クラス発表
(これじゃ、寮というよりマンションだな)
目の前に聳え立つ(そびえたつ)は規則的な構造をした左右対称の白くお洒落な高層建築。おそらく10階以上あるだろうそれは、道に沿って真っ直ぐにいくつも並んでいた。
ひと学年150人いるんだ。寮の数も多くなるわけだ。
1つ1つの寮はローマ字のAから順に名前がつけられており、正門の遠い方から同様の順番で並んでいる。
俺の寮は奥から3番目にあたるC棟だ。
俺は早速、中に足を踏み入れる。1階は全面がロビー。
ちょっとしたソファとテーブル、エレベーターと階段。
あとは名前と部屋番号が書かれた郵便用のポストがある。
俺の部屋は8階の810号室。俺はエレベーターに乗り込み、『7』と『閉』のボタンを押した。
ボタンの表記は15番まで。
つまり、寮は15階建てということだ。
丁度中間に位置する俺の部屋は何とも言えない場所だな。
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エレベーターを降りると、すぐそこには校外の風景が見えた。
どうやら部屋の扉が並ぶ廊下は外部に剥き出しになっており、校舎の真反対、つまり敷地の外壁沿いに位置するらしい。
俺は親鸞の風景を横目にいよいよ自分の部屋に辿り着いた。
扉は黒く、ポストとドアスコープが取り付けられ、金色の文字で小さく部屋番号が書かれただけのシンプルなデザイン。
そんなことを思いながら、学校資料と共に家に郵送されてきた金属製の鍵を鍵穴に差し込み、捻って扉を開ける。
足元だけが照らされた薄暗い玄関は何だか幻想的だ。
(今日から此処で暮らすのか……)
そう心の中で呟きながら靴を脱いで中へと踏み込むと、足の裏に冷たく、ひんやりとした感覚がある。
木目の模様からてっきり床は木でできていると思っていたが、
俺の実家に使われている木材とは感触が全く違う。
木の模様をした石なのか、木に何かを塗っているのか、何せまた俺の知らない物。この調子で行くと、一般常識のレベルに持っていくまで、思ったよりも時間が掛かりそうだ。
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10分後。ひと通り部屋を確認し終えた俺は、家から寮に送っておいたダンボール箱から荷物を取り出していた。
確認したところ部屋の数は4つ。
風呂が備えられた洗面所、リビング、トイレ、そして寝室。
玄関から入って突き当たりがリビング。他の3部屋は、廊下から枝分かれする様に配置されている。
持ってきた本は目立たない寝室に置いておこう。
予め言っておくが、断じて薄い本ではない。
あ、そういえば、8時過ぎにクラス発表があったな。
俺は作業の手を一旦止め、ひんやりとした床に仰向けになって携帯のアプリから東亜学院のHPを検索、生徒番号を入力して生徒専用ページへとログインした。
そこには、目次として部活動や学校行事、学校紹介など、いくつかの項目が表示されているが、どれも詳しいことは書かれていない。おそらく建設されたばかりというのが原因だろう。
いや、それはそうと今はクラス分けだ。
通常の学校であれば、同世代に知り合いの居ない俺にとってクラス分けなんてどうでもいい話だが、
東亜学院には"クラス序列"なるものが存在する。
内容はその名の通りだが、一応説明すると、誰の目にも分かるようにクラスの優劣を公表するという制度のこと。
平たく言えば順位付けだ。
この手のシステムは漫画やラノベでよく見かけるが、これは対象の競争意識を高めるのに非常に効果的、かつ"周囲の目を気にして生きている"という人間の心理をついた非常に合理性の高い仕組みだ。
東亜学院の場合、クラスは全部で5つ。
"今は"序列の高い方から順に
α(アルファ).β(ベータ).χ(カイ).δ(デルタ).φ(ファイ)
と並んでいる。
ちなみに、"今は"というのはこの先βクラスが1位に上がったり、δクラスが降格したりと変動の可能性があるからだ。
それから、入試の成績上位者=αクラスではないらしい。
まあ、これは考えてみれば単純な話だ。
実力者が特定のクラスに固まるということは、
入学時点でクラス序列が決まったも同然だからな。
だがここで、こういう反論もあるだろう。
"何年も時間があるんだから、
成長して追い抜くかもしれないだろう"と。
勿論下位の者が成長すれば上位者を上回ることも可能だろう。
が、残念なことに上位者は下位の者以上に成長する。
不思議に思うかもしれないが、これは環境の問題だ。
毎日勉強ばかりしている人間の中に混ざれば、嫌でも勉強するようになるし、遊んでばかりいるダメ人間の中に混ざれば、
勉強など疎かにして一緒に遊びに行くことになる。
故に、入学時点では各クラス、実力が均衡するように
クラス分けがなされているというわけだ。
そして、これを踏まえると…
"じゃあ、クラス分けなんてどうでもいいじゃん"
そう思った人も多いことだろう。事実俺もそう思っていた。
エレキバスの降り際、
電光掲示板に流れた1つのニュースを見るまでは。
『徳川皇女、東亜学院への進学を発表』
これがその内容。そしてクラス分けが重要である理由だ。
調べた所、徳川紗は血縁で王となったのではない。
能力があり、才があり、器があるからこそのもの。
おそらく同世代ではトップクラスの頭脳を持っているだろう。
つまりだ。
彼女と同じクラスかどうか、これがかなり重要になってくる。
普通に考えれば、学校側は平等性を考慮して徳川紗のクラスに入試成績下位の者を集めるだろうからな。"入試を受けていない"俺に対する学校側の評価が少しは分かるかもしれない。
(親父に詳しく話を聞いておくべきだった…)
まあ、それは置いといてまだ出てこないのか。
実は少し前から、φクラスから順に名簿を確認しているんだが
χクラスまで来て未だに俺の名前が無い。
また徳川紗の名も同様に。
そして、
「お、ようやく出てきた」
徳川紗はβクラス。で、俺は……αクラスか。
詳しいことはまだ分からないが、
下位よりは高い評価を得られているのかもしれないな。
親父め、まさか金の力じゃないだろうな…