第164話 マジカルスライム
俺たちはヒーリングシードの木から百枚以上の薬草と魔草を摘み取るとそれぞれ持っていた不思議な袋とバッグの中にしまった。
「これでMPの心配はしなくてもいいな」
「そうですね。それにだいぶ休めたのでわたしのMPもほとんど回復していますし」
俺たちは半日ほどの休憩を終えて再度ダンジョン探索に繰り出すことにした。
「スキル、透明化っ。スキル、忍び足っ」
硬い畝のダンジョン地下八階を透明になった高野とともに練り歩く。
その途中マジカルスライムが単体で襲い掛かってきた。
おそらくランク2か3程度の火炎魔法を口から連続で飛ばしてくる。
俺はそれを手ではじきながら近付くとマジカルスライムを叩き潰した。
《佐倉真琴のレベルが16上がりました》
【経験値1000倍】と【必要経験値1/100】の効果によって俺にとっては雑魚に過ぎないマジカルスライムを一匹倒しただけでレベルが面白いように上がる。
「真琴さん、せっかく【透明化】と【忍び足】使ってるんですから弱い魔物くらいはわたしに倒させてくださいよ~。マジカルスライムくらいだったらわたしでも余裕で倒せるんですからね」
「あー悪い。じゃあ次出たら高野に任せるよ」
「はーい、わかりましたっ」
高野は元気よく答えた。
高野のレベルは現在82。
高野としても上げられるときにレベルを上げておきたいのだろう。
するとちょうどそこへぴょんぴょんとマジカルスライムが突き当たりの通路の左側から飛び出してきた。
ここは高野に任せるか。
そう思い俺は一歩身を引く。
「……」
透明になっているので俺にも見えないがおそらく高野は無言でマジカルスライムの背後に回って隙をうかがっているはずだ。
マジカルスライムは俺のことしか見えてはおらず俺に対して大きく口を開け火炎魔法を放とうとしてきた。
とその時、「えいっ!」という声と同時にマジカルスライムの口が閉じた。
高野がマジカルスライムを上から強く踏んづけたのだろう、マジカルスライムは自らの火炎魔法を口の中で燃え上がらせる。
『フィギィー……!?』
火だるまになり転げまわるマジカルスライムに高野はとどめとばかりに、
「シュートっ!」
マジカルスライムをサッカーボールに見立てて思いきり蹴飛ばした。……と思う。
壁に激突して地面にのびるマジカルスライム。
そしてそのままこと切れて消滅していった。
「ほら真琴さん、余裕ですよ余裕っ。見てくれてましたかっ?」
と高野の声が前から聞こえる。
正直透明になっていて足音も聞こえないので高野がどういう動きをしたのか想像することしかできないが、
「ああ。じゃあこれからは弱い魔物は全部高野に任せるよ。それでいいか?」
「オッケーです」
「それじゃ頼むな」
俺はとりあえず高野の気分を害さないように適当に返しておいた。
とそこへぴょんぴょんと再びマジカルスライムが現れた。
俺が口を開くより早く、
「わたしがやりますから手を出さないでくださいねっ」
高野が声を上げる。
好きにしろよ。
俺がマジカルスライムから顔をそむけたその時だった。
「きゃあっ!? 真琴さん、助けてくださいっ!」
助けを呼ぶ声がした。
その高野の声で振り返りみると通路いっぱいにさながら洪水のようにマジカルスライムがどどどっと押し寄せてきていた。
「げっ!? た、高野、どこだっ?」
「むぎゅ~っ……こ、ここです~っ!」
声はするがただでさえ透明でどこにいるかよくわからないのに数百匹はいるであろうマジカルスライムの波に飲み込まれていてまったく居場所が把握できない。
「高野っ、自力で出てこれるかっ?」
「む、無理でふ~っ!」
無理でふってなんだよ。俺はついにやけかけるがいやいや、これは笑い事じゃないなと素に戻る。
マジカルスライムの大群くらい火炎魔法でも電撃魔法でも氷結魔法でも使えばどうとでもなるが一緒に高野まで殺してしまいかねない。
俺は通路目いっぱいにぎゅうぎゅう詰めになっているマジカルスライムの塊を眺めながら手をこまねいていた。
「どうしよ……」
するとつぶやいた次の瞬間だった――
引っ付き合っていたマジカルスライムたちがまたたく間にうにゅうにゅと融合していき、一体の巨大で真っ赤なスライムに姿を変えたのだった。
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