狂気的クーデター
大都市「シルヴァン」。
超大型の大都市で、もはや一つの国と言っても過言ではない。
人間とロボットはもちろん、獣人や魚人などの多種族、そして他の惑星からやってきた宇宙人たちもこの都市に住んでいる。
それぞれが共存し、助け合って生きている。
場所はシルヴァンのG地区にある小さなラーメン屋。
「ヘイ、お待ち!」
ブタのような顔をした異星人の店主がラーメンの入ったドンブリを人間の少女に渡す。
「わはぁー、ありがとう!」
そう言うと少女は割り箸を割る。
ピッタリと真ん中で割れなかったが、特に問題はなさそうだった。
「いただきまーす!」
少女はラーメンをすする。
とても美味しそうだ。
「そういえば、ライブって今日だっけ?」
店主が少女に聞く。
少女は話すためにラーメンを飲み込んだ。
「うん、この後に向かうつもり。」
そう言うと再びラーメンを食べ始めた。
数分後、完食した少女は店主に代金を渡す。
「んじゃ、また来るね!」
そう言って店の扉を開けて外に出る。
「アニーちゃん、ライブ楽しんでなー。」
店主は手を振りながら彼女を送る。
"アニー" と呼ばれた少女も手を振りながら扉を閉めた。
「さてと、行くか。」
少女・アニーは走り出した。
・・・しかし、食後だったので走るのをやめて歩き出した。
場所はD地区にある巨大なドーム。
ここでは有名なミュージシャンなどがライブを行ったりする。
アニーはここに向かっていたのだ。
今日はアニーの大好きな歌手のライブがある。
当然ドームの中は人で一杯だった。
人間、ロボット、獣人、魚人、宇宙人。
沢山の種族がライブを楽しみにしている。
しばらくしてライブが始まった。
舞台の上では歌姫・エイリアがその美しい歌声を披露している。
とても優しく美しいその歌は聞くモノを虜にする。
アニーもその一人。
それから数十分後、エイリアが5曲目を歌っている最中の出来事だった。
突然外から爆発音が聞こえたかと思うと、一瞬の地震が起きた。
当然会場はざわつき、エイリアも歌うのをやめてしまった。
そのまま曲が止まった。
次の瞬間、ドームの巨大なスクリーンに映像が映し出された。
そこには一人の謎の人物と、背後で壁に貼り付けられている男性が映された。
「ハッハッハッ、ごきげんよう! シルヴァンの愚民の諸君よ!」
謎の人物は、謎のテンションで、謎の台詞を吐いている。
台詞から察するにこの映像はシルヴァンの全域に放送されているようだ。
「さーてさてさてさて、コチラの人物は皆さんご存知でしょうね。」
謎の人物は背後で貼り付けられている人物に映像を注目させた。
その映像を見たドームの人々は驚愕していた。
それもそうだろう。
映像に映された貼り付けられている人物は、このシルヴァンを治めている「都市王」と呼ばれているトップの人物 "アルカス王" であった。
「そう、この都市の王様よ! 王様、帝王、王将、キング!!」
謎の人物は落ち着きのない動きでアルカス王の前でウロウロしている。
そして再び画面中央に立った。
「さてさて、本題に入ろう。」
謎の人物はサムズアップをしたかと思うと、親指を自分に向けた。
そして「ニヤッ」と笑う。
「ワガハイの名は "デストラ" 。 新しくこのシルヴァンの王となる者だ。」
その言葉を聞いてドームにいる人々はさらにざわつく。
そしてデストラと名乗った人物は喋り続ける。
「お前たち愚民は、これからはワガハイの言うことをなんでも聞くようになるからな!」
するとデストラの背後にまた違う謎の人物が現れた。
頭を包帯で覆い、顔が全く見えない人物。
謎の人物はアルカス王の隣に立っている。
そしてデストラはニヤニヤしながら再び口を開く。
「もし、ワガハイの命令が聞けないと言う奴は、こうなるぜ!」
デストラの言葉と共に、背後にいる謎の人物が持っていた刀を鞘から抜いた。
そしてアルカス王に斬りかかった。
次の瞬間、アルカス王の頭が地面に落ち、切断された首からは大量の血が流れ出した。
当然ドームの中では悲鳴などの叫び声があがる。
とてつもないショッキングな映像が都市全体で流れてしまっていた。
「ハッハッ、これにてワガハイたちのクーデターは大成功だぁー!!」
するとデストラはどこからか出したクラッカーの紐引っ張って盛大に鳴らした。
手前で楽しそうにしている男と、背後で首無しの死体が映されているこの映像はとても狂気に満ちていた。
「んじゃ、侵略を開始すんぜ! ハッハッハァー!!」
デストラは高笑いをして、手前に手を伸ばした。
そして自分を映していたカメラを地面に叩きつけ、映像は途切れた。
ドームはもはや、ライブを再開できる状態ではなかった。
数分後、街中では民間人はパニックに陥っていた。
色々な人々がどこかへ走り去っていき、警察官が落ち着くように声をかけても聞きはしない。
ドームから出てきたアニーは、そんな街の様子に混乱していた。
本来なら最高の日になるハズだったであろう今日という日が、最悪の日になろうとしているのだから。
とりあえずアニーはF地区に向かおうと走り出していた。
F地区には家族と住んでいるアニーの家があるからだ。
そのためにはまず電車に乗る必要があった。
このD地区に来る際も電車を利用していたからだ。
歩きで行くとかなり時間がかかってしまう。
アニーは駅に向かっていた。
しかしアニーは近くの茂みの中へ飛び込んだ。
なぜなら駅の中から大量の武装集団が現れたからだ。
おそらくデストラの仲間だろう。
「ヒャーハッハッハッハッ!!」
そんな笑い声を上げながら空に向かってマシンガンを乱射する武装集団。
そして近くにいる民間人に暴行を働く。
すると倒れた民間人をどこかへ連れ去っていく。
助けようにも相手が多すぎるため、アニーにはとても手出しはできず、ただ茂みの中から見ているしかなかった。
アニーは見つからないように別の道から逃げ出した。
どうせ駅は利用できないと判断し、歩いて家に帰ることにした。
街中には武装集団が歩き回っている。
見つかったら一巻の終わりだろう。
隙を見てアニーは細道を通る。
そして全速力で道を走り抜けた。
その時だった。
アニーは前方にある「ナニカ」にぶつかって尻餅をついた。
「ナニカ」の正体は赤いロボットだった。
近くにもう一体青いロボットがいて、合計二体のロボットがアニーの前にいる。
「オンナノコ ダ。」
赤いロボットが人差し指をアニーに向けてそう言う。
すると青いロボットも近付いてきた。
「コイツ モ トラエル?」
青いロボットが赤いロボットに話しかける。
すると赤いロボットが腕を組んだ。
「ロウドウリョク ガ ヒツヨウ ダト でらりす ハ イッテイタ。」
「ナラバ トラエル ホウ ガ イイノカ?」
二体のロボットは腕を組んで考え出した。
なにが起こっているか訳が分からないでいるアニーだったが、このロボットが敵なのはすぐに理解した。
二体が考え出している今がチャンスだと思い、すぐに逃げ出した。
「アッ マテ!」
「トリアエズ ツカマエテ カラ カンガエヨウ!」
二体のロボットはアニーを追っかける。
ガシャンガシャン という音を立てながらアニーを追いかける二体のロボット。
アニーは後ろを向く暇がなく、音だけが耳に入ってきていた。
アニーは近くの曲がり角を曲がった。
しかし、それは大きなミスだった。
なぜならそこは行き止まりだったからだ。
後ろを向くと二体のロボットが近付いてきている。
「オトナシク シタホウ ガ エエデ。」
「サモナイト イタク シチャウヨ。」
どんどん距離を縮めてくる二体のロボット。
アニーは恐怖で座り込んでしまった。
絶体絶命。
そう感じていた。
すると、急に青い方のロボットが倒れた。
よく見ると、背中から煙が出ていた。
どうやら背中に銃かなにかで攻撃を受けたようだった。
「ナニヤツ!」
赤いロボットが振り向くと、ロボットの顔面に蹴りが飛んできた。
赤いロボットの頭は吹っ飛んだ。
アニーは恐る恐る顔を上げた。
すると、目の前には一体の銀色のロボットがいた。
「ダイジョウブか?」
銀色のロボットはそう言うと、アニーに近付いてきた。
そして手を差し出した。
「タスけにキた。 もうアンシンだ。」
そう言ってアニーの手を掴み、彼女を立たせた。
これが人間の少女・アニーと、ロボット・ヴァリアントの出会いだった。