第238話 いざ、日本へ
俺の帰還魔法によってアーリャのボディーガードたちやマリアつきの黒服たち、金で雇われた傭兵たちを含め全員無事地上へと帰還することが出来た。
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ノアの箱舟――「アンテ」と唱えると巨大化する。中には多くのものが収納でき、温度や鮮度を保ったまま永遠に保存しておける。もう一度「アンテ」と唱えると小さくなる。
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「真琴、それ何?」
アーリャは俺が手に持ったアイテムを不思議そうに眺めて言う。
「ん、これか? これはウロボロスのドロップアイテムだよ。ノアの箱舟っていってどんなアイテムでも入れた時の状態のまま保存できるらしい。秘密の言葉を唱えるととっても大きくなるんだ」
「わぁお。ハラショー!」
手を叩き喜ぶアーリャ。
さっきまで魔物に捕まっていたとは思えないくらい元気だ。
「マヤさん、これどうしたらいいですかね?」
「それはもちろん佐倉様がウロボロスを倒して手に入れたものですから佐倉様がお持ちになればよろしいかと。ついでに温い無のダンジョンのクリア報酬も佐倉様のものですよ」
「いいんですか? 俺、マリアたちを助けに来ただけなのになんか悪いような気がするんですけど……」
俺が少々気兼ねしていると、
「そんなことより佐倉様、せっかくロシアに来られたのですからマリア様のご両親に会っていかれてはいかがですか?」
マヤさんがそんなことを言い出した。
「え、それはなんでまた……?」
「そうですわっ。それがいいですわよっ」
マリアが追随する。
「お父様もお母様も真琴様に一度会ってみたいと言っていましたからちょうどいいですわっ。わたくし専用のジェット機でこれから一緒にモスクワに向かいましょう、真琴様っ」
「えっ、モスクワに行くのかっ? 今から?」
「はいですわっ」
マリアは目を輝かせてうなずいた。
「いや、それはちょっと……」
ウラジオストクからモスクワまでって一体何時間かかるんだ……?
大体人見知りの俺がマリアの両親に会って何を話せと言うんだ。
そんな状況を考えただけで胃が痛くなってくる。
「ちょっとなんですの?」
「いや、マリアの両親に挨拶するのはまたの機会でいいかな。うん」
「なんでですの? きっとお父様もお母様も喜んでくれますわよ」
「ほら、せっかくマリアが助かったんだから家族水入らずにさせてあげたいんだよ。なっ? キューンもそう思うだろ?」
俺は助けを求めるようにキューンを見た。
『ん? おいら、よくわかんないや』
俺の気持ちを全然察してくれようとしないキューン。
こういうところは所詮魔物か……。
……仕方ない。
「キューン、腹減ったろ。家に帰ったらカニの缶詰めいっぱい食べさせてやるぞ」
『えっ、ほんとっ? だったら早く帰ろうマスター。おいらお腹ぺこぺこだもんっ』
「そっか。キューンがそう言うなら帰るかっ」
『うんっ』
「え、ちょっと、真琴様っ?」
マリアが慌てだすが俺は飛翔魔法で宙に浮き上がる。
キューンも俺についてきた。
「じゃあ、マリア。そういうことだから俺たちは日本に帰るよ」
「ちょっと真琴様っ。待ってくださいませっ」
「マリア、元気でな。アーリャもまたなっ」
『ばいばーい』
俺とキューンはそれだけ言うとマリアたちを残して空高く舞い上がる。
そして「真琴様ーっ!」と地上から聞こえてくるマリアの声を背に俺たちは日本へと向かって飛び立った。
☆ ☆ ☆
「うー、寒っ! キューン、寒いからとっとと帰りたい。もっと飛ばすぞ。ついてこれるかっ?」
『じゃあおいら、大きくなってもいい?』
「大きく? うーん……」
俺は考える。
キューンが体長十メートルを超える巨大なドラゴンの姿になっても問題ないだろうか、と。
……まあ、いいか。
俺は寒さで頭が回らなかったので「ああ、好きにしろ」とキューンに伝えた。
『わかった。だったら……』
と言った直後キューンは一瞬で巨竜に姿を変えてみせる。
『グオオオアアアァァァーッ!!!』
そして横にいた俺の鼓膜が破れるんじゃないかというほどの咆哮を上げるとキューンは超高速で俺を抜き去って飛んでいってしまった。
「おいおい……あの状態になると理性がどっか吹っ飛ぶのか……? まったく」
俺は超高速で移動するキューンの背中を全力で追いかけるのだった。
――今回の獲得賞金。
ノアの箱舟の買い取り価格……二千五百万円
温い無のダンジョンのクリア報酬……三千万円
計五千五百万円也。




