。
さすがにトレイまで用意されて馬屋に運んでもらったわけだし、片付けと思ってトレイを受付の紳士さんに届けると笑顔で受け取ってもらえた。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「いえ。こちらで管理してるとはいえ馬屋は外ですのでお気をつけてくださいね」
馬屋に戻ると、泊まってる馬を見ると鎖と錠前で出れないようにされてあるし、警備に関してはこういう風にしてるのかと感心しつつ。私の馬屋は私が出入りするだけだが、一応藁の敷き詰められてるだけの空間に鎖と錠前で、使用中みたいな感じが出ている。
客扱いしてもらえてることもそうだけど、わざわざ高い宿を選んだ私を褒めたい。こんな立派な馬屋は早々ないのではないだろうか。他の場所の馬屋も体験してみたいけど、ちゃんと清掃してるか値段を考えると不安なんだよね。まぁここも臭いけど。
となりの馬の嘶きを聞きながら、どうせ眠れないから藁に倒れて休む。
馬屋で過ごすって冒険者の定番だよねと思いながらも、外はすっかり夜で月明かりが照らしてる。
ずっと走りっぱなしだったのもあるけど、全然眠ってこなかったのだからそろそろ眠れるかな思ったけど、やはりと言うべきか空白の時間は私に冷たい抱擁を思い出させ眠気は一向にこない。
それでも体は動きっぱなしだったのだから、少しでも休んで明日に備えようと思ってうろ覚えの前世で聞いた鼻声を歌いながら過ごす。
それもまぁ、暇になるわけだし。起き上がって腕立てしたり、腹筋したり早く朝にならないかなぁと適当に運動して過ごすことになった…。
待ち望んでいた朝日を迎えて。かつての朝組みたいにこの都市の組合も朝に貼り出される内容は早い者勝ちかなと思って。一応宿の受付を覗くと、昨日からずっとこの人も起きているんじゃと思ってカウンターの向こうに座ってる紳士さんに出かけることを伝える。
「本日もお泊りされますか?」
「そう、ですね。今日も泊まると思います」
「でしたら馬屋の方は空けておきますね」
「ありがとうございます」
装備を整えてたり色々してたら今日だけでこの広い都市を周れるとは思わなかったので、紳士さんの好意に甘えて、今のうちにお金も支払っておく。
それから組合に向かうと、ここでも朝組のような人達がいるかと思ったら、組合はもうすでに開いていて私は出遅れたかと思ったら、テーブルで突っ伏して眠ってる人もいるっぽく、掲示板を覗くと依頼は清掃などの依頼が貼り出されていた。
受付に向かい、組合の人、昨日の人はいなかったので違う人に聞いてみる。
「ここの組合は閉店とかないのですか?」
「はい!ダンジョン帰りの人もいますからね。どの時間に来ても基本は大丈夫ですよ。ただあそこで寝てる人達みたいにならないでくださいね…?食事を頼まれてるからって宿代わりにする人多いんですよー」
昨日の人とは打って変わって話しやすい空気の人だなと思いつつ、せっかくなので武器屋とか聞いてみると、西側に工房が多いらしくそこに向かうと良いらしい。
それと服屋についても防具屋の近くにあるか、南通りにアクセサリーや衣服も売ってるお店があると聞いて満足した。ちなみに南通りにあるお店の方が値段が高いと聞いたので行くことは無いだろう。
しかし組合やダンジョンが東にあるのに、武器とかは西にあるのは多少不便さを感じる。文句も言ってられないので大人しく向かうのだけど。
今の手持ちは銀貨51枚と銅貨66枚。籠手がディズさんが探してくれた約銀貨50枚相当の品らしいし、足の防具か刃物を買うかのどっちかだけどどちらが良いだろうか悩みつつ中央を超えて西通りに向かうと大通りはお店が並んでいた。
剣や斧のマークが武器屋かな?盾や服っぽいマークは防具とか衣服を示してるのだと思う。
宿屋と同じようにドアに何かその店独自のこだわりみたいなマークがあるが、何を示してるのか私にはわからないので、どんどん冷やかししていこうと思ったが。まだ開店してないっぽくて、昼ぐらいになったら人通りも増えつつようやく開店した。
まずは武器屋、というか剣を探そうと思ってお店を巡ってみると、大体が銀貨50枚相当。短剣でさえ銀貨15枚もする品物が多い。
解体用のナイフが安いところを探して、一応路地裏も見てみるがこの都市に住んでる人達なのか大通り以外は居住区になってるっぽくお店はあまり見当たらなかった。
その中解体用ナイフが安かった銀貨5枚で買い。メンテナンスについて聞くと解体用ナイフは自分で手入れしろとのこと。道具は店に来てくれたら貸し出してくれるみたいで砥石を見せられた。
「よし、剣は諦めて防具買うか」




