01:いつも通りの朝
工藤藍乃は、幼い時に親友だった麻生星南と別れた時の夢を見た。
夢の中でさえ悲しくて、起きたら涙まで流して。まさに、最悪の朝である。
だが、藍乃はどこか少し、頭の足りない所があった。
だから、もう7年は会っていない彼のことを、「なんで今思い出すんだろう」なんて思わなかった。
これがまさか再会の前触れだなんて、思いもしなかったのである。
藍乃にとって、悪い夢を見た以外には、その日はいたって普通の朝だった。
アラームを5分おきに鳴らし、ご飯は抜いた。
いつものように大学に行くだけだからいいよね。と、髪も一括りにして。
そこで、藍乃は肝心なことを忘れてしまっていた。
気づいたのは、授業中。
「あ......っ!」
ハッとして小さく声を吸った。
隣にいた、大学のたった1人の友達・カレンは藍乃を見て目を丸くする。
「藍乃......どうしたの、急に。」
「カレン......」
さっきも言ったが、この子はたった1人の友達である。
友達付き合いが苦手な藍乃は、大学で作れた友達がこの子しかいない。
カレンもまた、自分としか話しているところを見たことがない。
だが、彼女は容姿端麗で、ショートカットが似合うクールな顔をしている。
男女ともに、人気が高く、歩いていれば私もついでに見られるような......そんな子だ。
作ろうと思えば友達なんか沢山作れるはずなのに。
どうして自分と一緒にいてくれるかは、謎である。
でも藍乃は、カレンの無口だけど隣で支えてくれるような、そんな温かさが好きなのだ。
「カレン、どうしよう.....。.今日、バイトの面接だった......」
「......」
藍乃は頭を抱えた。頭がパンクしそうで、授業中じゃなかったら、大声で叫んでいたはずだ。
「へぇ......どこ?」
藍乃の第一声はそれだった。
藍乃は「塾だけど......」と答えながらカレンの方を見ると、グッドラッグとでも言いたげに親指を立てていた。
「ひとごとで片付けないでよ!」
カレンは、面倒なことが嫌いだ。
藍乃がご飯を抜くように、彼女も面倒くさいことには関わらない。
「私、面接なのに見て。いつもと同じ格好、いやそれ以下!しかもご飯を抜いた!」
「......派手よりは良いよ。」
「本当にそう思う?」
藍乃の言葉に、カレンはこくんと頷いた。
「でもカレン。面接に受かりたくて派手に来る人なんて、いるかな?」
「......じゃああんたが見た目最下位だ、藍乃。」
「うわあああっ、無理ぃぃ」
せめて化粧だけでもしたいが、ポーチは家に置いてきてしまった。
今から取りに行って果たして間に合うだろうか。いや、授業を抜け出しても間に合わない。
___ 藍乃は、大学四年生だ。
四年は授業も少ないし、友達付き合いが苦手だから、対人関係を学ぶためにも塾が最適だと思ったのに。
まさかこんなミスをしてしまうなんて。
「藍乃。」
藍乃を呼んだカレンは、ガサゴソとカバンを漁る。
彼女の横顔は、やっぱり綺麗だ。
「これしかないけど。」
「......カレン!」
カレンが差し出したのは、色付きのリップ。
彼女もまた、普段は化粧をしない。だがそれは彼女が綺麗だからだ。
しないというより必要がないという感じ。
そんな彼女といると、自分がカレンだったらな、と思わずにはいられなかった。
「これ、使っていいの?」
「......それは、あの、藍乃がいいなら、」
カレンは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
なんで彼女は優しいのだろう。
綺麗で可愛くて純粋な上に優しいなんて......!
藍乃は感激せずにはいられず、思わずカレンの両手を包み込んだ。
「ありがとう!私の天使!」
「......」
そんな感謝にカレンは何も言わず、ただ咳払いをして顎で前を指した。
私がそっちに目線を向けると、教授とばっちり目があってしまう。
再びカレンを見ると、可笑しそうに口をぎゅっと結んで震えていた。
私はこの時、何も知らなかった。
知ってたならもっと準備を......いや、行かないことだってできたのに。
こうやって、彼と再会してしまうなんて____。