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波乱



部屋を片付けている内に、とうとう式の時間が迫ってきた。

これから体育館で入学式、その後、教室でHR(ホームルーム)といった流れだ。俺は携帯電話1つ持って部屋を出た。


体育館は校舎の西側、寮の反対側に位置している。

校舎の中を通れば横断できる筈だが、まだ通ることはできないようで、生徒は皆、もと来た道、正門の方へと歩いていた。

そして、寮の入り口で1人その光景を眺めていたところ……


「ねぇ!一緒に行かない?

友達か先に行っちゃったからさ〜」


横から話しかけられた。声がした方を振り返ると、そこには

茶髪でショートの可愛らしい女子生徒が微笑んでいた。

背は低く、声がでかい。

初対面の俺に話しかけてくる所を見るに、あれだ。

いわゆる陽キャというやつだろう。

言うまでもなく俺の苦手なタイプ。

でも友達は欲しいし、どうしたもんか。


「ん、どうかしたの?」


「あーいや、分かった。一緒に行こう」


結局俺は人間関係の構築を優先し、

2人で体育館の方へと歩き始めた。


「了承してくれてよかったぁ。

私、"不破(ふわ) 茉莉(まつり)"。君は?」


飛鳥馬(あすま) (れん)だ。よろしく」


「おっけい飛鳥馬くん!ちなみにクラスは?」


「αクラス」


「おおっ、同じクラスだ!奇遇だね〜」



まさかの同じクラス。

これで席が隣、みたいな漫画展開は勘弁してほしいが……


「中学は何処だったのー?」


一般的な常識では、小学校や中学校には通っているもの。

事前に学校名くらい調べておくんだったな。

ここは濁しておくのがベストか。


「田舎者だから大した学校じゃないよ」


「へぇ〜。なら部活は?何入ってたのー?」



部活に入る規則がある可能性もある、か。

帰宅部というよりは、具体的に何か言った方がいいな。


「…バスケ部だった」


「おお!かっこいいね〜。ちなみに私はテニス部!」


会話のコツは話題を広げること。テニスか。

確かあの漫画の主人公は初めた頃……


「テニスって力加減が難しそうなイメージがあるな」


今は漫画の知識を引っ張り出すしかない。

地雷を踏んだら、またその時考えよう。


「そうだねー、初めは難しいかもだけど、用は慣れだよ!

私はここでもテニス部に入るつもりなんだけど、

飛鳥馬くんはどこか入りたい部活決まってるの??」


「まだ決めてないな」


「そうかいそうかい。では旦那、テニス部に来ませんかぁ?」


「気が向いたらな」


「ちぇ。つれないな〜」



体育館までの道のりは思ったよりも長く、

しばらくの間、会話に奮闘する時間が続いた。



__________________________________________



「あっ!友達が呼んでるからまたあとで!」


丁度体育館に着いたところで、俺が返事をする間もなく、

不破はこちらに向けて手を振る友達の元に駆けていった。

そして俺は


「疲れた」


思わず感情を口に出して、

コミュニケーションの難しさと大変さを痛感していた。


体育館の入り口には分かりやすいようにスーツの男性が声を上げて座席の説明をしながら立っていた。

どうやら席はクラス毎に纏まる必要すらなく、自由らしい。

早くも2人以上で話している生徒が多い中、俺は1人虚しく体育館の中へと入る。

中には赤い絨毯(じゅうたん)が中央の床一面に轢かれており、

その上にパイプ椅子が並んでいる。

正面のステージには様々な花が飾られた大きな生け花が並び、

背後の白い壁には、黒一色で2頭の龍が描かれていた。

互いに睨み合うその姿は大迫力で、思わず呆気に取られた俺は着席してからも無意識にもその絵を眺め続け、

気がつけば会場は静まりかえり、式が始まっていた。

静寂の中、ゆっくりと歩く若い男は、

コツコツという音を響かせながら壇上に上がった。

見たところ、30代くらいの細身の男。

身長は170cm前後といったところだろうか。

表情や仕草は一見穏やかだが、その中には力強さがある。

徳川というからには皇女の親族か。



「初めまして。私は、東亜学院学園長の徳川 (たける)だ。

まずは何万人という受験者の中から、合格という名の勝利をもぎ取ったことを心から祝福する」



合格者が150人ってことは中々の倍率だな。

ちなみに倍率というのは受験者数を合格者数で割ったもの。

単純に10倍なら10に1人、100倍なら100人に1人の割合で合格しているということだ。他の学校がどうかは知らないが、

おそらく異常な倍率だろうな。



「そして、4年後にまた会えることを願っている」

 


どういう意味だ。



「では、前置きはこれくらいにして。東亜学院の特殊制度

"ELD(イーエルディー)"について順を追って説明する」



送られてきた書類にあったやつか。"当日に説明"としか書いてなかったから大して気にしてなかったな。



「気づいた者もいるかもしれないが、君たち1人1人には、既に

実力に見合った分の現金を支給している」


現金…


「加えて、君たちにはこれより電子マネーの使用を禁じ、全てにおいて現金を使用してもらう。初めは戸惑うかもしれないが、しっかりと全ての店に対応させているから、今日にでも試してみるといいだろう」


会場が少しざわついた。

まあ、それもそのはず、現金でしか使用できないということは食事や娯楽、衣服の全てを学校側から支給された分で賄う必要があるということ。大きく生活に関わってくる。

すぐにでも支給された額を確認しないといけないな。



「そしてELDとは、嬉戯(ゲーム)を使ってその現金を奪い合う制度のことを指す。規約(ルール)は単純。


1.嬉戯(ゲーム)では、自作したオリジナルの物を使うこと。

ただし、使用するには学校に申請し、許可を得る必要がある。


2.双方が嬉戯を受諾した場合、

基本的に仕掛けられた側、victim(ビクティム)が使用する嬉戯を選択し、仕掛けた側、robber(ロバー)が金額を指定する。


3.敗者から勝者へ指定された金額が移動する。


4.所持金が0になった者、規約を破った者は進学権を剥奪した後に退学とする。


以上、4つだ」


エリート揃いとはいえ、ついこの前まで普通の中学生。

唐突なカミングアウトを受け、ざわついていた筈の会場は

瞬く間に静寂へと移り変わった。


「語源は黄金卿を表す、El Dorado(エル・ドラード)

文字通り、力ある者ならば誰でも大金を得ることが可能であることから名付けられている。が、力なき者は去る他ない。

皆、此処にいる全員が各地方のエリートであることを忘れないように、そして、決して油断することが無いように

精進して貰いたい」



疎な(まばら)拍手の中、学長はゆっくりと段を降りた。

拍手が疎なのは多くの生徒が理解に意識を傾けていたからだろう。俺はこの先待ち受けるであろう波乱を予期しながらも

気付かぬ内に口元を歪めていた。


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