第303話 協力
「すみませんでしたっ」
エリーさんは村長さんの家に集まっていた大勢の村人たちに頭を下げる。
「だから言ったこっちゃねぇ」
「おらたちは初めっからよそもんは信用できなかったんだ」
「金返せっ」
村人たちはエリーさんに強い言葉を浴びせた。
エリーさんはただ黙って頭を下げている。
と、
「もう一日だけ待ってみようじゃないかえ」
村長さんが口を開いた。
「この冒険者さんにもう一回託してみよう。わしはそう思うておる。皆の衆だってこのままじゃ困るじゃろ」
「それはそうだが……」
「ほかにいい案があるかい?」
「「「……」」」
村長さんの発言で村人たちは押し黙る。
「冒険者さん、お願いじゃ。冒険者さんに見捨てられたらわしらは死ぬしかのうなる。だから諦めんでくれ」
「はい、もちろんですっ。今日こそは必ず牛を守ってみせますっ」
村長さんに手を握られたエリーさんはそう声に出して誓うのだった。
☆ ☆ ☆
「サクラくん、ちょっといいかしら」
村長さんの家の二階の部屋に戻るとエリーさんは俺に話しかけてきた。
「はい、なんですか?」
「昨日はわたし一人で平気だって言ったけどもしよかったら今晩の見張り一緒に付き合ってもらえないかしら」
少し言いにくそうにしながらもエリーさんは続ける。
「これがわたしの依頼だってことはよくわかっているし、あなたには関係ないことだってこともよくわかっているわ。でも今日は絶対に失敗するわけにはいかないの……どうかしら?」
エリーさんは上目遣いで俺を見た。
「別にいいですよ」
「えっ、ほんとっ? いいのっ?」
「はい。俺も何か手伝えることがあったらしたいなぁって思っていましたし乗り掛かった舟ですから」
「あぁサクラくん、ありがとうっ」
エリーさんは俺の手を握って心底ほっとしたような顔をする。
「じゃあ今晩は二人で見張り頑張りましょうねっ」
「わかりました」
こうして俺はエリーさんと一緒に牛を見張ることになった。
☆ ☆ ☆
その夜――
村の入り口付近で木の陰に隠れて気配を消す俺とエリーさん。
「まだ特に何も起こりませんね」
「そうね」
小声でささやき合う。
今のところは牛が逃げていく姿も不審者が入り込む様子も一切ない。
「昨日牛の鳴き声が聞こえたのはちょうどいまくらいの時間でしたけど……」
「わたしがなぜか眠ってしまった頃ね」
「ええ、まあ」
エリーさんはなんで眠ってしまったのだろう。
何か理由があるはずだが。
もしかして何者かに眠らされてしまったとか……?
そんなことを考えていた時だった。
何やらいい香りが風に乗ってやってきた。
俺はふとエリーさんを見る。
するとエリーさんがうつらうつらしていた。
「エリーさん、エリーさん」
「……ぅぅん……」
俺の呼びかけになんとか返答するもまぶたが重そうだ。
「エリーさん、どうしたんですか?」
「……な、なんか、すごく眠……」
そこまで言うとエリーさんは全身からがくっと力が抜けて地面に寝ころんでしまった。
「なんだ一体……?」
俺は周囲を見回す。
特に怪しい人などはいない。物音もしない。
だがそんな矢先、
『ウウウ……』
暗がりから何かが聞こえた。
俺はその方向を目を凝らしてじっとみつめる。
『ウウウ……』
「ん? もしかして、魔物か……?」
俺は前方にいた魔物のような物体に識別魔法をかけた。
すると、
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催眠キノコ――胞子をまき散らして相手を眠りにいざなう。食欲旺盛で雑食。弱点は火炎魔法。
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魔物の情報が目の前に表示される。
「こいつが家畜を盗んでいたのかっ?」
というか食べていたのかっ?
俺と同じくらいの背丈の催眠キノコは体を揺らすと大量の胞子をまき散らした。
いい匂いとともに風に乗って胞子が俺に浴びせられる。
「こほっ、こほっ……」
だがエリーさんと違って俺は眠気に襲われることはなかった。
おそらくだが俺の持っているスキル、【状態異常無効】が効いているのだろう。
俺は催眠キノコに向けて手を伸ばす。
そして、
「……ス、スキル、火炎魔法ランク10っ」
てのひらから特大の炎の玉を催眠キノコめがけて放った。
『ウウウゥゥゥ……!?』
炎に飲み込まれる催眠キノコ。
闇夜に煌々と炎が燃え上がり辺りが明るく照らされる。
炎がかき消えると催眠キノコは影も形もなくなっていた。
《佐倉真琴のレベルが5上がりました》
「ふぅ~……これで一件落着なのかな」
地面に横たわってすやすやと寝ているエリーさんを見下ろしながら俺は一人つぶやくのだった。
「あ~……俺もなんだか眠くなってきたなぁ」
『ダンジョン・ニート・ダンジョン ~ダンジョン攻略でお金が稼げるようになったニートは有り余る時間でダンジョンに潜る~』
という小説も書いているのでよろしくお願いいたしますm(__)m




