第1章 ニコニコ自警団創立
【プロローグ】
荒い息を出しながら、私は冷たい土を蹴りあげて走る…
気持ち悪いくらいに酷い嵐、冷たい雨に、冷たい風。
「はぁ…はぁ…待っててね…可愛いわが子…」
重い赤ん坊を抱きしめているけれども、可愛い子だもの。絶対に離したりしないわ。
《…そろそろそいつの命を私に授けよ。約束の時間は過ぎている。》
地響きのような低い声が聞こえる。
……まさか、そんなはずは無い。
「嫌…まだ生まれて間もないのよ!」
私は我が子を抱きしめて抗う。
《何…この我に向かって歯向かう…のか…》
相手は神様だもの…逆らったら一溜りもない。
…でも、神様に逆らったとしても私はこの子を捨てたくない。
「…この子はまだ……」
《…》
「…代わりに…私の命を差し上げるわ…」
怖い。
自分が死ぬのが怖い。
《ほぅ…面白い…》
ククク……低い笑声が聞こえた気がした…
と同時に、私の全身に激痛が走った。
いたい。あつい。あつい。いたい。いたい。いたい。
あの子を落としてしまった。
劈くような泣き声を上げている。
あぁ…ごめんなさい。
あなたを最後まで育てて上げられなくて……
「うああああああああああああああ……」
「うぁあ…ひっ…ひぃ…ぅく……」
「おいおい、大丈夫かフローラ…今度はどこやったんだ?」
「…ひざ…」
「また膝かよ!どこで転んだんだ…」
「さっき、ここの石畳で躓いちゃって…」
「ここの石畳…?…何も躓くところないぞ…」
「う、うぅ…」
「…仕方ないなぁ…ほら、おんぶしてやるから!」
「ほんと…?…お兄ちゃん、ありがとう…。」
「どうってことねぇよ!」
小さな青年は妹をおんぶして、赤い赤い夕日の中の王都を歩いていった。