二十四話 目指す先
家に招き入れられた私は水を出されたのでそれをちびちび飲みつつ二人を見る。
「ダズ…今日の見張りは誰だったかな?」
「知らねぇっす」
「そういえば。わしあの子、今日も畑でスライムラディッシュやってる子、あの子といい感じになってるんじゃけど、ダズはどう思う?」
「勘違いじゃないっすかね」
鎧をつけてるわけでもないし、日常会話を聞いてるだけだと隊長っぽくないおじいちゃん。なんなら失礼だけどすこしボケてそうな。
というかダズさん忙しいって言ってたけどもしかしてこのおじいちゃんとの会話で忙しいって言ったのかな、たしかに面倒くさそうにあしらっているからある意味忙しいのかもしれないけど。
「あの…」
「ああ、そうそうたしかリアーナちゃんじゃったか」
「あ、リアラです」
おじいちゃんはにっこりと笑ってそうかそうかと呟きダズさんの方を見る。
「ほれ見たことか、畑なんか置いてわしの所に来てくれたぞダズ」
「それ別人っすね」
この二人相性悪いんじゃないだろうか、間違いなくゲイジーさんとかの方が愛想よく対応しそうなんだけどな。
「あのダズさん、この人が隊長さんですよね?」
「そうっすよ」
それ以上特に説明もなし。空気が固まったかと思ったらおじいちゃんがまたボケた発言をしはじめる。「やっぱりルルアちゃんわしのこと」「そんな名前の人いないっすね」などどうすればいいのだろうかと私は気まずい空気を水を飲んで誤魔化す。
口を挟もうにも、真面目に話してもなんだかボケてるなら仕方ないかぁって思っちゃうし、ダズさんに稽古をつけてくださいとかも言いづらい。
そもそも隊長さんにも稽古をつけてもらっていいって言われてたはずだけど、とても戦えそうには見えない。
むしろ話し相手になれって意味だったんじゃないかと疑う。
「そうそう、リアラに言おうと思ってたことがあるんすよ」
「はい?」
まさか話題を振ってきてくれると思わなかったので少し驚きながらダズさんの方を見ると自分の鎧を指さして。
「貸してた鎧とか返却してもらっていいっすか?」
「あ、はい、ありがとうございました」
なんだかんだずっと着続けていたから少し愛着が湧いていたが、元々私の物でないので返すのは良い。
ダズさんが鎧を外すのを手伝ってくれて兜も外すと隊長さんが目を見開いて私の方を見始めた。
「リアラちゃん、じゃったかの?」
「そうですけど…なんでしょう?」
「かわええのぅ」
思わずダズさんの方を見ると、鎧を片付けていた。片付けるとは言っても居間の隅に鎧を置いてるだけだが。
今までこんなのんびりした空気になったことがないので、すごく居心地が悪いというか、落ち着かないのだ。それだけじゃなくなんて話せばいいのか困る。
「隊長さん、隊長さんの名前はなんて言うのですか?」
「わしか?わしはオンボルドじゃよ。ダズ!わし名前聞かれてしもうた」
おじいちゃん…オンボルドさんは相も変わらずダズさんに話しかけて適当にあしらわれる。
この調子だと今日一日この流れが続くのかなと思っていたらダズさんが片付け終わって席に着くとオンボルドさんも佇まいを直して椅子に真っすぐと座ってこちらを見てきた。
「リアラちゃん、狂うておるらしいのぅ」
「え?私が狂ってるですか?」
「自覚無しかの?一睡もせず一日中稽古だなんだのと走り回っておると聞いたのじゃが」
自覚は、してるようなしてないようなものだけど。眠れないのはただ不眠症みたいなもので、トラウマがなくなれば眠れる気がしているのだけど。
それと、走り回ってることを知ってる。いや、さっきまでが演技だったのかというくらい真面目な話に変わったので私が追い付いてないだけでこれが本来のオンボルドさんなのかもしれない。
「眠ろうとはしたんですけど、あまり寝付けないといいますか」
「ダズが気に入るくらいじゃ、才能があるんじゃろうて」
「気に入ってないっす」
すかさずダズさんが突っ込むがそれは無視されて話が進む。
「まぁ、才能と言っても形はそれぞれじゃが、リアラちゃんの場合は特に変わっておるらしいしのぅ。うちのもんが世話になっても今以上の成長はできんとおもうぞ」
「私はそんなオンボルドさんが思ってるほどの存在ではないと思うんですが、まだまだ未熟ですし」
「いや限界じゃろう。一対一ならリアラちゃんの独壇場で終わるじゃろうし。それなら多人数での戦闘の経験を積ませてやりたいがこの町の警備をそれで怠るわけにもいかん。いやはっきり言った方が伝わるじゃろうからはっきり言うが、この町にいてもリアラちゃんはわしらにとっても邪魔じゃし、リアラちゃんにとっても居る意味はないんじゃよ」
邪魔と言われ胸に来るものがある、だが実際その通りで私は別に農業を手伝ってるわけではないしただの無職が居座っていたらそれは確かに邪魔だろう。
「はい、むしろここまでしてもらってとても助かりました」
「隊長に任せたの間違いだったかもっすね。リアラ、提案したの俺っす」
そう言ってダズさんが頭を撫でてきた。急にどうしたのかと思ったが、そして撫でるのが下手なのか痛い。
ダズさんが提案したということはむしろダズさんが邪魔と思っての報告だったのかと、ただ撫でられているわけで。
「ダズ、おぬしがここにいるのはリアラちゃんのためにならないとか言うからわしが言ったんじゃろが」
「俺よりはもう少し伝えるの上手いと思ったんすよ、年の功ってやつっすか?」
すると、オンボルドさんが立ち上がってこちらに近づいたと思ったらオンボルドさんも撫でてきた、なんだこの光景。
「そもそもこんな幼いと思ってなかったんじゃぞ」
「年齢は関係なくないっすか?」
「じゃあ年の功に頼らず自分で言えばよかろう」
「とにかくリアラ、ここにいてもどっちにとっても邪魔なんでそろそろ旅立ったらどうっすか?」
結局邪魔扱いなのではないだろうか?と思うがさっきの流れよりも今回はすんなり分かる、邪魔と言っても私の成長とかを気遣ってのことだったのかもしれない?
だとしてもわざわざオンボルドさんに代わりに言ってもらうというのはどうなのだろう。
「旅立つといっても、私も悩んではいたんですが…行き先をどうしようかなと」
「アーライナ行くんじゃないんすか?」
「あーらいな?」
すると二人とも首を傾げ始めたが。私は地名とかほとんど無知なのだ、というかそこがどこなのかも分からない。
「南…リアラちゃんなら東と南に行くと言えば分かるかのぅ?」
「多分田舎生まれっぽいんでグレイヘルも知らないと思うっすよ」
「じゃあリアラちゃんはここまでどうやって来たんじゃ?」
二人とも私の様子を見てあーでもないこーでもないと話し始めたので、どう口を挟もうかとタイミングを見計らっていたら外に連れ出されて。地面、土に地図を描き始めた!?
「これって地図ですよね?」
「そうじゃな、最初からこうすればよかったわい」
「地図って駄目なんじゃないんですか?」
「なにを言っとるんじゃ、こんな落書き誰も地図だなんて思わんから大丈夫じゃろ」
そんな感じでいいんだ、いや実際私が見覚えあるだけで知らない人から見たら案外落書きとしか思われないのかな。
ダズさんも特に何も言ってないし、というかダズさんは鎧勝手に貸してくれたりしてたしそういうのはわりと自由なのかもしれないけど、ジラフさんが厳しいというか本来の兵士っぽい立ち振る舞いしてたし。
地図は丸が書かれてるところが私たちが住んでる…私は住んでるというか走ってただけだが、食事をもらってるから一応住んでるになるのかな?という場所で。
そこからバツが付いてるのは多分西の街。あとはここから北の道は途中で描かれておらず。東の方に行くと大根の絵…これはスライムラディッシュかな?を描き始めた。それも何個も。
「これは何ですか?」
「ここは村じゃな、王都まで村がいくつか存在するんじゃが規模はまちまちかのぅ」
そのあともスライムラディッシュマークが続いたと思ったら耳長の人っぽい絵?エルフかな?
「ここは町くらいの規模じゃ、井戸があるから補給地点か行商から物資を調達するか――」
「リアラはお金無さそうなんで多分それ無理っすよ」
「それくらいダズ、おぬしが出してやらんか」
「使い道ないとはいえ隊長の方が持ってるっすよね?老い先短いんだからケチってんじゃないっすよ」
断ろうと思ったけど二人とも仲が良いのか一度話し出すと急に会話が早くなっていく。ゲイジーさんの方が相性良いと思ったけど、普段ダズさんいないのって隊長の素と話し合ってるからだったのかな。
分からないマークは後で聞こうと思って地図を再度見る。
そのあとは豚っぽい絵、家畜?なのか、また村マークが描かれたり。東に続くに連れて3人で地面を動くわけだけどそれがかなり長い。
ようやく終わったと思ったところに王冠マークがついて、ここが東にある大陸中央にある王国というやつなのかな?
終わりと思って口を出そうとしたところで今度は元の位置に戻って住んでる場所から南や東をカクカクし始めた道を描いて、王国よりは近めの南東に二重丸を描いて終わった。
「あの時はここでわしもモテておったのぅ」
「隊長そう言って手紙出した相手から返事来たことないじゃないっすか」
「手紙も無料じゃないからのぅ、それに道中で手紙が届かないこともあるもんじゃ」
「そうっすね、そもそも字が読めない相手に送ってる可能性もあったっすね」
描き終わったからか、オンボルドさんは腰を叩きながら姿勢を直して、その間も相変わらず軽口は止まらずに続いてるのだけど私はいつ話せば良いのだろう。
困ってダズさんの方を見ると意図を汲み取ってくれたのか頷いてくれた。
「隊長、説明っすよ」
「そうじゃったな、えーまずここがリアラちゃんのおった街じゃ、それであとはのぅ」
耳長の人マークはゴブリンの絵だったらしく、魔物が比較的危険な区域に町規模の人間が住んでるところらしい。
豚マークは魔獣が多い地域。王冠マークはグレイヘル王国という予想してた大陸中央に位置する王国らしい。
そしてここから南東にジグザグした道にある二重丸のところがアーライナという都市らしい。
名前のあるところだなんて珍しいと思う。
「ここに行けっていうことでしょうか?」
「ダズの話じゃとリアラちゃんは強くなりたいんじゃろ?それならここじゃろうな」
「強く…ってことは道場みたいな?兵士を鍛えるところがあるんですか?」
「リアラちゃんは冒険者なんじゃろ?兵士になるなら領主殿に直接雇ってもらうか王国じゃろうが。西の領主殿はなぁ…港まで行かんとな」
「あ、地図は大丈夫ですよ!多分ここから西に真っすぐですよね?」
どれほど港まで距離が開いてるかは気になるところではあるが、ひたすらスライムラディッシュとゴブリンやら豚マークを描いてもらうのも申し訳ない。
とりあえず冒険者が強くなれるところというのが分かれば私的には十分ありがたい情報だし。ちょっと道が複雑ではあるけどそもそも地図を描いてもらえるなんて思ってなかったからすごく嬉しい。
「ちなみにですけど、そこに行ったら何があるんでしょう?」
「ダンジョンっすね」
なるほど、たしかに冒険者が鍛えると言ったら実戦で、それでいて安定して戦えると言ったらダンジョンだ!って、そんなわけあるか。
「いや、いやいやいや私もっと安全に稽古とか考えてたんですけど」
「リアラ、兵役に就いた者は少なからず死ぬっす」
「そうじゃな、訓練みたいなものをイメージしとるんじゃろうが、そもそもまともな訓練を兵士はしておらん。組合が請け負えない規模の魔物討伐を初陣とするか、魔獣を王国近辺から減らすための討伐が初陣でそこから生きた者…腕自慢なら領主へ自ら挑んである程度実力を見せねばならんしな」
民兵などはいないのかと疑問に思ったら、オンボルドさんは戦争時の民兵上がりの兵士らしく戦争が初陣だと「懐かしいのぅ!」と陽気に話し始めてくれた。
基本的に兵隊は常に求めてはいるが。受け入れはするが初陣の実戦で生き残ってようやく雇われるというらしい。それ以外だと領主が私兵で雇っている者と戦って実力を示すか、よほど名の売れてる冒険者だったか等。
またそれぞれの地方を任されてる領主が持ってる兵は5000人規模くらいらしいそれを、町などの各所に配置させてるとのことで。ここにいる兵士たちは西の港町に住んでる領主の私兵扱いの兵士とのこと。
「それって周りの国がいきなり攻めてきたらやばいんじゃないんですか?」
「戦争にはルールが設けられておる。それを破れば周り全て敵じゃろうがグレイヘルは人間至上主義というのもあって人口が他の国より劣っておるが、領土は余っておるという変わった国でのぅ。まぁ冒険者は徴兵されんから安心していいと思うぞ」
国にそんな関わる予定がないから冒険者は徴兵対象外と聞いて安心したけど。冒険者って証明するのはどうするんだろう?いやそもそも冒険者って慈善団体だから徴兵されたくない人は冒険者って名乗ればいいのでは?と私が色々思案してることに気づいたのかダズさんが補足説明してくれる。
「冒険者はそもそも村にいないっす。徴兵されるのは主に村にいる農民からっすね。町には商人ギルドも顔を利かせてるんで表立って徴兵するとギルドから圧力を受けるっす」
「なるほど?でも隠居した冒険者とか故郷に帰るとかはないんですか?」
「村全員で冒険者と保証すれば人のいなくなった村に冒険者だけが残るっすね。一人でやっていけるならいいっすけどそうでもない限りは徴兵っす。だから冒険者はいないっすね」
つまり元冒険者という肩書は役に立たないと。仮に名が売れてる冒険者だとしても故郷に帰っても故郷に人がいなければそもそもそれは故郷とは言えないし徴兵されていくのだろう。
組合の説明でも他の町などで冒険者活動をする際には再度登録するかとか面倒なシステムだったしあくまで身分証明される冒険者は一つの町を拠点にしてる限り有効な手段ということか。
いや町は徴兵対象外ならそもそも町にいるだけで安心なのか。
「つまり強さを求めるならリアラちゃんは安全にできることは少ないんじゃよ」
「第一、俺は興味本位っすけど、暇つぶしで訓練させてもらえるだけでも珍しいっすね。見どころがある人間だけの特権と思ったらいいっすよ」
そして見どころがあったが、ここで私が留まってもこれ以上強くなるという目的は果たせないので冒険者になるならさっさとダンジョンに行くか組合のある町に行けという流れらしい。
「兵士になるならダズを連れて港まで行かせることもできるんじゃがなぁ」
「あ、俺は嫌っすね…」
ダンジョンの正体が魔物じゃなければ私的には全然良いと思えるんだけど、とはいえ王国に行くというのも組合のバイトはあくまで武器のため資金調達のためにやっていたことであの時よりも強さを渇望する私は必然的にダンジョンくらいか…野生の魔物狩りも経験すべきなんだろうが、その後結局どうするとなった時に都合がよいのはダンジョンのある場所だ。
「ようやく意味が分かってきました。アーライナに行くのがベストってことですね」
「まぁ道中も危険だと思うっすけどリアラの足なら大丈夫だと思うっす」
私も覚悟を決めて、行こうと決意するとオンボルドさんがお金を持たせてくれた。この場で見るのも失礼だけど中身が気になって見てみたら銀貨が10枚も入ってた!
使い道がないとは言ってたけど、それこそダズさんの言葉を少し借りるが引退もしそうな相手からもらうには大金な気がする。それほど儲かってるのかな…?
「そういえばここから南東って山が見えるんですが山の麓にあるんですか?」
「山越えっすよ?」
スゥー―…私山登ったことないんですが。




