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【異世界小話】巣立ち

 異世界にて。

 四人目の子どもが入ったお腹がちょっと目立ち始めた頃。私の可愛い可愛い弟からお知らせがあった。


「僕、結婚するね」


 驚かなかった。だって恋人がいるの知ってたし。真剣交際なのも知ってたし。お相手の子のことも良く知ってるし。魔王城のおかげでサツキの集落の人口は年々増えていて、いろんな商売の人が元の集落の外側にも町を広げて住むようになった。その子はその新しい地区に引っ越してきた子で、原住民側じゃない異世界トリッパーだ。つまり苦労してこの世界に根付いて、自分の力でお店を開いて切り盛りしてるしっかり者ってこと。文句はない。何より清人が選んだんだから、文句なんかあるわけない。

 でも、いよいよとなって寂しくて、とりあえず泣いた。


「おべでどう、きよと~」

「うわあ、そんな泣く? 家だって近所だし、毎日お店も手伝いに来るし、子どもたちの面倒も見るよ」

 分かってる。分かってるけどお……。ついにきた巣立ちの日に冷静でいられる親なんて、私は姉だけど、とにかく、いないって。

 清人は日本での家族の話をしない。覚えてないと言うから今日まで聞かないできた。これからもたぶん聞かない。でも、彼の親御さんが、8歳で別れた息子が大きくなって結婚するって聞いたらどう思うかと想像するとたまらない気持ちになる。空でも海でも地面でも、どこかに叫んで知らせてあげたくなる。大きくなったよって。幸せになれそうだよって。そう言ったら清人は笑った。

「ヒカリ姉がいてくれたら、それで十分だから。日本の親までは望まないよ」

 また、そんな泣かせることを~。

 清人は泣きやまない私に呆れながら、長いこと待ってくれた。手持無沙汰になるのか、ときどき思い出話とかするから、ますます涙が止まらなくなって、泣きすぎて頭が痛くなった。

 やっと泣き止んで、お水を飲んで、息をついて、泣きすぎだねって笑った。

 それから、やっと清人の話を聞くことができた。


「家族を持とうって踏み切れたのはヒカリ姉のおかげだよ。あのとき、世界が始まった日に僕の家族になってくれて、本当にありがとう」


 号泣した。





 たっちゃんは隣の敷地に引っ越すだけなのに大袈裟だって呆れてたけど、その日の夜はぐずぐず泣く私をずっと膝枕しててくれた。太ももがびしょぬれだった。ほっぺが濡れて気持ち悪いと言ったらタオルを敷いてくれた。私の夫は優しい。

「こりゃ、サチ達が独り立ちするときは大変だな」

「どうしよう、たっちゃん。私、ちゃんと見送れるかな」

 不安になってきた。清人のことだって、結婚後に何度も新居を覗きに行くダメな小姑になりそうだよ。

「しっかり見張っててね。清人の幸せライフを邪魔するつもりはないんだから」

「分かった、分かった。心配しないでも、チビスケがお母さんのこと離さないだろうから大丈夫だろ。名前、また考えないとな」

「うん。今度こそたっちゃんの案で決めたい」

「ヒカリの方がいい名前思いつくと思うけどなあ」

「二人の子だもん。たっちゃんのエッセンスもいれたいの!」

「エッセンス……」

「真剣に考えてね」

「おう……」

「ぐう」

「あ、寝た」

 たっちゃんの脚は細いから、膝枕の寝心地はあんまりよくないけどずっと頭を撫でてもらうのが気持ちいいから好き。寝たふりをしてすっかり甘えた。清人が巣立っても、子どもたちが大人になっても、たっちゃんが変わらずにいてくれたら、私は大丈夫かな。




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