梁河~ラジオが流れる風景~
梁河。
昭和の佇まいが広がる商店街を梁河駅の方へと向かい歩くると、梁河橋が見える。
「あった」
私は思わず呟いた。
その橋のたもとに、古びた木造の小屋、桟橋にくたびれた舟がある。
年老いた船頭がぷかりとキセルをふかした。
日の光に透過した紫煙がゆっくりとあがっていく。
小屋の上にくくりつけられたラジオからは古い浪曲が流れていた。
感度が悪いのか、ジージーと時折、歌の合間でブツ切れにノイズが走る。
「あの」
私はおずおずと船頭に話しかける。
深い皴の刻まれた老人は、薄らと微笑んだ。
「のるんかんも(乗る?)」
「?」
私は早口で言った老人の話が聞き取れなかった。
「あの」
「舟にのると」
「はい」
私は理解出来た言葉に頷いた。
「おいでめせ。ばってんがの、今日はあつかけんが、きつかったら言ってはいよ(いらっしゃい、でも、今日は暑いからきつい時は言ってくださいね)」
「おねがいします」
私はぺこりと頭をさげると、老人はゆっくりと立ちあがり、ラジオの浪曲に合わせて歌い始めた。
お世辞にも、うまいとはいえない。
曲が終わると、老船頭はラジオを消して、私を舟へ案内する。
私が舟に乗ると、ぐらりと揺れる。
「ゆっくりね」
老人は笑いながら慣れた手つきで竿を持つと、すいーっと舟は川を走り出す。
「どっから来めしたか」
・・・あれ、私はどっから・・・来たんだ。
「・・・あれ」
「そでしたか」
船頭はすべて承知のかのように小さく頷いて、無言で舟を進める。
・・・あれ、あれ・・・。
私の頭の中で、さっきのノイズ混じりの浪曲がずっと聞こえる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ま、ゆっくりしていきんしゃい」
突如覆われた私の心のような白霧の中を、舟はゆっくりとゆっくりと進んだ。
このあたりで今年の夜話を締めましょう。
いや~ラジオってテーマは難しいですね。
完結まで読んでいただき感謝です。