第292話 セイレーンの町
ベスパの町からセイレーンの町まではおよそ五十キロの遠い道のり。
だが俺は飛翔魔法を覚えていたので地上の景色を眺めつつわずか十分足らずでセイレーンの町へとたどり着いた。
「ここがセイレーンの町か……ベスパより落ち着いたところだな」
ゴブリンの群れがいつ襲ってくるかわからないからか町の人たちはどことなく元気がない。
それと反比例してセイレーンの町の広場に集まっていた冒険者たちはやる気に満ちていた。
「今から腕が鳴るぜぇっ」
「ゴブリンどもを根絶やしにしてやるっ」
「これだけ集まってれば余裕だなっ」
広場には三十人近くの冒険者がいてそこここで剣や槍を磨いていたり素振りをしている。
すると一人の冒険者が集団の前に出て声を張り上げた。
「みんな聞いてくれっ。おれはゼスト、A級の冒険者だっ」
「おい、あいつA級だってよ」
「オレ知ってるぜ。最近A級になったばかりの奴だぜ、たしか」
「A級の奴もこの依頼受けてたのか……」
「てっきりB級とC級しかいないと思ってたぜ」
冒険者たちがざわつく中、ゼストと名乗った男は続ける。
「見たところこの町に集まっている冒険者の中で一番ランクが高いのはおれのようだっ。だからおれが今回の作戦のリーダーに名乗り出ようと思うが異論のあるやつはいるかっ?」
静まり返る広場。
俺の隣で冒険者たちがゼストさんに聞こえないように、
「別に異論なんかないよな」
「ああ、今回は参加するだけで金貨十枚だからな。リーダーなんかやりたい奴がやればいいさ」
小さな声でささやき合う。
「ないようだから今からおれがリーダーだっ」
今回の依頼はゴブリンの巣となっている洞窟内のゴブリンたちの一斉退治。
ホブゴブリンやゴブリンソーサラー、下手したらキングゴブリンがいる可能性もあるので参加資格はC級以上の冒険者に限られているのだが俺はF級ながらリムルさんの計らいで今回の依頼に特別に参加させてもらっているのだった。
参加報酬は一人につき金貨十枚。
F級の俺にとってはおいしい依頼だ。
「よし、では作戦を発表するぞっ。明日の朝おれたちは一斉にゴブリンのいる北の洞窟に攻め入るっ。ゴブリンはおれたちにとっては敵じゃない。だからみつけた奴がそれぞれ倒すことっ。そしてホブゴブリンはC級、ゴブリンソーサラーはB級の冒険者が引き受けてくれっ。万が一キングゴブリンがいた場合は絶対に手出しはするなっ、おれを呼べっ。おれが責任をもって必ず倒してやるっ」
さすがA級の冒険者というだけあってゼストさんは自信満々に言い放った。
その後もしばらくゼストさんの話は続き俺の意識がぼんやりとしてきた頃お開きとなった。
その夜はセイレーンの町の旅館のご厚意で俺たち冒険者はただで旅館に泊まることが出来た。
懐が寂しい俺にとってはそれはかなりありがたかった。
☆ ☆ ☆
翌早朝。
俺たちはゼストさんの号令のもとセイレーンの町の北にある洞窟前に集まっていた。
俺を含めて総勢三十三名。
そのほとんどがC級とB級の冒険者でA級の冒険者はゼストさんただ一人。
「さあて、じゃあゴブリン退治といこうじゃないかっ!」
「「「おおーっ!」」」
相手がゴブリンということもあり若干お祭り気分で盛り上がる冒険者たち。
みんな手にはたいまつを握り締めている。
「ゴブリンたちを根絶やしにするぞ、みんな、おれに続けーっ!」
「「「おおーっ!」」」
そしてゼストさんの合図とともに全員一斉に駆け出し、その勢いのまま洞窟の中へと入っていくのだった。
☆ ☆ ☆
俺は集団の最後尾からついていっていた。
洞窟の中はかなり暗くてたいまつがあっても一メートル先もよく見えない。
「おらぁっ!」
『ギギギャ……!』
「死ねこらっ!」
『ギギャッ……』
前を行く冒険者たちのかけ声とゴブリンの悲鳴だけが聞こえてくる。
洞窟内部は道が蟻の巣のようにいくつもわかれていて冒険者たちもばらばらにわかれて進んでいった。
それにともなって俺の周りのたいまつの数が少なくなっていく。
「はっ!」
『ギャッ……』
『ギャッ……』
俺は目の前に現れたゴブリンたちを返り討ちにしながら入り組んだ通路を突き進む。
そして洞窟に入ってから五分後のこと――気付けば俺はほかの冒険者たちとはぐれ、洞窟の中で一人きりになってしまっていた。
『Sランクパーティーを追放された鍛冶職人、世界最強へと至る ~暇になったおっさんは気晴らしに作ったチート武器で無双する~』
という小説も書いているのでせめてブクマだけでもよろしくお願いいたしますm(__)m




