門を潜りし者
親方!ネタが降ってきた!
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません
※R-15指定とか要らんかな?
タグ付け悩むというかホラーじゃないよね・・・
- 起の章 -
西暦20××年7月。
世界中の有名美術館は、環境保護団体「G解放同盟」を名乗る集団による放火、爆破、破壊、略奪、脅迫という様々なテロ活動の被害に見舞われた。
環境保護団体「G解放同盟」は、有名美術館が美術作品の品質保持のために金と化石燃料を使っているのがお気に召さないらしい。
もっとも、もう何年も前から、環境保護団体が行為正当化の過激な活動をしているのか、国際テロ組織が過激な環境保護活動を騙って意識高い系のお金持ちから活動資金を巻き上げているのかは外から見ただけでは解らなくなっているのが現状だ。
そして環境保護団体「G解放同盟」は、標的を自然保護活動に熱心ではない(実際には第二次大戦での石油輸入制限や中東戦争によるオイルショックを教訓にした省エネ対策で排出される二酸化炭素を絞りきった上でほぼほぼ達成が不可能な目標を押し付けられた)事で毎年のように化石賞を贈られるようになった日本に向けられる事になった。
日本の害もとい外務省のサイトが乗っ取られ、トップ画像が犯行予告文に書き換えられたことは人々の記憶に新しい・・・
- 承の章 -
今から半年前。どういう経緯を経て実現したのかは解らないが、ダビンチの名画「モナ・リザの微笑」の再来日が決まった。
昨今の美術品に対するテロで、美術館側も対策に多額の費用が必要となり、金策として有名美術品を海外の美術館にレンタルするという事が、デジタル映像で鮮明に見られるという時代になってもそれなりに需要があった。今回のモナ・リザの来日もその事例だと予測されている。
もっとも、酷い噂の中にはルーブル美術館がモナリザの精密な贋作を日本の美術館に貸し出し、期間中に事故が発生。保険金を受け取るために日本の美術館と茶番劇を起こすというものがあったりする。
昨今の複製技術とテロに対する警戒態勢があれば、途中で贋作にすり替えてその贋作が毀損させられても、保険会社の雇う鑑定士程度なら騙せるだろうという理屈らしい。
「お名前は?」
「カ-イジン・ノ・シヨッカ-」
「入国の目的は?」
「観光・・・」
「期間は?」
「1ヶ月・・・」
提出された旅券とパスポートをセンサーに通しながら行われる女性入国管理官の質問に、人工的に整った風貌の男は抑揚なく答える。
どんなにデジタル化が進んでも、アナログな検査というものがなくならないのには理由がある。
とくに入国審査など、審査対象の人間が纏う僅かな違和感を感じ取るという技術は、機械にはまだまだ難しいというのと、人と機械どちらが優れているということではなく、通すフィルターは多いに越したことはないという理屈からだ。
「日本へようこそ」
入国管理官はニッコリと笑ってパスポートを男に返却し、男は無愛想なままパスポートを受け取り足早にその場を立ち去る。
「なるほど・・・ね」
入国管理官は手元のパネルにある不審者疑惑のアイコンにさり気なくタッチして、次の入国者を迎え入れる。あとはあの男が日本から出国する直前まで、色々な場所にある監視カメラのAIが行動を密かにチェックしてくれるだろう。
- 転の章 -
[モナ・リザの微笑み展1月28日から2月14日まで]掲げられたポスターを後目に、入管でカ-イジン・ノ・シヨッカ-と名乗った男は東京国立西洋美術館に近づく。
「この門をグーグル者は一切の希望を棄てよ」
美術館の前庭にある地獄の門の前を通ったとき、カ-イジンの耳に機械音声による母国語が聞こえてきた。
「は?」
カ-イジンは思わず門を見上げる。
「この門をグーグル者は一切の希望を棄てよ」
再び声が聞こえてくる。声は門にある所謂「考える人」が発しているようだ。
「はあ?日本人が俺を!」
カ-イジンは声に嘲りのようなものを感じ一瞬顔を歪めると地面に唾を吐き靴底で執拗に踏みにじって門を蹴飛ばす。
カ-イジンは、日本が大嫌いで日本人を魂の底から侮蔑していた。今回の仕事も日本を貶められるからと即座に引き受けたぐらいだ。
ぶん
カ-イジンが門を蹴飛ばした瞬間、カ-イジンの体を何かが通り過ぎた。
「クソが!」
そう吐き捨てて、足早に美術館に入って行った。
- 結 -
「ん?」
美術館に入ったカ-イジンは、閑散とした様子に首を傾げる。今日は平日の午前中だとはいえ、この手のイベントが大好きな日本人が居ないというのは、これから行うテロ行為には都合がいいがテロのアピールには都合が悪い。
だが、仕事が楽になるなら良いかと、モナ・リザの展示開場へと向かう。
「はっ!このご時世に観客との間を隔てる壁にガラスすらないのか、度し難いな日本人!」
カ-イジンは、懐から塗料と自身の糞尿を濃厚に煮詰めて作り上げた汚物を詰め込んだガラス瓶を取り出すと、モナ・リザに向かって投げつける。
ガシャン!
ガラス瓶が粉々に割れ、耐え難い悪臭と汚物をぶちまけながらモナ・リザを汚していく。それと同時にカ-イジンの前に巨大な影が立ちふさがる。
ギロリ
尖った耳に皺くちゃの顔。側頭部から生えた捻れた二本の角に立派に蓄えられた顎髭。全裸の大男が牡牛の尻尾を揺らしながらカ-イジンを睥睨する。
「かっかっか。実に旨い憎悪よの!」
化け物は、大きな口を開けて笑いながら絵に掛かった汚物に手を翳す。
「な!」
化け物が手を動かすごとにモナ・リザから汚物が削がれていくのを見てカ-イジンは目を剥く。
「小父さま。妾は怒っています」
絵の中のモナ・リザが、額縁に手をかけてのそりと出てくる。
絵のモナ・リザとは違い黒ギャルっぽい少女の姿をしている。
「な、なんだお前たちは!」
カ-イジンは腰を抜かしへたり込む。
「儂か?ベルフェゴールという。ルーブル美術館を夜中に徘徊する怪物とも呼ばれておるがな」
ベルフェゴールと名乗る大男は、顎髭を扱きながら嗤う。
「今は、モナ・リザって呼ばれているわ・・・知ってるわよね?」
モナ・リザは漆黒の髪を指で掻きあげながらながら妖艶に嗤う。
「しかしなんだ。お前には感謝しておるぞ?お前と背後の者たちの憎悪と日本のツクモの理のお陰で儂らは受肉できた。これで夢のジャポンで薄い本が手に入る」
ゲハゲハとベルフェゴールは嗤う。流石、中世ヨーロッパにおいて婦女子に性的な妄想を吹き込んでは堕落させていたお方だ。そういうものには興味があるらしい。
「小父さま!妾はBLなる本に興味があります」
ベルフェゴールの眷属たるモナ・リザは腐っていた。
「だからな、お前に褒美をやろう」
褒美と聞いてカ-イジンが卑下た笑いを浮かべる。
「我らが飽くまで、地獄で彷徨うがいい。地獄の門を潜りし者よ」
ドーン!
ベルフェゴールの指先から、白と黒の強烈な光が辺りを包む。
「あ~」
カ-イジンは口を半開きにして足を引きずるように荒野を歩きはじめるが、途端に巨大な黒犬が現れ噛みつかれる。
「ぎゃー痛い痛い」
カ-イジンの悲鳴とがりがりゴリゴリと骨が咀嚼される音が響き、黒犬に租借される。
げふっ
黒犬が大きなげっぷを吐くと、たちまちのうちにカ-イジンの体が復元される。あとは襲われ、喰われ、復活させるその光景が繰り返される。
それはベルフェゴールとモナ・リザが飽くまで永遠に続くのだろう。
- オチ ―
モナ・リザの微笑み展が無事終了して半年。有明の国際展示場の同人イベントで開場とともに大量の薄い本を買い漁る悪魔のコスプレをしたゴチマッチョの大男と腐った本を買い漁るモナ・リザのコスプレをした黒ギャルのコンビという光景がSNSを賑やかすことになるのだが、これはまた別の話である。
汝、カ-イジン・ノ・シヨッカ-の国籍を推理することなかれ・・・約束だ
あと別の話とか書かないんだからね!(多分)