第311話 テントで夜を明かす
「勇者様、少し休憩しますか?」
ビアンキが俺に訊ねてきた。
「ん、俺は別にどうでもいいぞ」
俺が返すと、
「あたし休憩したーい」
ローレルが声を上げる。
「っていうかお腹すいたー」
「そうね。お昼ご飯まだだったものね」
「じゃあ、ここらで昼休憩にするか」
エライザもそう言うので俺たちは大きな岩の陰にシートを敷いてそこに座ってお昼ご飯をとることになった。
「あっ、俺ご飯とか何も持ってきてないんだけど……」
不思議な袋の中に入っていた缶詰めはもうすべてなくなってしまっている。
何か買いだめしておけばよかった。
後悔していると、
「大丈夫ですよ勇者様。私がお弁当を作ってきましたから」
ビアンキがバッグからバスケットを取り出す。
「わーい、ビアンキのお弁当だーっ」
ローレルは喜んだかと思うと俺をキッとみつめ、
「ビアンキのお弁当が食べられるなんてすっごくありがたいことなんだからね、感謝しなさいよねっ」
自分が作ったわけでもないのに恩着せがましいことを言ってきた。
「はいはい、わかったよ」
このあと俺たちはビアンキの作ったお弁当をみんなで分け合って食べてから、少し休憩したのち再びゴンズの町目指して歩き始めるのだった。
☆ ☆ ☆
五時間後――
「今日はこのへんで野宿をしましょう」
辺りも暗くなってきた頃ビアンキが口を開いた。
ビアンキたちは持っていたバッグからシートを取り出して地面に敷く。
そしてテントを張り始めた。
「何してるのよ。あんたもテント用意したら?」
不思議そうな顔でローレルが俺を見る。
「あー……そういえば、俺テント売っちゃったんだったな……」
所持金がゼロだった時に透明テントというアイテムを金貨五枚で売ってしまったのだった。
「もしかして勇者様、テントを持ってきていないのですか?」
「うん、まあ……」
「寝袋は?」
「それもない」
「ふんっ、まぬけめ。この辺りは昼は暑いが夜は途端に寒くなるぞ。テントも寝袋もなしではお前、死ぬかもな」
呆れたような口ぶりでエライザが言う。
そう言われると少し肌寒い。
「まいったな、どうするか……」
不思議な袋の中を覗き込むが服とタオルとミネラルウォーターくらいしか入っていない。
仕方ない、服を大量に重ね着するか……。
そう考えていたところ、
「勇者様、私のテントに入りますか?」
ビアンキが口にした。
「え、いいのか?」
「勇者様が死ぬのをむざむざ見過ごすわけにはいきませんから」
「駄目だよ、ビアンキっ。男と一緒に寝るなんて何されるかわからないよっ」
「いくらこいつに仕えているとはいってもわたしもそれに関しては断固反対だっ」
ローレルとエライザはビアンキを思いとどまらせようとする。
……俺って信用ないんだな。
「でも勇者様を見捨てるわけにはいかないわ」
「だからってビアンキがこいつと一緒のテントで寝るなんて駄目だってばっ」
「なあ、俺なら服を重ね着するからいいよ」そう言おうとした時だった。
「仕方がない、わたしがサクラと一緒のテントで寝よう」
エライザが言い出した。
「「エライザっ?」」
ローレルとビアンキが声をそろえる。
「わたし相手ならこいつもおかしなことは考えないだろう。それに万が一の場合は斬り落としてやるからな」
何をだ……?
「お前もそれでいいな?」
「いや、まあ俺はどうでもいいけどさ……」
最悪、飛翔魔法で一人でどっか暖かいところに行くという手段もあることだし。
「次の冒険までにはテントくらい用意しておけよ」
「ああ、わかった。そうするよ」
こうして俺はエライザのテントで一緒に寝させてもらうことになった。
☆ ☆ ☆
晩ご飯を済ませてみんなそれぞれテントに入っていく。
「じゃあおやすみ、ビアンキ。おやすみ、エライザ」
「ええ、おやすみなさいローレル、エライザも」
「ああ、二人ともおやすみ」
俺は誰からもおやすみと声をかけられることもなくエライザのあとからテントに入った。
一人用のテントなだけあって中は狭かった。
しかもエライザは俺よりかなり背が高い。
二人して反対向きに横になるといやでも背中やお尻が当たる。
「おい、サクラ。もっと離れろ」
「やってるけどこっちももうギリギリなんだよ」
「まったく……もういい、寝ろ」
そう言うとエライザは眠ってしまったのかそれ以降言葉を発することはなかった。
幸いなことに俺もエライザも寝相がよかったようで翌朝俺たちは寝た時と同じ格好のまま目覚めたのだった。
『レベリング・マーダー』
という小説も書いているのでよろしくお願いいたしますm(__)m




