表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホラァ

かえろう

作者: 雪麻呂






 よぉ、久し振りじゃん。

 こんなとこで会うのも何かの縁ってな。一緒に帰ろうぜ。

 暑くなったよなぁ。もう梅雨って明けたんだっけ? え、まだ?

 まぁいーや。今度飲み行くべ。駅前のビアガーデン。今年はやるってよ。

 ……そういやさ。

 変なこと思い出したわ。

 こないだ、会社の帰りにさ。同僚に声かけられたのよ。

 一緒に帰らないかって。

 別に断る理由もないし、承諾したんだよな。

 で、適当に喋りながら歩いて、コンビニの前まで来たときさ。

 ちょうど女が出てきたんだ。

 そいつも言うんだよ。

 一緒に帰りませんか?

 知らない奴だった。

 けど、同僚はニコニコしてるし。

 彼の知り合いかなぁと思って、俺も頷いた。

 ま、俺としても女の子が増えるなら大歓迎よ。

 連絡先とか交換できねーかなーなんて思いながら、歩いててさ。

 交差点で信号待ちしてるときだよ。

 後ろに立ってた奴に肩叩かれてさ。

 振り返ったら、妙に懐かしい顔が笑ってんの。

 一緒に帰ろうぜ。

 あぁ奇遇じゃん。こんなところで会うもんなんだって。

 そいつ入れて、青信号は四人で渡った。

 そっからは割とスムーズだったわ。

 路地裏から、公衆便所から、マンホールから、自販機の取り出し口から。

 湧いて出ちゃあ、決まって言うんだ。

 一緒に帰ろう。一緒に帰ろう。一緒にかえろう。

 駅に着く頃には、俺を入れて七人の大所帯になってた。

 運が良いよな。こんな簡単にそろうんだから。

 さぁ、かえろう。

 誰が言ったか、もう憶えてないけど。

 まず俺の右足を捥ぎ取ったのは、同僚だったよ。

 太腿を掴まれて、力尽くで捻じ切る感じさ。

 ヒョロガリ眼鏡なあいつの、どこにあんな力があったんだろうな。

 ぶち、ぶち。皮膚が破れて、肉が裂けて、骨が折れて。

 そりゃもちろん、痛いのなんのって。

 全力で抵抗したけど、凄い力なんだよ。敵いやしない。

 ぶっ倒れて、ゲロ吐きながら喚いて、のたうち回って。

 助け呼ぶとかマジ無理。パニクってぜんっぜん脳ミソ動かねーの。

 そこを女がさ。左足を同じようにして、ごきっ。

 交差点の奴が右腕を。めり。

 次の奴が左腕を。ぎち。

 どんどんさぁ、奪っていくんだよ。

 俺の手、足。俺の身体。

 やっとかえれる。これでかえれる。

 俺の絶叫の合間に、奴らの嬉しそうな声が聞こえた。

 帰れる……代えれる……替えれる?

 わかんねー。今更どうでもいいわな。

 残った二人が、俺の胴体を引っ張り合い始めた。

 ぷちぷち、めり、みし。みしみしぴり、べりっ。

 千切れたわ俺。見事に真っ二つ。

 そいつら? 上半身と下半身持って、どっか行っちまったよ。

 気付いたら、みんな消えてた。

 誰もいなかった。

 駅の構内に、俺ひとり。

 それで、こう、首だけが残ったって、わけ。






 語り終えた友人の首が、ごろり。アスファルトに転がった。

 反射的に飛び退り、おい、と声を掛けた。

 彼は応えない。応えられるはずがない。生首なんだ。白く濁った眼は左右別々の方向を向いて、もう何処も見ていない。

 ぽかんと開いた口そのから、冗談のような血が溢れ出て、俺の靴を赤く汚す。

 そんな馬鹿な。

 だって、此処まで一緒に歩いてきたんだ。ずっと喋っていたのに。

 一緒に?

 歩いて? 本当に?

 身体はあったか? いつまで? いや、いつから?

 いつから首だけだったんだ?

 頭の奥が、じんわりと冷たい。嫌な汗が背中を伝う。おかしい。おかしい。こんなのはおかしい。呪文めいて繰り返す唇が、震える。景色がぐるぐる回り始めた。

 ふと気付くと、辺りに誰もいなかった。

 先程まで行き交っていた人々、雑踏、アナウンス。すべてが消えていた。

 駅の構内に、俺ひとり。

 ――後ろから、声が聞こえた。


“一緒に、かえらないか?”









かえろう/了







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい疾走感とキレ味! 文字数の少なさを逆に武器にして、勢いのあるホラーに仕上がっています。主客が逆転する構成も鮮やかでした。 [一言] かるーい口調の一人称記述でしたが、同行者がワラ…
[良い点] 漫画にした方が映えるようなシュールなお話ですよね。怪談なのに夢のような世界を構築していて、怖いというより奇麗と思ってしまいました。
[良い点] かえろう、帰ろう、返ろう、還ろう、変えろう、替えろう、代えろう… [気になる点] ヒチニンミサキみたいですね、ちょうど7人?だし。 あっちの理不尽さはどうしようもないけど、こっちは「用事あ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ