第110話 しばしの休息
九つにわかれた道に戻ると、
「これ、下の階への階段があるのは左から二番目の道なんだよ」
と人志さんが教えてくれる。
伊達に何十回と潜ってはいないな。
俺は人志さんと綾子さんのあとに続いて左から二番目の通路を先へ先へと進んでいった。
途中キラービーやサンドドラゴンが襲い来るがそれらを人志さんと綾子さんの二人は見事な連携プレーで倒していく。
二人は俺のことをかなり過小評価しているようで「サンドドラゴンは佐倉くんには荷が重いから下がってて」とか「わたしたちの後ろに隠れててね、大丈夫だからっ」とか言ってくる。
顔と名前が世間に広く知られてしまった今となってはこの状況は珍しい。
……だが不思議と嫌な気はしない。
☆ ☆ ☆
しばらく歩いていると人志さんの言った通り階段が目に入ってきた。
「さあ、この下が地下二階だよ。準備はいいかい?」
人志さんが俺を見やる。
「はい、大丈夫です」
俺はさっきからずっと大丈夫なのだが。
「よし、じゃあ行こうか」
「ええ、行きましょ」
「はい」
これまで通り俺は二人のあとについて階段を下りていく。
後ろから襲われる可能性も考えて綾子さんはしんがりを務めると申し出てくれたのだがそれでは二人の連携が取りにくくなってしまうということでその考えは諦め綾子さんは現在俺の前を歩いている。
綾子さんたちの背中を眺めつつ俺はつくづくいい人たちに出会えたなと感じていた。
☆ ☆ ☆
長い砂のダンジョン地下二階。
綾子さんの探知魔法で魔物の位置を把握しながら通路を進む。
前方に複数体の魔物がいる時はその道を避けて単体でいる魔物を狙ってこれを倒し二人はレベルを上げていく。
綾子さんが発破魔法で魔物を弱らせ人志さんがとどめを刺したかと思えば今度は人志さんが剣で魔物に斬りかかりそのとどめを綾子さんが刺す。
そういった具合に二人はうまく魔物を返り討ちにしていった。
その間俺はというとまるでお姫様のように大事に扱われ戦闘に参加することは一切なかった。
☆ ☆ ☆
俺は人志さんと綾子さんに守られながら長い砂のダンジョン地下三階、四階、五階と危なげなく下りていき六階に下り立ったところで、
「少し休憩しようか?」
人志さんの計らいで少し休むことにした。
俺はここまでの労をねぎらう気持ちと感謝の気持ちを込めて缶コーヒーを二人に差し出す。
「これ、よかったらどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとう、佐倉くん。気が利くわね~」
以前はパーコレーターを使ってコーヒーを淹れて飲んでいた俺だったが段々面倒くさくなってきたので最近は缶コーヒーで済ませていた。
それでも二人は喜んでくれたようなのでなによりだ。
缶コーヒーに口をつけながら人志さんが、
「そうだ佐倉くん。もし仮眠したかったら寝袋があるからね」
話しかけてきた。
さっきまで背負っていたリュックサックを指差す。
「その中に入ってるから使っていいよ」
「あ、ありがとうございます。でも寝袋なら俺も持ってるんで大丈夫です」
「ん? 寝袋なんてどこに持ってるんだい?」
人志さんは俺が大きな荷物を持っていないことを不思議がって訊いてきた。
「実はこれなんですけど……」
俺は腰に下げていた白い小さな袋を外すと二人に見せながら説明する。
「不思議な袋っていって中にいくらでもものがしまえるんですよ。だから寝袋だって、ほらっ」
と言いながら俺は不思議な袋の中からにゅうっと寝袋を引っ張り出してみせた。
「おおっ。なんだそれっ、すごいね」
「へ~、便利なアイテム持っているわね。それもダンジョンでみつけたの?」
「そうですね。ボスのドロップアイテムです」
アダマンタイトという魔物が落としていったものだ。
「ボスって佐倉くんが倒したのかい?」
「はい、まあ」
「へ~、佐倉くんもやるじゃない」
「ありがとうございます」
多分二人とも低ランクのダンジョンだと思っているのだろうが。
このあとコーヒーを飲み終えた俺たちは仮眠をとることもなくすぐにダンジョン探索を再開した。
『ダンジョン・ニート・ダンジョン ~ダンジョン攻略でお金が稼げるようになったニートは有り余る時間でダンジョンに潜る~』
という小説も書いているのでとりあえずブクマだけでもよろしくお願いいたしますm(__)m




