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出会い



俺は階段を降りながら使い方をひと通り確認した。

どうやら携帯というのはアプリケーション、通称アプリと呼ばれる特殊な機能を持つデータをインストールすることで自由にカスタマイズすることができるらしい。

また、アプリにはかなりの種類があり、将棋やチェスといったゲームから写真やメール、電話といった日常生活に便利なツールまで幅広い物があった。中でも興味深いのは検索アプリ。

これは現代知識の塊だ。今の俺にとっては最重要だろう。


俺はいくつかのゲームと検索アプリをインストール。すぐに検索アプリを起動して東亜学院までの道のりを調べた。

距離は東に35km。ここからだと、先日教えられた通りエレキバスに乗るのが1番早いらしい。

バス乗り場は徒歩数分の場所。

俺は左右にそびえ立つ巨大な建物を眺めながら歩き始める。


ちなみにお金には現物が無く、全て電子化されている。

単位は円。これはアメリカやイギリスと共に三帝を創り上げた英雄国である日本をモチーフにしたんだろう。

携帯を開いてすぐに目に留まった"money(マネー)"というアプリを開いた時、"10000円"と大きく表示された。

つまりこれが今の俺の所持金。

俺の中では10000円というのは価値が高い、と認識しているんだが、一応物価も調べておかなきゃな。


バス停に着いてからは"エレキバス 乗り方"と検索し、ひと通りのマナーを確認。そうしている間にバスがやってきた。

フォルムは教科書に載っていた昔のものと似ているが、色はシルバーとブラックのメタリックカラー。

ロボット感があって結構カッコいい。

エレキバスは少しずつ速度を落として静かに目の前で停車。前後に1つずつ備えられた扉が同時にゆっくりと開いた。

2つある扉の内、後ろ側は乗り込む扉。前側は降りる扉だ。


俺はアプリmoneyを開いてQRコードを表示。乗り込む際に、後方の扉から入ってすぐの壁面に埋められた機械にかざした。この操作によって"何処から乗ったか"という情報を読み取り、降りる際には、前方にも同様に取り付けられた機械に再度QRコードをかざすことで自動的に料金が支払われるらしい。


中に入ると、俺と同じ制服を着た学生が男女1人ずつ。スーツを着た男性が2人。あとは若いカップル2人が座っていた。

今の時刻は7時半。入学式の前に寮をゆっくり確認しようと思ってかなり早く家を出たんだが、こんなに早く東亜学院の生徒と会うことになるとはな。

俺は人の少ない後方の席、窓際に腰を下ろした。

到着までの時間は30分ほど。

景色を楽しむか、見たことのないゲームをやるか、最近の流行をチェックしておくか、やりたい事だらけで色々と迷ったが、とりあえずは外を眺めておくことにした。


しばらく高層建築の並ぶ景色が続き、飽きてきた所だったが、ようやく違う物が見えてきた。



海だ。



どこまでも続く海面が太陽の光を反射させ、波打つ度にそこが輝いて見える。実際に見るのは初めてだからか、俺の目にはすごく幻想的に映る。いつか泳いでみたいもんだな。

俺の座る反対側の席の窓を見ても海が見えるということは、どうやらバスは今、橋の上らしい。

俺は携帯で地図を表示して現在地を確認する。


なるほど。

今向かっているのは太平洋の上に建つ埋立地。

つまりは人工島だ。そしてその巨大な島の名が"親鸞"。首都となっているらしい。更に言うと親鸞には今まで学校が1つも無く、昨年初めて東亜学院が建設されたそうだ。

国の中枢機関が集中する親鸞には勿論、この国の皇女、徳川紗の住む皇居もある。

三帝競争決定と徳川紗考案の東亜学院設立が同時期に行われている上、東亜学院の建設場所は皇居のある親鸞。

偶然じゃなさそうだ。




___________________________________________




「本日9時より東亜学院の入学式です。そろそろ私にも東亜学院建設の裏の目的を教えて頂けませんか?

私と紗様の仲じゃないですか」


皇居の一室にてそう口にするのは和服姿の少女。

髪は肩にかかる程度の長さで色は漆黒。

それ故か、透き通った蒼色の目が星のように映えて見える。

徳川家に仕える使用人の1人だ。


「そうですね。"アンナ"にならもう伝えてもいいでしょう。

私はある人物を探している」


優しい口調で答えたのは徳川紗。

広大な一室。その窓際にある煌びやかな椅子に背を預け、どっしりと腰掛けていた。こちらに背を向けて、光が差し込む窓の外を眺めながら、ゆっくりとその秘話(ひわ)を語り始める。


「ある人物、ですか?」


「順を追って話しますね。アンナは知っていると思いますが、私は生まれて間もない頃から英才教育を施されてきました。その内容は様々で、身体を鍛えるスポーツ競技から頭を鍛える勉強まで、幅広いものがありました。

そしてその中でも特に重要視されていたのが、"ゲーム"」


「ゲーム……」


「ゲームといっても頭を使う類のものです。将棋やチェス、囲碁にオセロ。その道のプロが存在する頭脳ゲーム。

アンナも少しはやったことがあるでしょう?」


「教育に良いというエビデンスが出ているものばかりでしたから、その辺りのものは私も小さい頃よくやらされてました。

戦略性があって面白かったですし、私は結構好きでしたね」


「私も好きでした。特に将棋は」


「はあ。でも、どうして将棋なんです?」


「将棋のプロだった父に触発されたんですよ。

私は負けず嫌いでしたから、毎日の様に挑んでいました。

父は政治の片手間に8大タイトル。

竜王,名人,王位,王座,棋王,叡王,王将,棋聖の全てを獲得し、

"棋神(きじん)"という名で慕われていた。

国民の父への信頼の起源は将棋といっても過言ではない程に」


「凄い人ですね」


「ええ。ですから言わずもがな、そんな父と日々戦っていた私は強くなりました。そしてある日、私は大会(トーナメント)に出てみたいと父にお願いをしてみたんです。

父との対戦は負けてばかりでしたから、ほかの人と戦ってみたいと思うのは当然です。

が……父には断られました。

私には生まれた時から皇女という役目がありますから、

当時まだ国のトップではなかった父とは違い、万が一にも負けることは許されない。考えてみれば当然の話です」


「じゃあ、諦めたんですか?」


「まさか。"プロに勝つことができれば大会に出てもいい"と、条件付きで承諾を得ました。プロとは勿論父の友人。

1ヶ月に1度、家に来て頂いて手合わせをしていました。

相手は6段。普通の子供では到底敵わない相手です」


「6段…。それは、無理難題じゃないですか?」


「ええ。

父は私が勝つことなど無いと思っていたのでしょうね。

まあ、5歳の頃に勝ちましたが」


「さ、さすがですね」


この話を聞いてアンナは思わず苦笑した。

5歳で6段に勝利。

将棋未経験者にこの異常性は分かりづらいだろう。

分かりやすく例えるならば、

小学生が大学受験に合格したくらいの衝撃。

勿論、決して誇張などではない。


「本題はここからです。私が探し人と初めて出会ったのが、この将棋のトーナメント会場でした」


___________________________________________



トーナメント開始時刻の数時間前。

当時5歳の徳川紗は1人、会場である大部屋へやってきた。

実力外の要素で敗北するという事象を防ぐため、父にあらかじめ未知の環境に慣れておくように言われたのだ。

私は集中力を高めるため、誰もいないであろう時間を狙って行部屋を訪れたました。が、扉を開けたそこには……



1人の子供が座っていた。



歳は私と変わらない様に見える。

髪が短い所を見るに男の子だろうか?

一度は出直そうかと考えましたが、1人くらいなら気にならないと判断し、私は部屋の中へと足を踏み入れた。

室内には将棋盤を乗せたテーブルが綺麗に並び、奥の壁は一面ガラス窓。眩い太陽が差し込むと共に森林が覗いていた。

子供は私に気づいていないらしく、黙々と将棋盤に駒を並べていた。それを見た私は、少し離れた位置に腰を下ろした後、同じように駒を並べながらこの空間に身を慣らすことにした。





そしてその30分後。

駒を動かしながらイメージを繰り返していた時、



「君も大会に出るの?」


「ふぇっ!?」


嘘、気づかなかった…。

背後から不意に声を掛けられたから変な声が出た。

こういう事が起きるから1人がいいんですよ。

私は平静を装いながらも何とか返事をした。


「、なんでしょう?」


「え、いや、君も大会に出るの?」


「そうですけど、」


「じゃあさ、練習で1回やってみない?」


差をつけすぎると自信を失わせてしまう。

接戦を演じて、ぎりぎりで勝つ……うん、これなら私も多少は準備運動になるし、この子も大丈夫な筈。よし、


「いいですよ。遊んであげます」


「あ、ありがとう」



こうして子供同士のちょっとした練習試合が始まった。



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