さあ、行こう
小学生になった守君は、眠るのが大好きです。眠れば、そこは夢の世界。苦しいのも痛いのもありません。今日も守君は目を瞑り、夢の世界へと旅立ちました。
まずやってきたのは、見渡す限りの草原。守君はその広い草原を元気いっぱいに駆け出します。走るのは好きです。夢の中は思い切り走れます。
「待たれよ、そこな少年」
突然、渋い声の男の人に呼び止められました。
守君は声がした方へと向きます。
しかしそこには人ではなく、一匹の……でぶっちょのヒヨコさんが居ました!
「デブチ〇コボ?」
「おっと、私はそんな歴代シリーズに出てくるキャラではない。ところで少年、君は足が速いな。それを見込んで頼みがある」
なんだろう、と守君は頭を傾げます。
「この手紙を、海の中に住む牛さんに届けてほしいのだ」
守君は海の中に住む牛……と聞いてピーンときました。守君は物知りです。お父さんとお母さんから、たくさん本を買ってもらって、それをずっと読んでいたからです。
「ウミウシさんだね、わかった」
「違う! 海に住む牛だ! 断じてウミウシではない!」
「はいはい」
守君は手紙を受け取り、海の方へと駆け出します。
そして海に到着しました。守君は当たりを見回し、ウミウシさんを探します。しかしそれらしき姿はありません。仕方なく、とりあえず海の中へと潜ります。
「わぁ、すごい」
たくさんの魚達が、守君を歓迎してくれました。
その魚の一匹が、守君へと話しかけてきます。
「鮎は塩焼きで食べたいよな」
「うん?」
「いやさ、俺の奥さんが妙にグルメ好きで……キャンプに行っても塩焼きにせずに……なんか横文字のオシャレな料理にしちゃうのよ。いや、美味しいんだけどさ、塩焼きも食べたいっていう愚痴を君に零してしまった」
ならそう言え……と守君は口から出かかった言葉を飲み込みます。
「ふふ、言いたい事を飲み込んで、君は我慢する気か? もっと我儘を言ってやればいいのに。謙虚すぎるのは、時に残酷だと学ぶべきだ」
「何のこと?」
守君は首を傾げます。すると魚さんは、守君の持つ手紙を見ると、海に住む牛さんの所に案内してあげよう、と泳ぎだしました。
それに付いていく守君。すると目の前に、だいぶ予想とは違う光景が。
「アレが海に住む牛だ」
「牛……」
そこには、乳牛柄の服を来たイケメンのお兄さんが居ました!
「貴方が海に住む牛さん?」
「その通りだ、少年。俺は牛乳が好きで、一度に一リットル、一気飲みした後に気持ち悪くて吐いてしまった。きっとそれで牛さんが怒ったんだろう。私にこんな服をプレゼントしてきたのだ」
で、何故海に住んでいるのか。その理由は分かりません。
「これ、でぶっちょのひよこさんから手紙です」
「うむ、ありがとう、可愛い郵便配達さん。では次はこの手紙を届けてもらおうか」
またか……という言葉を飲み込む守君。
「これを、火山に住むアザラシ君に届けてほしいのだ」
「なんで火山に住んでるの?」
「話せば長くなる。聞きたいか?」
フルフルと頭を横に振る守君。しかし海に住む牛……もとい、乳牛の服を来たイケメンは容赦なく守君へと話し出しました。とっても長いお話です。守君は途中で寝てしまいました。
「おっと、夢の中で寝てしまうとは。どれ、私が火山まで運んでやろう」
守君は気が付くと、火山にいました。そこはマグマが溢れ、とっても熱そうです。するとマグマの中から、大きなゴリラさんが飛び出してきます。
「とう! むむ、珍しいな。こんな所で人間の子供に出会うとは」
「ゴリラさん、実は……ここに住むアザラシさんに手紙を届けに来ました」
「ほほう、姫にか? よかろう、案内してしんぜよう」
なんと、火山に住むアザラシさんはお姫様のようです。
そこで守君は思います。海に住む牛がお兄さんだったから、きっと火山にすむアザラシはお姉さんではないかと。
しかし、守君の期待は見事に裏切られました。
「ようこそ、少年」
「……ちっちゃい……」
そこに居たのは守君よりも小さな……とっても小さなハムスター。
「君がアザラシさん? ハムスターじゃなくて?」
「うむぅ。昔、アザラシが出てくる漫画にハマってしまって……。少年向けかと思いきや、実は大人向けだったみたいな……」
良くわからない、と守君は首を傾げます。
「そう、この世界には君の知らない事はたくさんある。君のご両親は、もっと世界を知ってほしいと思ったんだろう。そして君が希望を抱いてくれる事を祈っていた」
「……? 何の話?」
「ふふ、さあさあ、次はお待ちかね、空に住む天使さんにこの手紙を届けて欲しい」
守君は、慣れてきた……と手紙を受け取ります。
「少年、君の未来に幸多からん事を」
「ど、どうも……」
守君は火山から空へと泳ぐように進み始めました。
空へ、高く高く……守君は上がっていきます。するとそこには……
「よく来たな、少年!」
車掌さんのような制服を着たお姉さんが居ました。とても元気よく敬礼してきます。守君も釣られて敬礼してしまいました。
「では乗りたまえ。じき出発だ」
「……? どこに行くんですか?」
「それは着いてからのお楽しみさ!」
ふたたび元気よく敬礼する車掌さん。守君から手紙を受け取ると、中から切符を取り出しました。
「これはとても大事な切符だからね。ご両親に感謝するんだぞ」
「ぁ、はい」
「では出発だ! ドキドキワクワクの列車の旅の始まりだ!」
こうして守君は、長い長い旅へと。
お父さん、お母さん、行ってきます、と守君は最後に小さく口に出して列車へと乗り込みました。
もう、苦しいのも痛いのもありません。
ここからは、ドキドキワクワクだけの、守君の冒険が始まるのです。
「さあ、行こう」
おしまい
彼の楽しい旅路を祈ります。
よく頑張ったね。また会おう。