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安らかに眠る

 そしてバイト休みの日。私は信頼できる人に相談に向かった。私を信用してない町田くんはついてくるって言い張ったけど、連れてきたら海よりも深く同情されそうだから丁重にお断りした。だって行き先はお墓なんだもの。


 お墓の場所は聞いていた通りだった。山の斜面を切り開いたような見晴らしのいいところで、墓地のどこからでも町が見下ろせた。空は青空。逆トリップして帰ってきた頃よりも、高くなった気がする。この場所が都会より空気が澄んでるからかもしれないし、季節が進んだからかもしれない。

「うーん、いいお天気!」

 静かで、空気が良くて、緑も豊かで、ちょっとだけ、サツキの集落に似てる。見渡す限り、お墓だけど。それは場所柄仕方ない。この中から、今日のデートのお相手を見つけなくちゃいけないのは、ちょっと大変だけど、雄太郎の家を探した時よりは範囲も狭いし、名前覗き込んで回っても通報されないし、きっと見つかるはず。

「杉下、杉下……。あいうえお順なら楽勝なのになあ。あれ、ここは小林さんが並んでる。ご親戚かな」

 はっ。同じ苗字のお墓って一つの墓地にたくさんあるかもしれないのか。ふぬぬ。難易度アップ。お名前全部しっかりチェックしなくちゃ。お昼までに終わるかなあ。時間は一日あるんだけど、お弁当作って来ちゃったんだよ。知らない人のお墓の前で食べるのって微妙じゃない。中の人に申し訳ない感じしちゃう。

「杉下、杉下……。あ、左京さんがっ、惜しい! 左京さんじゃないんだよ~。探してるのは龍臣さんなんだよ~。まあ、お名前彫ってあるか分かんないけど」


 たっちゃんの実家を訪ねるのは、本人以外の誰が日本に戻っても無理なのは分かってた。なぜなら我らがたっちゃんは不老不死だから。一見、私たちと同世代風だったけど中身は私と出会った時点で60代だったらしい。外見が不老不死になったタイミング、つまり、異世界トリップ時点で固定されたとすると異世界に渡ったのは20代半ばで、それから40年近くあちらで生きていたわけだね。私がおぎゃあと生まれた時には既に異世界にいたんだって! わお! 先輩、すごい! じゃなかった、日本で行方知れずになってからも40年くらい経ってるってところが重要で、彼は病気で長く生きないと思われていたことと組み合わせると、現在の日本でたっちゃんの生存を信じている知り合いはいないっていう結論になる。そしてピチピチの21歳である田畑姫が日本でたっちゃんと知り合うチャンスはない。それは多少年上の雄太郎にしても、彰くんにしても無理があった。だから、たっちゃんの家族への伝言はない。時間を捻じ曲げて地球に戻ることができれば、たっちゃんの時代に行くことも可能だろうけど、異世界トリップと時空トラベルが同時に起きる可能性は低いだろうってのが、異世界原住民同士の検討の結果だったし。

 なんだかんだで、もし日本に帰れたらトークの中では「たっちゃんのお墓参りをする」というのが伝言の代わりになってた。だから私は杉下龍臣さんのお墓の場所に詳しい。しかも、たっちゃんも家族が自分を死亡したものとして処理してお墓に名前を刻んでもらえるか確認したわけじゃないから、確実に彫ってあるだろうご家族の名前も教えてもらってある。そこは抜かりないわ。だって計画したのは私じゃなくてたっちゃんだもの。


「あった! 杉下、龍臣……。良かったあ、お昼前に見つかったあ」

 教えてもらってあったたっちゃんのお父さん、お母さんの名前もあった。

「たっちゃん、おひさしぶり。はじめまして。お義父さん、お義母さん。ふつつかな嫁ですが、よろしくお願いします」

 よし、ご挨拶できたし。早速お昼にしよう。もうお腹がペコペコよ。お弁当は肉巻きおにぎり、卵焼き、ミニトマト、きんぴら、豆鰺の唐揚げ、いんげんのマリネ。たっちゃんの好物いっぱい作ってきた。ここにはいないって分かってるけど、やっぱりね。こういうのは気持ちの問題だよね。

「いただきまーす」

 うん、美味しい。青空の下で美味しいものをたくさん食べられるって幸せ。もりもり食べちゃう。美の追求のためであっても、食事制限はしない私だもの。はあ~重かったお弁当。担いできた甲斐あるわ。

 少しお腹が落ち着いたら、日本に戻ってからの私の活躍を報告しよう。実家に帰って名前の話ができたよ。雄太郎と彰くんの伝言も届けたし、清人のご家族にもね、清人が幸せになってるってちょっと、すごく、遠まわしにだけど伝えてみたよ。すごいでしょ。たった3ヶ月くらいで頑張ったでしょ。やればできる子なんだって、いつも言ってたの、ここで証明したよ。誰も見ててくれないのが、すんごく不満だけど。

 そう。私、やればできる子なの。だから、ちゃんとしようと思うんだ。一人でも。


「ねえ、たっちゃん。私さあ、こっちでもちゃんと就職してみようと思うんだよね。そりゃ、みんなのところに帰りたいのは山々だけど、いつ帰れるかも分かんないしさ。それで、いいと思う? いいよね? 怒んないよね?」


 このお墓の中にたっちゃんいないのは知ってるけど、ここが一番たっちゃんに繋がる気がする。人気がないのをいいことに墓石に向かって人生相談。町田くん、無理やりついて来なくて良かった。尾行されるんじゃないかと家を出てから、すんごい警戒しながら歩いてきたもんね。間違いなく私が不審だった。


「本当はさ、ちょっと怖いんだよ。こっちでの生活が順調に行けば行くほど、次のトリップのチャンスがなくなるような気がして。でも、あるかどうか分かんないチャンスにかけて人生を棒に振るわけにもいかないじゃん? 野垂れ死んで十年後にあるかもしれないトリップチャンス逃すのいやじゃん? だからさあ、いいよね? いいって言ってよ」


 返事はない。知ってた。知ってたけど、寂しい。脳内たっちゃんを呼び出すけど、良いも悪いも言ってくれない。このパターンのデータがないからかな。彼と離れていく人生の決断なんて、データゼロだ。離れるなんて一度も望んだことはない。今だって、帰れるものなら帰りたいってずっと思ってる。結婚するからには添い遂げるって決めたんだから。なによりも絶対に一人にしないって。だのに。なのに。今、私は地球の日本に一人でいて、たっちゃんはきっとあちらで消えた私に驚いてる。怒ったかな。悲しんだかな。もし泣かせてしまってたら嫌だな。


「たっちゃん、ごめんね……」


 きっと泣いたと思うんだ。だから、ごめん。

 うし。今、謝ったよ。私、ちゃんと心の底から反省して謝った。

 そっちに帰ることがあっても怒らないでね。本当にわざとじゃないんだから、逆トリップ。今だって添い遂げたいと思ってるから。嘘じゃないからね。体が若返って最高ヒャッフーとか思ってないよ。21歳って背中に羽が生えてるみたいに体が軽いし、ちょっと寝ただけで嘘みたいに元気になるなってびっくりしただけだよ。どこまでできるか徹夜で海外ドラマ見たのはちょっとした好奇心だよ。C-HEM推しを裏付けするために見始めた韓流ドラマにどハマりしてドロドロ怨恨劇を楽しんでた訳じゃないよ。たっちゃんってこんなに快適な身体で長生きしてるんだと思って嫉妬にかられたりもしてないよ。羨ましいなんて思ってないって。本当だよ。

 ああ、私はどうしてたっちゃんを前にすると言い訳がましくなるんだろう。前向きな人生相談のつもりできたのに、これじゃ謝罪大会だ。


「嫌いにならないでね。ただ、あなたを残して死にたくないって思っちゃったんだよ。私が看取ってあげたいってさ。」


 叶わない望みを持っちゃったから、そっちの世界からも弾かれちゃったんだよね。寿命が尽きたら死んじゃうような凡人で、ごめんね。




 結局、夕暮れまで墓地でたっちゃんとお話して帰った。ずっと外にいたせいかとても疲れていてお布団に入るともう眠くてしょうがなかった。町田くんから変な人についてってないかの問い合わせが来てたのにだけ、辛うじて返信する。返事しなかったら鬼電してきそう。それは困る。寝かせてほしい。

「ずっと胸につかえていたことを話せて許されたような気分になりました。これから安らかに眠れそうです、と」

 これでよし。寝てると思えば連絡遠慮してくれるでしょ。スマホを握りしめたままぱったりうつ伏せて、そのまま眠りに落ちる。

 体が若いと眠りも深い。すやすや、ぐっすり、よく眠った。

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